副業アプリ−3
「気絶とか敗北の宣言とか、死なずに負けたらどうなるんだ?」
「えー、命がけの対戦なのでほとんどの敗者の方は死亡しますが生きていたら勝者の奴隷となります。負けないように頑張って下さいね」
優しい微笑みを向けてくる。なんだよこの感じたことのない複雑な気持ち。殺したくないし、殺されたくない。ちょっと金が欲しいくらいの安易な気持ちだったのに。金が欲しいなら人を殺せってか…?狂ってる。
「最初の勝利報酬は100万円からのスタートです。経験を重ねて実績を重ねればどんどんアップしていきます。お仕事頑張って下さいね」
お仕事って…。軽く言うんじゃねぇよ。たった100万で人の命か。この運営一体何が目的なんだよ。
「これから最も大事な説明を行います。必殺技についてですが、必殺技は身体性能の飛躍的向上です」
「飛躍的?」
アシスタントは腕を前に出して説明を始めた。
「えぇ。例えば腕力のみを特化して飛躍させればゴリラなんかを凌駕する通常の人間では太刀打ちできない圧倒的なパワーを得られます」
「なるほど。それに使用可能時間。必殺技を使ってない場合や使っていても強化していない部分をそれで攻撃されたらヤバいってわけだな」
まるで映画の中の話だな。
「その通りです。そんなことになれば花火でも打ち上げたかのように血飛沫が舞い上がることでしょう」
おいおい、何て表現だよ。想像しただけで鳥肌が立つってしまう。しかし、これは難しいな。
攻撃力特化で一点を100%強化したら防御に不安が残る。かといって全身を強化させようとすると、どの部分の強度も20%くらいでさほど強くならないってことか?
一体、何が正解なのかまるで分からないな…。
「そして、1度決めた必殺技はリセットできません。どの身体性能を調整してどんな必殺技にするかは自由です。強化箇所や強化方法は無数にあり、貴方の発想力に懸かっています。設定可能かどうかは私が確認しますので決まったらお声掛け下さい」
「何でもいいのか?」
「えぇ。何でも構いません」
今、思いつく限りの強い能力を言ってみよう。
「何も効かない無敵の能力!」
「一体どんな? 無理です」
「時を止める!」
「無理です」
「体を雷にする!」
「無理」
「体を火や水や氷は?」
「余裕で無理です」
何だよ、余裕でって。その言い方よ。
「砂やケムリは?……無理だね」
何も言わず冷ややかな視線を送ってくる。分かるだろとでも言いたげな表情だ。
「あくまで必殺技は″元々保有する身体性能の強化″なのです。そもそも保有しない能力は手に入れる事はできません」
「なるほどね」
「例えば、鳥のように空を飛ぶや、魚のように水中で呼吸するは叶いません。せいぜい、脚力強化で通常より遥かに高くジャンプするや、心肺能力強化で長く水中にいるというのが可能なのです」
「分かった。それなら……」
その後、想像力を最大に働かせて自分自身が納得するまでかなりの時間かけて設定を行った。にわかには信じ難い能力だが、この必殺技に命がかかってるんだ。一切の妥協はしなかった。
「よし、これで決まりだ。まさかこんな事が可能だなんて……」
「やっとですか。では、この細かすぎる内容をこちらで登録致します」
「おいっ。心の声だだ漏れだよ」
これが終わるといつかは来るマッチングの時。命のやり取りを想像すると震えるのに、熟考して決めた必殺技を試してみたいと思う自分もいた。
「登録が完了しました。マッチングまでしばらくお待ち下さい。最後に禁止事項を3つ。1つはアプリの内容をまだ知らない他人に明かす事。もう1つは仲間を呼ぶ等の誰かに助けを要請する事。最後に武器の使用です。相手を倒すのは身体能力でという事です。破れば……」
「分かってるよ」
「また、対戦中、対戦相手以外に故意に危害を加えるのも禁止です。一般人を盾にするなどは言語道断です」
なら、禁止事項4つじゃねぇかよ。このアシスタント大丈夫か? 大事なこと言い忘れてねぇだろうな?
「では、健闘をお祈りします」
頭を下げると女性はロウソクの火が消えるようにフッと姿を消した。
【対戦ルール】
【時間】
・60分間
(必殺技は断続的にトータル10分間使用可能)
【勝敗】
・気絶、敗北宣言、死亡
(敗者は生き残れば奴隷)
【必殺技】
・保有している身体性能の飛躍的向上
【禁止事項】
・アプリの内容を明かす
・助けを呼ぶ
・武器の使用
・対戦相手以外に危害を加える
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