三髪シュリ−3

 私は不幸せ。


 それは今が不幸せってことじゃない。


 不幸せなのは今ある目の前の幸せじゃなく、いつかその幸せを失うかもとその先を考えてしまうから。


 ランダムで訪れる対戦の強制マッチング。死の恐怖。今までは何とか勝利してきたが、いつか勝てない日が来ると思う。すると愛娘に会えなくなってしまう。


 そんな想像をする度に、心が張り裂けそうになる。


 一体、誰がこの子の面倒をみるの?


 一体、誰がこの子の成長を見守るの?


 そんなの私しかいない。何がなんでも死ぬ訳にはいかない。


 死なない為、不幸せな未来に向かわない為にありとあらゆる情報を調べていった。


 すると、ネットでとある噂が流れている事に気付いた。


 獲得賞金100億を超える事。


 もう一つはチーム戦イベントで1位になる事だった。


 このどちらかを満たせばアプリを消去できるというものだった。


 過去にもチーム戦があったらしい。その優勝者は本当に抜けられたのかな?


 真相は分からないけど、私はデマだろうが少しでも希望があるなら、それにすがり付きたかった。


 100億かぁ。賞金が増加していくとはいえ、あと何人の罪の無い命を奪わないといけないの?


 先が思いやられる。まだ、1億にだって届かない。


 チーム戦イベントの詳細を見てみると賞金増加がこれまでの10倍の1000万。しかも、運よく生き残れればこのアプリから解放される。


 どうやら生きる為、アプリ消去の為に参加するしかないようね。


 私はチーム戦イベントに参加するのボタンをタップした。


 するとある日、アプリから通知が来た。


【パートナー決定】

プレイヤー名・カシン


 表示された顔写真。何か普通の優しそうな人ね。この人で対戦大丈夫かな。


 時刻は夕方。いつもマッチングの後に娘を保育園に迎えに行かないといけない。必ず行くという強い決意も生まれる。


 なぜか、マッチングはいつもこれくらいの時間だった。


 そして今、家の近くの商店街にいた。人通りや店もそれなりに多い。


「あ、どうも初めまして」


「こちらこそです」


 改めて見ても普通って印象ね。これから初のチーム戦。まずはお互いの能力確認かな……?


「チーム戦の戦い方どうしよう?」


「そうですね。僕の能力的に結構戦い方が限られるかもです」


「私の能力は髪が伸びる事。あんまり攻めれる能力じゃないのよね。自衛には向いてるのかもしれないけれど、範囲が限定的だし」


「なるほど。それは珍しい……ちなみに、僕も全く攻めれる能力じゃないです」


「あっ、そう……」


 ちょっと! なにそれ。2人して敵が突っ込んで来るの待つ? そんなの相手にバレバレでしょ。めちゃくちゃヤバいじゃん。このマッチング失敗じゃない?


「あ、僕の能力なんですけど……」


 しかし、詳細を聞いて驚いた。えっそんな事できる? と口頭で聞いただけではにわかには信じ難い能力だった。しかし、信じるしかない。生き残るために。


 いた。あの2人組ね。大きくてスラッとした男の2人組。いかにもヤンチャしてそうな若者ね。


 金髪と黒髪。怖いし、なんか強そうだな。



━━━━タッグバトル━━━━


カシン・シュリVSケンタ・カエル


━━━━━━━━━━━━━━




「いよいよ、始まりますね」


「えぇ、ちゃんと頼んだわよ」


「は、はい。任して下さい」


 いつから私ってこんなうるさい女になったんだろ。でも、絶対に負けられない。必ず解放されて娘と幸せになるんだ。お願い、上手くいって。


『バトルスタート』


【59:59】……


 私は早速髪を伸ばし、迎撃の準備に入った。


 奴らの出方を伺う。


「おい、来ないならこっちからいくぞぉぉお!」


 そう挑発的な言葉を言い放った後、金髪はその場でジャンプした。


 金髪がジャンプした後、不思議な現象が起きた。


 いわゆるジャンプなら着地している。しかし、ふわふわと風船のように体が浮遊していた。まるであの場所だけ無重力状態になったみたいだ。


 後ろの黒髪は私達2人を見定めているよう。どちらから仕留めてやろうか、まさにそんな目だった。


 女性だから? 後ろで蠢く髪に警戒した? どうやらカシンに狙いを定めたらしい。


 すると、黒髪は金髪の背を押した。砲丸投げのように引いた手を押し出した瞬間、想像を超えたスピードでカシンへと迫った。


「くらえぇっ!」


「はやっ」


 その場へと倒れ込み何とか回避したようだ。背後にあった喫茶店の入口やメニューの並ぶガラス等が蹴り壊されている。大きな轟音が商店街に響いた。


 本当に砲弾が撃ち込まれたみたい。風船みたいに軽くなるだけじゃあんな風にならないわよね。


 その様子に周りの人がざわつき始めた。しかし、アプリの効果で戦闘する私達はまるで見えていないようだ。


 その後も追撃は続く。倒れ込んだカシンの上でふわふわする金髪。カシンは慌てて体を起こし逃げた。金髪が着地する際、ドスンッと人の体重では考えられない地響きがした。


「ちっ、外したか」

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