魔道具ハンター、グレアム・ハモンド
しばらくして、ギルドからおれたちのところに、連絡があった。
例の、古墳の中で死んでいた魔道具ハンターの関係者が、町に到着したという。
急いでギルドに行くと、アリシアさんが、例によって応接室に案内してくれた。
おれたちが、うながされて部屋に入ると、それまでソファに座っていた二人の人物が、さっと立ちあがる。
一人は、長身、長髪の、ヒト族の若い女性で、もう一人は、ずんぐりとした体格の、風格のある老人。こちらはみたところドワーフ族だった。
「おう、お前ら、来たか」
とサバンさんが言い、おれたちを、その二人に紹介する。
「こいつらが、さきほど話した、冒険者パーティ『暁の刃』の連中ですよ。右から、リーダーのアーネスト、そしてパルノフとヌーナン、見ての通り、駆け出しのへなちょこだ。あと、『暁の刃』には、女魔導師のエミリアもいるが、いまは別のクエストで出張中なんですよ」
今、絶賛売りだし中のおれたちを紹介するに当たって、いきなり、へなちょこはないと思います、サバンさん。
おれは恨めしげにサバンさんを見た。
だが、そんなおれの気持ちにはかまわず、サバンさんは話を続ける。
「あの古墳で亡くなっていた人はな、ハモンドさんといって、高名な魔道具ハンターだったんだ。そして、こちらの方が——」
すらりとした若い女性が、切れ長の目でおれたちをみて、挨拶をする。
「はじめまして、みなさん。わたしは、フローレンスといいます。あなた方が遺体をみつけてくださった、魔道具ハンター、グレアム・ハモンドのひ孫ですわ」
ドワーフの老人も、おれたちに笑いかけ
「わしは、魔道具工房の匠、バルトロメウスだ。よろしくな。グレアムは、見つけた魔道具をいつも、わしのところに持ち込んでくれてたんだよ」
「みなさん、ほんとうにありがとう。あなた方のおかげで、行方知れずだった曾祖父に、いったいなにがあったのか、少しでも解明ができるかもしれないのです——」
そういって、フローレンスさんは頭を下げた。
「「「えっ、ひ孫? 曾祖父って……?」」」
おれたちは驚いた。
「ってことは、その、ハモンドさんがいなくなったのは」
「はい、今から百十二年まえのことですわ」
そうかあ……そんな昔の人だったのか、あの首が転がった骸骨、いやハモンドさんは。
しかし、そのあと、フローレンスさんが発した言葉に、おれたちはさらに驚くことになる。
「百十二年前、曾祖父ハモンドは、伝説の魔道具を求めて旅立ち、消息を絶ちました。あの——五芒星城塞で」
「「「ええっ、
「そうです。曾祖父は、五芒星城塞に踏み込み、帰ってきませんでした。城塞の中、望楼に立つ彼の姿をみかけたという、当時の報告があります。しかし、それっきり……」
まさに、今、エミリアが向かってる場所じゃあないか!
そこでハモンドさんは、なにかたいへんなめにあって、あんなことに?
ああ、大丈夫か、エミリア?
なんだか心配になってくる。
しかし——へんだな。
なんで、そのハモンドさんの骸が、あんな古墳のなかにあるんだ?
五芒星城塞と、こことは、ずいぶん離れている。
『白銀の翼』の人たちも、馬で片道六日間はかかるといっていたはずだが?
「でも、いったいどうして、五芒星城塞に行ったはずのハモンドさんがここに……」
おれが疑問を口にすると、フローレンスさんも
「そうなんです。そこが不思議でならないのです。それで、わたしたちも、じっさいにその古墳にいってみるつもりです」
「えっ、あそこに行くんですか?」
おれは、あのわけのわからない黒い霧と、石棺の中の不気味な顔を思い出して、正直びびった。
「安心しろ、アーネスト。へなちょこなおまえたちに、またあそこに行けとは言わない」
サバンさんが、おれの気持ちを見透かすようにいった。
「この件には、ギルドの威信もかかっているからな。おれが、ギルドを代表して、この人たちに同行するよ」
「そ、そうですか……」
おれはほっとした。
それはまあ、ぜひにとも頼まれたら、おれたち『暁の刃』が力を貸すのにはやぶさかではない。
それはやぶさかではないが、なにしろ副ギルド長の狂戦士サバンさんが直々に出動するというのだから、何が来ても大丈夫だろう。
うん、おれたちが出るまでもないな。
ここは、ひとつ、お任せしておこう。
うんうん、おれたちが差し出がましいことをして、アッサリ解決してしまったら、サバンさんの面目が立たないからな。
「おまえたちに頼みたいのは、まず、その古墳への道順を教えてもらいたい。なにしろ、ギルドに残っている地図は偽装されてたからな……そして、あのおかしな古墳は、アリシアが調べたんだが、ギルドのどの記録にも載っていないときている。お前らの情報だけが頼りなんだ、頼むぞ」
「はい! 任せてください」
おれは力強く返答した。
それは、パルノフとヌーナンがうまくやるだろう。
なにしろおれは、地図をみてさえいない。
おれには、古墳の場所といわれてもさっぱりわからないよ。
頼むぞ、パルノフ、ヌーナン。
そのあと、パルノフとヌーナンは、おれたちが古墳にたどり着いた経路を、用意された羊皮紙の地図上に書き込んでいった。
古墳でなにがあったかも、再度、詳細に説明する。
おかしな壁画、石棺以外なにもない玄室、そして五角形の石棺。
「うーん……それは、ひょっとしたら、そこは古墳でさえないかもしれんなあ」
サバンさんがつぶやく。
「とにかく、あの黒い霧はヤバいです。それに、あの石棺の中にはへんな、目が突き出した顔みたいなものが……」
おれがそういうと、バルトロメウスさんの目が、ぎらりと光った。
「目が突き出した、顔、とな?」
「は、はい。すごく、おっかなかったです」
「なにか、それに心当たりでも?」
サバンさんが聞くと、フローレンスさんが
「曾祖父が、五芒星城塞で探索していたのは、『呪いの蒼仮面』というものなのですが——」
そう答えた。
「両目の眸の部分が、長く前に飛び出しているのが、その仮面の第一の特徴なのです」
バルトロメウスさんが続ける。
「最凶、最悪の呪いを放出する忌まわしい仮面だ。そもそも、この世界のものではないとも言われている」
「「「ひえぇっ!!」」」
「五芒星城塞の隠し部屋に、それが秘匿されているとの情報があってな」
「曾祖父は、とても慎重な人でした。万全の準備をして、向かったのはずですが、それが、こんなことに——」
ちょっと待て。
まさか、まさか、『白銀の翼』の人たちが探しに行った秘宝って、これのことじゃないだろうな?
おいおい、そんな、最凶最悪の呪いの魔道具を見つけにいっちゃったのか?
大丈夫なのか、エミリア!
不安がむくむくと沸き起こってくるのだった。
「まあ、古墳に関してはギルドに任せておけ。お前たちは、請け負ったクエストをこなすんだ。南大通りのドブさらいだったな。大丈夫だとは思うが、命を大事にがんばれ」
「「「はい!」」」
というわけで、エミリアのことを案じながらも、おれたちは次なる英雄的クエスト、南大通りのどぶさらいに向かったのだった。
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