残された三人はクエストを始める。

「さあて、おれたち『暁の刃』にふさわしい、すばらしく英雄的な依頼はどれかな」


 エミリアが帰ってくる前に、おれたち自身も、しっかりレベルアップしなければ。

 そう誓ったおれたち三人は、今、冒険者ギルドに来ている。

 壁一面に張り出されている、募集中のクエストを、ひとつひとつ、慎重に吟味しているところだ。


「おっ、これなんかどうだ?」


 おれが指さす。


「なになに……『死の谷で』……って、おいっ!」


 内容を読んだパルノフが、声を荒げた。


「お前なあ……」


 あきれたように言う。


「正気かよ、アーネスト……」

「なんでだよ。なかなか、歯ごたえがありそうなクエストじゃないか」

「ありすぎなんだよ! なんだよ、『死の谷でヴァンパイアロード退治』って!」

「そんなもん、おれたちなら瞬殺だろ」

「確かに瞬殺だ。ただし、おれらがな」


 ヌーナンがつっこんだ。


「アーネスト、おまえ、なんで客観的に自分を見られないんだよ。ただでさえおれたちはなのに、今はエミリアもいないんだぞ。おれたちのヘボい物理攻撃だけで、ヴァンパイアロードなんて化け物に勝てると思うのかよ」

「あっ、そうか……エミリアはいなかったな……せっかくおあつらえ向きのクエストなのに残念だ」


 おれは悔しがって言った。


「アーネスト、たとえエミリアがいたとしても、この依頼はおれたちには無理だから!」

「いいかげん、分かれよ!」


 ごちゃごちゃとうるさいやつらだなあ。

 せっかく、優秀なおれたち「暁の刃』にふさわしいクエストだとおもったのだが、二人にそこまで言われてはしかたがない。

 おれは、壁のずっと下の方、ほとんど床につきそうな場所にちんまりと貼ってあるクエストをさして、


「じゃあ、これなんかどうだ。まあ、おれたちにはしょぼすぎるかもしれないが……」

「また変なのだったら怒るぞ!」

「とっくにお前、かんかんに怒ってるじゃないか。まあ、とにかく見てくれよ」


 そこにはこう書いてあった。


「☆おふだの張替え☆  道祖神の祠に行って、魔封じのお札を張り替えてくるだけの簡単なお仕事です。危険はほぼありません」


「しょぼいけどな……報酬もたったの2ギルダぽっちだ。これじゃ子供のお使いなみだよ」


 だから、請け負う物好きな冒険者もいなくて、長いこと放置されているようすだ。

 募集カードの貼り位置も、目につかないような端っこの方に追いやられている。

 立派なパーティは、そもそもこんな位置のカードなど見ない。

 ところが、


「「おっ、いいじゃないか!」」


 意外にも、ヌーナンとパルノフは乗り気だ。


「ええっ?」


 おれが驚くと、


「いいんだよ、こういうのがいいんだよ!」

「そうだ、こういうところから地道に始めることが、おれたちには必要だ」

「そ、そうなのか?」

「「そうだ!」」


 二人は声をそろえた。

 いや、ヌーナン、パルノフ、こんなところから始めていた日には、あの『白銀の翼』と旅をして帰ってくるエミリアには、永久に追いつけないような気もするんだが……。

 しかし、まあ、おれはこの『暁の刃』のリーダーだからな。

 リーダーたるもの、広い心を持って、へなちょこなメンバーの意向も、それなりに尊重してやらなければならないだろう。


「じゃあ、とりあえず今日はこれでいくか? はなはだ不本意ではあるが」


 二人は真面目な顔でうなずく。


「「「やるぞ! 『暁の刃』、おう、おう、おう!」」」


 おれたちは、さっそく、このクエストを受けるために、カードを剥がして受付のアリシアさんのところに持って行く。


「うんうん、そうそう。このくらいがいいんじゃない? がんばってね」


 アリシアさんは、おれたちの出したカードを見て、満足げに微笑むと、保管庫に行き、依頼者の指示が書かれた紙や、現地までの地図、何枚かまとめてひもで縛られた魔封じのお札など、クエスト用具一式を渡してくれたのだ。


―――――――――――――――――――


 ――というわけで、おれたちは、意気込んで、その祠までやってきたのだが……。


「なあ、パルノフ……」


 おれは言った。


ほこらって、こういうもののことだったっけ?」

「いや……それはちがうだろ」


 とヌーナン。


「だよなあ……」


 と、パルノフ。


「パルノフよ、お前、地図の読み方をまちがえたんじゃないのか?」


 おれがするどく指摘すると


「アーネスト、地図を逆に見ていても最後まで気づかないお前とは違う。

 目印も合っている。ここで確かだ」


 と、冷たく返された。


「そうだ、アーネスト。今回はお前に地図を持たせてない。だから、ここで確かだ」


 ヌーナンも確信をもった声で言う。

 どういうことだ。

 納得がいかないぞ。

 場所が正しいというのなら、おれたちの目の前にあるこれは、なんだ。

 この巨大な岩組。

 これは、祠と言うより、まるで、何か……誰かの墳墓ではないのか。


<危険はありません>


 なんとなく嫌な予感がしてくるのだった。


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