三髪シュリ−4

 何あれ? 体重変えてんの? 急激なダイエットとリバウンド? あんなの踏まれたら終わりじゃない。


 私も急いで走り出したが奴らの連携は手慣れていた。


 私とは反対方向に距離を取ったカシン。その逃げた先には黒髪が回り込んでいた。


 そのまま、黒髪がカシンを殴ると店の前に置かれていた看板に激しい勢いで突っ込んだ。恐らくあっちは肩も含め、腕力強化で間違いないでしょ。


 看板の周りには人が集まったが、寝そべったカシンはそのままピクリとも動かなくなってしまった。


「っしゃぁぁあ。1人終了ぉぉ」


 大声を出す金髪と、黒髪が私に向かって歩いて来た。髪で攻撃しようとすると髪の限界距離を測られて付かず離れず一定の距離を保たれる。悔しい。負けないけど勝てない。私はこの能力の使い方とタッグ戦の難しさを思い知った。


「まだやる?お姉さん。その能力怖いけど、そのうち時間切れるよ?」


 すると、黒髪も口を開いた。


「さすがに女性に手荒なマネはしたくない。降参してくれないか?」


「そうね……」


 私は構えた髪を下ろした。


 フリをした。まさに作戦通りだった。


「それよりあなた達、対戦相手から目を離して大丈夫?」


「何っ!?」


 振り返った後ろには寝ていたはずのカシンはいなかった。


「あの攻撃を食らって動けるのか。驚いた。だが、残念だけど、またぶっ飛ばせばいいだけだ。何の問題もない」


 辺りを見渡しカシンの姿がない事を2人が確認すると再び私に視線を向けた。


 作戦はこう。カシンはわざと攻撃を受ける。その間に私が能力を発動し2人の注意を引き付ける。その後、人混みへと身を隠す。そして……


「いや、問題ありありでしょ」


「なっ……に?」


 針のように鋭く尖った人差し指をカシンは2人の首筋に当てた。


「動くと殺す」


 2人の注意が後ろに向いた瞬間、私もすかさず髪を伸ばした。前からも髪の針を突き付ける。


「手荒なマネはしたくないの。降参してくれない?」


「お前、いつの間に後ろに……?」


「分かった。俺達の負けだ」



━━━━タッグバトル━━━━


カシン・シュリVSケンタ・カエル



勝者 カシン・シュリ


━━━━━━━━━━━━━━





 しかし、驚いた。


 カシンその能力の本質は、ある程度の打撃に耐えうる【軟体化】ではない。


 獲物を仕留める時、軟体で尖らした両人差し指というごく一部を【硬質化】するという発想でもない。


 答えは軟体の体を活かした【変身能力】だった。


「あ、僕の能力なんですけど他人になりすます事です」


「まじ……?」


 アシスタントはこうも言っていた。必殺技は『身体性能の調整』だと。必ずしも身体強化のみではない。巨大化のみならず必要であれば縮小も可能だということ。


 聞くとカシンは、体の大きさや顔のパーツの大きさに大小微妙な調整を加えて、まるで整形したように変身する事が可能らしい。


 事実、その変身によってタッグ戦では一般人になりすまし、背後へと近付きスキを付くことができたんだ。


「一般人に危害を加えられない。ルールの盲点。それ、最強じゃない?」


 確かにアシスタントは必殺技は発想力が大事だって。必ずしも力の強い奴が勝つとは限らないって言ってたわよね。こういう事だったのね。


「いえ、全然最強じゃありませんよ。制約が多いんです。変身を見られてはいけないし、足の速い人に詰められてボコられたら瞬殺ですよ。ははっ」


「いやいや、笑い事じゃないよ」


「なんで、多少打撃に耐えれるようにして逃げ回りながら隠れてっていうのが戦法です。隠れるまでいけたら必ず勝てますよ」


「なるほど。ってことは……」


「はい。シュリさん引き付ける囮になって下さい」


 おい。笑顔で言うな。危ないじゃんそれ。でもきっと、それが最高の戦略。


 結果2人に勝利し奴隷にする事となった。


「俺はケンタ。こっちがカエル。俺の必殺は分かると思うが肩と腕の強化だ」


「俺は質量変化って言ってたけど、重くなったり軽くなったりできる」


 なるほど。それで風船のように浮いたり、砲弾のような衝撃があったりって事ね。


 すると、金髪のカエルは必死な様子で訴えかけてきた。


「お願いだ。殺さないで欲しい。なんなら、賞金は全て渡すよ」


「そこまで言わないけど、何があったの?」


「ヤバいグループに俺の妹が奴隷にされたんだ」


「このアプリで今ヤバいグループといえば……神ってやつ?」


 今度は黒髪のケンタが話し出す。


「違う。タイガーってグループだ。俺達はこいつの妹を救出する為に、拠点があるこの辺りでバトルしていたんだ。神も確かにヤバいがそいつらはもっと残酷だ。殺しや陵辱を快楽の為にやってるらしい」


「何それ、最低ね」


「早く助けないと妹が……」


 いつ奴隷にされたのか。カエルの表情は憔悴しているようにも見える。見た目とは違って妹思いのいいやつなのね。


「ほっとけないわね。どうする?」


 私はカシンに意見を求めた。すると、2人に話し出した。


「僕達はこのアプリから抜けられるという情報を聞いてチーム戦の優勝を目指してます。いずれは戦う敵。避けては通れません。なら……今、潰しましょう」


「決まりね」


「しかし、闇雲に戦ってもなかなか救出は難しいでしょう? タイガーに関する情報は何かないんですか?」












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