「白銀の翼」とエミリアの決意

「つまりな……」


 なんとエミリアだけにご指名がかかり、がっくりきているおれたちに、サバンさんが説明する。


「クエストを予定していたパーティの、魔導師が調子を崩しちまったらしい。回復にはしばらく時間がかかりそうなんだが、もう受けてしまったクエストを延期することもできない」


 いったん受諾したクエストを放棄すると、そこには違約金が発生するのが掟なのだ。

 そして、それだけでは済まず、クエストの放棄、未達成は、そのパーティの評価にも大きく関わり、今後のランクアップにも影響する。


「そのパーティは困ってしまってな……」

「それで、魔導師をさがしてたわけですか……でも、なんでエミリアが?」

「うむ……」


 サバンさんがいう。


「それなんだが……どうも、ルシアさまたちから推薦されたらしいぞ」

「えっ?」


 エミリアが驚いていった。


「どうして、あたしなんかを……」

「それで、そのパーティというのは?」


 おれは聞いた。

 なにしろ、現在絶賛売り出し中のおれたち「暁の刃」だ。

 助っ人とはいえ、あまりにショボい連中と組むのでは、エミリアがかわいそうだからな。

 あのルシアさまの推薦とはいえ、おれたちのエミリアが参加するからには、「暁の刃」の、そしてエミリアの実力にふさわしいヤツらでないとな……。


「おい、アーネスト」


 と、おれの横に座っているヌーナンが、小声でささやいた。


「お前、またなにか失礼なこと考えてないか? 客観的にものごとを見ようぜ」

「なにいってるんだ、ヌーナン。おれは何も口にしてないぞ」

「お前の考えるてことくらいすぐわかるよ、なあ、パルノフ」


 パルノフが深くうなずく。


「ああ、へなちょこなのは、どう考えてもおれらの方だからなあ」


 するどいやつらだ。

 なぜわかる。


「そうだ、パーティの名前を言ってなかったな」


 と、サバンさん。


「エミリアをご指名のパーティは、『白銀の翼』だ」

「「「「ええーっ?!」」」」


 その名を聞いて、おれたち全員が驚きの声をあげた。


「『白銀の翼』っていったら……」


 この地の冒険者で、彼女らの名を知らない者はいないだろう。

 女性の冒険者だけからなる「白銀の翼」は、難しい数々のクエストをこなし、ぐんぐんランクを上げてきている最近注目のパーティなのだ。

 その実力は一流だ。

 おれたちは、不安な顔を見合わせた。

 さすがにこれはちょっと……。

 そんなすごい連中と一緒で、おれたちのエミリアは大丈夫なのか?

 さっきとは、考えることが完全に逆になっている。

 ヌーナンも、パルノフもそこはつっこまない。

 思いはいっしょなのだ。


「なあ、エミリア……お前」


 おれが言いかけると、サバンさんも


「うむ。もちろん断ってもいいんだからな。無理する必要はないんだ」


 と、いかつい顔だが、やさしく言う。


「見込みもないのに、無謀なことをさせるわけにはいかない」


 基本、いい人なのだ。


「なあ、エミリア、サバンさんもそういってるぞ」


 だが、エミリアは


「あたし、やります」


 と、はっきりした口調で言った。

 その顔には強い決意が浮かんでいる。


「お、おい、エミリア」

「やってみたい。ルシアさまや、ライラさまが推薦してくださったんだから、がんばるよ!」


 拳をぎゅっとにぎる。

 凜々しいぞ、エミリア。

 さすがだ。それでこそ「暁の刃」だ。

 おれは、なんだか感動して、エミリアに惚れ直した。


「……まあ、でも、『白銀の翼』のみなさまが、あたしに会って、がっかりしなければ、だけど……」


 と、すぐに、ちょっと弱気になるエミリアである。



 そして、翌日には、おれたち「暁の刃」と「白銀の翼」との顔合わせが行われた。

 同じギルドの応接室である。

 先に来たおれたちが緊張して待っていると、やがて力強くドアがノックされる。


「おう、入ってくれや」


 サバンさんが言い、さっとドアが開いた。

 おれたちはあわてて、立ち上がった。

 一礼し、さっそうと入ってくる、「白銀の翼」の面々。


 おお!

「白銀の翼」。

 なんてかっこいいんだ?

 おれは、思わず見とれてしまったのだ。



*********************************



(エミリア視点)


 びっくりした。

 あたしらなんかに声がかかったのも驚きだけど、なんとあの「白銀の翼」からの依頼だったんだ。

 これは、たいへんなことだよ。

 アーネストは、あんなふうだから、本気なのかはったりなのかわからないけど、いつも大口をたたいている。アーネストの言うことを聞いていると、まるであたしたちが、とてもとても優秀な冒険者パーティみたいに聞こえるかもしれない。

 でも、あたしたちは(たぶん、アーネスト自身も)自分らのレベルがどれくらいかは、よーくわかっている。

 はっきりいって、あたしらなんか、駆け出しのへなちょこだ。

 アーネストが、考えなしにフラグをたてまくるせいで、あたしたちはもう、次々にとんでもない目にあって、そのたびに死にかけてるんだけど、どういう巡り合わせなのか、それともアーネストの悪運が強いのか、いつも、その場に、あの「雷の女帝のしもべ」の人たちが居合わせていて、助けてくれたおかげで、ここまでなんとか九死に一生を得ているんだ。

 それだけでも「雷の女帝のしもべ」の皆さまには、いくら感謝してもしきれないのだ。

 そのうえ、「しもべ」の魔導師、別名「紅の蜘蛛と蛇の魔導師」ライラさまなんかは、なぜかあたしを気に入ってくださって、あたしは、おそれおおくもルシアさま直伝の魔法を、いくつか伝授してもらったりしているんだ。

 それでもさすがに、あの「白銀の翼」にあたしを推薦するのはわけがわからないけど。

 いくらなんでもそれはないでしょう。

 アーネストが心配そうな顔で「エミリア、どうする?」って聞いてきた。

 ヌーナンもパルノフも同様だ。

 その不安げな顔が「ここは、やめといたほうがいいんでは……」と言っている。

 あたしも、正直言って不安だ。

 はたして、あたしなんかで「白銀の翼」についていけるのか。

 思いっきり足手まといになってしまうのではないか。

 でも、あたしは思ったんだ。

 自分の力をつけるためには、これはチャンスなのかもしれないって。

 あたしは、もっともっと実力をつけないと。

 あたしは、このパーティの魔導師なんだから、あたしたちの「暁の刃」のために、もっと力をつけて、「しもべ」の人たちに助けてもらわなくても、危険からみんなを守れるようにしないとだめなんだ。

 それで、


「やります!」


 なんて、思わず言ってしまったわけなんだけど。


 そして、翌日。


「『白銀の翼』だ。よろしく」


 あたしたちの待つギルドの応接室に、一礼して入ってきた『白銀の翼』のメンバーは、やはり、一流どころの凄みがあって、ほんとうに格好良かったのだ。

 アーネスト、そこでみとれて、ぽかんと口をあけてるんじゃない。

 あたし、恥ずかしいよ……。


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