速水ノゾム−2
俺はこれまでたった1つのものだけの為に生きてきた。
それが、『最速』。
アプリの力を借りてあっという間にその称号を得ることができたんだ。
一時は、怪我によって走る事を奪われ、生きる目標を見失った。途方に暮れ、人生の絶望を経験した。
だけど、今度は称号を簡単に手に入れた事でまた人生の目標を見失ってしまったんだ。
よくある話。夢が1つしかない人間は、それを達成すると燃え尽きるなんていくらでも聞いたことがある。
不安だった。俺もそうなるんじゃないかと思った。
しかし、実際はそうじゃなかった。俺はすぐに新たな目標を見つける事が出来た。
それは、『最強』だ。
最速であり、最強。今度はこの称号、この輝きをどうしても手に入れたくなったんだ。
強制発動するアプリのマッチング。嫌でも戦わなければならない。俺は喧嘩なんてこれまでほとんどした事なかった。陸上に夢中だったし、そもそも性格的に考えられないし。
しかし、何度繰り返しても俺は負けなかった。
なんならここまで全て、開始1秒くらいで決着している。
ひょっとして俺は最強なんじゃないか? 勘違いかもしれないが、それを試してみたくなったんだ。
あくまでベースは基礎身体能力。俺は日々の鍛錬も怠らなかった。選手として復帰できるんじゃないかと思える程の徹底管理した日常生活だった。
こんなストイックな生活を毎日続けようが、変わるのは相手にコンマ何秒か蹴りが速く届くだけかもしれない。しかし、俺はそこにこだわった。
トップ争いというのは、そういう小さい事の積み重ね、それをどこまで突き詰められるかだと知っているからだ。
ある時、アプリからお知らせが届いた。
━━━━■イベント■━━━━
チーム戦開始!
賞金増加が今までの10倍!
戦略、駆け引きの幅が広がる!
腕自慢は奮ってご参加下さい!
━━━━━━━━━━━━━━
なるほど。賞金10倍は魅力的だな。1000万増額ってことだろ。ウヨウヨと強いやつが集まってくるだろう。だけど、そんだけ死ぬリスクも高まるってわけだ。
明日から開始。なんだかワクワクする。集まる猛者達を蹴散らして俺がNo.1だって事を証明したい。
しかし、俺にはまだソロバトルでやりたい事が残ってる。
それは、アプリの機能でランキングを見た時だった。
俺はある種の運命を感じた。どうしても戦いたいと思った。
運営の説明によると、ランキングは勝ち数、奴隷の数等、あらゆる要素を複合して決定しているらしい。
■プレイヤーランキング
1位 神
…
これを見た時から、俺の望みが決まった。
プレイヤーランキング1位の神を倒し、自分こそが最強であると証明する事。
調べると、アプリの機能で神の対戦履歴を見ることができた。内容などの詳細は分からないが、対戦地域が分かる。俺は何度もその付近でマッチングを行った。
何度繰り返しても、知る名前を見る事が出来なかった。しかし、倒した一人が死に際にこんな事を言っていた。
「俺は神の奴隷の一人だ。お前も目を付けられた。神が殺しに来る。もう、逃げられないぞ……」
そして、このゲームの副業の意味を思い知らされた。
奴隷を持っている奴は、自分の強制マッチングを受ける事なく代わりに奴隷に行わせる事ができる。
しかも自分はノーリスクで奴隷が勝てば賞金の半分を得ることができるらしい。
そりゃ、いつまでたっても神がバトルにやってくる事がないはずだ。しかし、聞く話だと奴隷が倒されたら主人に通知される。それを知った神は怒り俺を倒しにくるらしい。
面白い。次のマッチングが楽しみだ。一体どんなやつだろうか。プレイヤーランキング1位。
それに打ち勝って新たな称号を手に入れてやる。
いつでも来い。準備は完璧。今なら誰と戦っても負ける気がしない。
何の変哲もない並木道。まばらな人通り。何となく気になり前を見ると、向かい合うように遠くに人が見えた。
カジュアルな服装。よくいる若者って感じだな。
するとその時、アプリの通知が来た。
━━━━ソロバトル━━━━
ノゾムVS神
━━━━━━━━━━━━━
あいつか……。
俺は胸の高鳴りを抑えられずにいた。待望の瞬間が来た。俺の必殺は超反応の一撃。必ず仕留める。
それは相手が誰であろうと、神であろうと変わらない。
スマホに映し出された顔を確認する。中性的な顔立ち。美形だな。いや、そんな事はどうでもいい。よし、覚えた。今からこの顔を苦痛に歪ませてやる。俺はスタートの構えを取った。
目を合わせたらスタート。俺はゆっくりと視線を目の前の人物へ向けた。
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