エミリアと朝焼けの空


「ん……んんん……?」


 気がつくと、あたしは天幕の中に寝かされていた。体の上に、毛布がかけられている。


「目が覚めたようだね……」

「エミリア、どうだい、身体は大丈夫か?」


 アマンダさんと、ケイトリンさんが、あたしの顔をのぞきこんで、聞いてきた。


「あれから……?」

「うむ、ヒュドラーを斃したあとは、簡単だったよ。ケイトリンがエミリアを背負い、わたしとアナベルで雑魚ざこを片づけながら森を抜けた。五芒星城塞は、もう目の前だ。野営をして、エミリアが目覚めるのを待っていたんだ」

「アナベルさんは?」

「外で、見張りをしている」

「ああ、よかった……」


 あたしは、ほっとして言った。


「作戦、うまくいきましたね、なんとかヒュドラーをやっつけましたね!」

「エミリア……」


 アマンダさんが言う。


「礼を言わせてほしい……全力であなたを護るなんていいながら、わたしたちが助けられてしまったよ」

「いえっ!」


 あたしは、顔を赤くして


「たまたまです。それに、あれはわたしの最後の手段なんです。あれを使うと、今のわたしでは魔力が完全にゼロになるので、かならず気を失っちゃうんですよ」

「……魔力切れはつらいだろう、あれはすごく苦しいとオリザも言ってたぞ」


 と、ケイトリンさんがいたわるように言った。

 あたしは、笑いながら答えた。


「わたし、魔力切れには慣れてるんですよ。なんど、やったことか……」


 『暁の刃』がクエストに挑むと、そのたびになぜか(最近、それはアーネストがを立てるせいだと、わかってきたのだが)とんでもないことになって、ただでさえたいしたことのない全力をふりしぼる羽目になり、それはもう何度も何度も魔力切れを起こしているのだ。

 あたし、もう、慣れちゃったよ……。


「あんた、やっぱり、なんかすごいね……」


 とケイトリンさん。

 あたしは、この魔法を教えてくれたライラさまに感謝した。

 ライラさまは言ったのだ。


「いい、エミリア。この魔法ローリングサンダーは、今のあなたには本当は無理なの。でも、ほんとうにどうにもならないとき、なにがあっても退けないときのために、教えとく。ただし、これを使うと、そのあとあなたは間違いなく気を失っちゃうから。完全に無防備になるからね。最後の手段。よくよく考えて使うのよ……」


 今回、あたしは、そのあとのことはあまり心配してなかった。

 なにしろ、頼もしい『白銀の翼』のみなさんがいるのだから。


「五芒星城塞は、もうすぐそこなんですね」


 あたしは言った。


「ああ、もう見えてるよ」


 ケイトリンさんが言い、あたしはよっこらしょと立ち上がる。

 天幕の垂れ幕をめくり、外に出た。

 明け方の空だ。


「エミリア、もう大丈夫なのか?」


 見張りをしていたアナベルさんが声をかけてくる。

 あたしは、にこりとうなずき、そして、見た。

 視界の少し先。

 朝焼けの荒れ野にそびえ立つ、壮大な岩の城。その威容は朝の光に赤く染まり――。

 あれが、五芒星要塞ペンタゴーノンだ。

 『暁の刃』のみんな、あたし、とうとう五芒星城塞にやってきたよ!

 まあ、最後の手段を、もう使っちゃったけどね……。






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