三髪シュリ−2

 髪の毛を触りながらアシスタントに思いつく限り問いかけた。素手で戦えない、なら……


「これって針みたいにビュンって飛ばせないの?」


「無理です。ちなみに、針の様にする硬質化は可能です」


「じゃぁ、束ねた髪の毛を切ればフェンシングの剣みたいになるってことよね?」


「その通りです。髪は禁止の武器にも該当しません

。ただし、必殺技を解除すればただの髪に戻ります」


 うーん。イマイチダメだな…。私フェンシングできないし、そもそも機敏な動きができないし。


 その時、ふと閃いた素朴な疑問。そうだ、飛ばさなくていいし、手に持たなくてもいいじゃん。


「この状態のまま、髪の毛を長くして突き刺したりできないの?」


 アシスタントは驚きの答えを言ってきた。


「可能です。3点の強化です」


成長ホルモン

神経伝達物質

髪の硬質化


「わっ、こんなこと出来るんだ……」


「ちなみに、髪の伝達度合いとして出来る事は自由に動かして突き刺すぐらいです。誰かの手足を縛って拘束等も出来ないレベルの力です。この必殺技で設定してよろしいですか?」


 大丈夫。これでいい。


「これでお願い。そういえば、元々保有する能力って言ってたけど、私髪の毛何て元々動かせないけど?」


「性能強化により、設定可能です」


「そっか。髪の毛がワラワラ動くなんてメデューサみたいだね。目合ったら相手が石化すればいいのに。それは無理よね?」


「余裕で無理です」


 何よ。余裕でって。


 後は、実際に戦ってみないとわからない。戦いたくなくてもマッチングされるらしい。そう思うとドキドキしてくる。夢だったらいいのに。


 すると、設定が終わってすぐなのにもう通知が来た。


『まもなくバトルを開始します』


 タイマーがセットされた。



【60:00】制限時間

【10:00】必殺技



━━━━ソロバトル━━━━


   シュリVSケンジ


━━━━━━━━━━━━━



『相手を視認し、スタートとなります』


 えっ、ちょっと待ってよ。家の中もフィールドなの?こんな所でダメでしょ。子供に何かあったらどうするのよ。


 慌てて家の外に飛び出した。


 暗がりの中輝くスマホの光。対戦相手の顔写真が表示される。


 ……まさか、本当?


 映し出されていた顔は紛れもなく夫だった。


 疲れ切った表情でこちらへ向かって来る。リストラされたサラリーマンの哀愁を感じる。ここ最近、いい仕事が決まりそうなんて言ってたけど……。


「まさか、お前まで登録したのかよ……」


「あなたもこのアプリを……」


『バトルスタート』


【59:59】……


「頼む。妻に痛い思いはさせたくない。負けを認めて俺の奴隷になるんだ」


「嫌よ。なるわけないじゃない」


「ルールや内容は知ってるんだろ?女のお前が俺に勝てるわけ無いだろ」


「やってみないと分からないでしょ」


「……いい加減、言う事を聞けよ」


 声が低く表情が真剣になった。いよいよ、本気で来る。私もどうしたらいいかわからないけど、必殺技で迎え撃つ準備をした。


 必殺技【髪の自在化】【9:58】…


 髪がゆっくりと徐々に伸びていく。


 夫とはいえ一人の男の本気の苛立ち。これから向けられる本気の暴力。じっと私を見据える目に恐怖を覚える。震える。だけど、やらないと。立ち向かわなきゃダメなんだ!


「お前は黙って俺の言う事を聞いてりゃいいんだよっ!」


必殺技【9:45】……


 徐々に伸びる髪が私の背後で妖しくうごめく。


 真っ直ぐに向かって来た。速い。そのまま殴るつもりだ。夫の性格を考えても間違いない。リスクはとらず全身をバランス良く強化したんだろう。


 私は手を前に出した。すると、暗がりの中背後に潜んでいた針の毛が夫を絡めとろうと剣山のように壁を作った。


「なっ!?」


 夫の手を真正面から突き血塗れにした。スピードにのった体は止まらずそのまま体全体を針で串刺しにした。力が足らず貫通とまではいかないが全身が穴だらけとなった。迫ってくる圧がスゴイ。しかし、私も負けずに必死に髪で押し返す。奥まで刺さる様に押し込んだ。


「うぎゃぁぁぁぁぁああああああああああああっ」


「はぁっはぁ」


 必死すぎて息を忘れていた。自然と呼吸が荒くなる。胸のドキドキが止まらない。覚悟はしていた。だけど、夥しい量の血を流す夫にやはり胸が締め付けられる。その場に倒れ込む夫。何やら必死に訴えかけてきた。


「くそっ。家族を守りたかっただけなのに。どうしてこうなるんだよ……」


「娘は私が守っていくわ」


「はぁ…はぁ…。無理だ」


 何となく伝わる。嫌味じゃない。本気でそう思って私に伝えてる。何かを言い残そうとしてる。


「どうして?」


「絶対に…逆らっちゃいけないやつがいる…俺もそいつに奴隷にされたんだ…」


「誰なの?」


「………神…だ」


「いや、神って。そんなやついるわけ……」


 私の話を遮って必死の形相で訴えかけてくる。


「本当なんだよっ……!ゲホッ……あれは強いとかそんなレベルじゃない……異質、異次元だ……対戦に当たったら…絶対に勝負を挑むな……」


「一体、どんなやつなのよ…」


 そこから夫の返事は無くなった。



━━━━ソロバトル━━━━


   シュリVSケンジ


 勝者・シュリ


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