ギルドからの依頼

 おれたち『暁の刃』は、英雄的ドブさらいを片づけた(まあ、サバンさんに多少手伝ってもらったのだが)あと、サバンさんに連れられて、またまたギルドの応接室に来ていた。

 こうなると、もはやおれたちは、ギルドのVIPといっても過言ではないのではなかろうか。


「それにしても……どうして、ああなるかなあ?」


 サバンさんが言う。


「まったくです……」


 と、顛末をきいたアリシアさんも言う。


「いちばん危険度の低い、ドブさらいのクエストが、なぜ、魔獣ハーヴグーヴァとの戦いになってしまうのか……」


 あきれたように、


「どう考えても、ありえないですよ」


 おれたちは小さくなっている。


「「「すみません……」」」

「まあ、お前らが悪いわけじゃないんだろうけどなあ」


 サバンさんは頭を振って、


「おまえら、ひょっとしてなにか呪われてるんじゃないのか?」


 真面目な顔でおれたちをみつめた。


「「「そ、そんな……」」」


 おれたちは震え上がった。


「まあ、それは冗談だ」


 すぐに、にやりと笑う。


「呪われた冒険者がここに来れば、すぐにギルドの魔導師が気づくからな。少なくとも呪いではないな」


 いや、冗談でそんなこと言われても、おれたちにとっては冗談ではない。


「で、おれがお前たちに用があると言ったのは、例の、古墳の件だ」

「ああ!」


 おれは聞いた。


「で、どうでした? へんな古墳だったでしょう? それであの可哀想な——ハモンドさんでしたか、なにか判明しましたか?」


 サバンさんは渋い顔をして


「それがなあ……」


 アリシアさんも


「それがねえ……」

「えっ?」


 サバンさんが続ける。


「けっきょく、たどりつけなかったんだよ」

「へっ?」

「さっそく、あの二人、つまりフローレンスさんとバルトロメウスさん、おれ、そしてギルドの魔導師の四人で、おまえたちに描いてもらった地図をたよりに出かけたんだが……」

「はい」

「見つからないんだよ、あの古墳が……」

「ええっ、そんなはずは……」

「ちゃんと地図描きましたよ、おれらが行ったとおりに」

「いや、そこは疑ってない」

「わかった!」


 おれは声を上げた。


「サバンさん、地図を上下逆に見てたのでは」

「はあ? ばかばかしい、お前じゃあるまいし」

「そうだよ、アーネスト。そんなことするのは、世界広しといえどもお前ぐらいのものだ、失礼だぞ」


 おい、ヌーナン、その言いぐさは、おれには失礼ではないのか。


「なんらかの隠蔽の魔法がかけられていないか、魔導師に確かめさせたが、だめだった」

「だめだった?」

「もし、魔法により古墳が隠蔽されているとしたら、それは恐ろしく高度な魔法で、そうとうな大魔導師でないとなんともならないというんだ」

「あっ、ルシアさまに頼めば、ちゃちゃっと」

「それはおれも考えたんだが、今、あの『雷の女帝のしもべ』の人たちは、この地に不在なんだ」

「四人とも?」

「そうだ」


 サバンさんは厳しい顔になった。


「この世界の存亡がかかる重大な事案のために、先日、旅立ったのだ」

「あの人たちが、全員でかかるような……」


 まちがいなく、とんでもない事態だろう。

 なんとも、おそろしいことだ。

 その場の全員が、しばし沈黙した。

 やがて、その沈黙をやぶるように、サバンさんが


「それでおれは思いついた」

「さすがです!」


 おれはすかさず合いの手を入れたが、


「まだ何も言ってない」


 と、にらまれた。

 いや、なにかサバンさんがすごいことを言うような気がしたのだ。


「たいした案じゃない。というか、もう最低の案だとは思うんだが、ここに至ってはやむを得ん」

「それはいったい……」

「お前だ」


 サバンさんは、いきなり、おれを指さす。


「ヒエッ! む、無理です!」


 おれは、すくみあがって言った。


「だから、まだ何も言っていないって」

「で、でも……」

「わたしたちギルドとしても、これは最後の手段です」


 とアリシアさん。


「な、なんなんですか?」


 おれはドキドキしながら聞いた。

 サバンさんはおもむろに言った。


「アーネスト、お前に地図を持たせる。おれたちはそのあとをついて行く。お前の、そのとんでもない能力が頼りだ」


 なんだって! おれが頼りだって?!


「そうですか! わかりましたっ、まかせてください!!」


 おれは、テンションがあがって、大声を出した。

 そうか、ついにおれの実力が、みんなに認められるときが来たのだ。

 まあ、じゃっかん遅きに失するきらいはあるけどな。


「「ええーっ?」」


 と、パルノフとヌーナンが声を上げた。


「そんなことして、だいじょうぶなんですか」

「なにしろ、こいつは」


 何を言っているのだ、お前ら。

 見ろ、サバンさんの確信に満ちた顔を。


「まさに、そこだ。まともにいったらたどりつけないんだ。まともでない手段でいくほかない」


 サバンさんが重々しく断言した。


「ムカシモウコジャコウソウを見つけたり、時の鐘を手に入れたりした、地図を逆に読むアーネストの能力に賭けるのだ」

「「なるほど」」


 二人が納得し、アリシアさんもうなずく。

 なにか釈然としない部分もあるが、とにかく、おれにかかる期待は大きい。

 おれは全力を尽くすことを心に誓った。


 出発は翌日の朝ときまった。

 おれたちは、本日の英雄的クエストの疲れを癒やし、明日の探索に向けて鋭気をやしなうため、ギルドをあとにした。

 ドブさらいの報酬ももらったが、これがまた思いもよらない大金になっていた。ハーヴグーヴァと戦う羽目になったところを加味してくれたのだそうだ。まあ、多少サバンさんに手伝ってもらったが、命がけでがんばったのだから、遠慮しないでもらっておこう。


 エミリア、おれたち、またまた稼いじゃったよ。このままだと、お前が帰ってくるころには、おれたちは大金持ちになっちゃってるぞ……。

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