『暁の刃』の快進撃は続く。

 さあ、次のクエストだ。

 のんびり休んではいられない。

 こうしている間にも、エミリアは、『白銀の翼』とともに、着々と目的地ペンタゴーノンに向かっている。

 エミリアにだけがんばらせて、おれたちが、のほほんとしているわけにはいかないではないか。

 なにしろエミリアに愛想をつかされたら、おれたちはたいへんなことになってしまうからな。


 ——というわけで、今、おれたちはギルドの掲示板に張り出された依頼を、慎重にチェックしているところだ。おれたち『暁の刃』にふさわしい、英雄的なクエストを探すのだ。


「おっ、これなんかどうだ?」


 おれが一つの依頼を指さすと、


「どれどれ……ん? ばっ、ばかやろうアーネスト!!」


 それを見たパルノフが激怒した。

 どうにも気が短いやつだなあ。


「おい、なんだよ、これは! 『屍山カルバリオでハルピュイアの巣を潰す』って、もうお前は!」

「いや、おれたちにふさわしい英雄的な……」

「はああああ……」


 パルノフが盛大なため息をついた。


「頼む、アーネスト。頼むから」

「ん? なんだ」

「もう少し、まともな感覚を持ってくれ」

「はああああ……」


 ヌーナンもため息をついて言った。


「なあ、パルノフ。おれたち、なんでここまで、死なずにやってこられたんだろうな……」

「ああ、ヌーナン。おれもつくづくそう思う。よくぞまあ……」

「何言ってんだよお前たち。そりゃあ、とてつもなく優秀なリーダーに率いられているからじゃないか。あ、それから」


 おれは、メンバーへの気配りを忘れずに、付け足した。


「そのリーダーを補佐する、優秀なメンバーたちのおかげでもあるけどな……」


 二人はおれをじろりと見て


「「お前、本当にそう思ってるか?」」


 同時に言った。

 お前ら、なんでそんなに息が合うんだよ。

 まあ、このチームワークが、おれたち『暁の刃』の強みだけどな、うん。

 そうおもわないか、パルノフ、ヌーナン。


 パルノフが首をふりながら、


「アーネスト、ひょっとしたら、お前のその前向きポジティブさは、見習うべきかもしれんな……」

「つねに、何の根拠もないけどな」


 すかさずヌーナンが突っ込んだ。

 槍術士なだけにな、ハハハ。

 心の中で、いつもの茶々をいれたとたん、ヌーナンが、またつまらないことを言いやがったな、そんな目でおれを見た。

 するどいやつだ。


「うーん、じゃあ、いったい、どのクエストを受けりゃあいいんだよ。おれにはもうわからないぞ」


 と、おれは聞いた。


「そうだなあ……」


 パルノフとヌーナンは、掲示を隅から隅まで調べて、


「これと……これ。まあ、こんなところかな……」

「そうだな、なかなかいいんじゃないか?」

「どれどれ……んん? 一人暮らしのばあさんの引越しの手伝いと……南大通りのドブさらい……しょ、しょぼいなあ」


 おれはそう言ったが、


「いいんだよ。前回、お札を貼るだけのクエストであんなことになっちゃったんだから、ここは無難に行こう」

「それに、こういう仕事も、冒険者としては大事だぞ。今、まさに困ってる人がいるわけだからな」

「そうだよ。途方に暮れた孤独な老婆を救う、これが英雄的な仕事でなくて、なんだ?」


 二人に説得される。

 まあ、それは確かにそうなんだが……。


「うん、お前にも理解できたな。よし、今回はこれでいくぞ、アーネスト」


 ヌーナンが依頼の紙をはがして、おれの返事を待たずに、さっさと受付に持っていく。

 そこに、優秀な『暁の刃』のリーダーの出る幕は、まったくないのだった。


「アリシアさん、今度はこれで」


 ヌーナンが紙を渡すと、アリシアさんが、満面の笑みで深くうなずいている。

 クエストはすんなり受け付けられた。

 おれが、自分で選んだクエストを持っていく時とはえらい違いである。

 おれの場合、たいていは説教される。


「じゃあ、まずは、このばあさんのところへいってみるか」

「そうだな」

「「「やるぞ『暁の刃』、おう! おう! おう!」」」


 おれたちは、やる気に満ちて、元気にギルドから飛び出したのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る