副業アプリ−2

『他のアプリとは違う。確実に稼げる。他のみんなの言う通りこのレビューは嘘じゃない』


『早くこのアプリに出会いたかった。初心者でも大丈夫!特別な経験必要なし!とにかく始めてみるべし』


『無料だしまずは試すべき!騙されたと思って1度やってみて!』



 本当かよ…嘘くさいな。まぁ、駄目だったらやめればいいだけだ。


 インストールしたアイコンをタップした。起動中と表示され画面が切り替わる。


 一体、簡単で稼げる作業ってどんな内容なんだ?そんな事を考えているといきなり目の前が真っ白になった。


 な、何だ今のは?スマホに目をやるとスキャン完了と表示されている。


 今のは光だったのか。画面をよく見ると俺の顔写真が写っている。大丈夫かこのアプリ。これから情報を入力していくってわけか。


 すると突然、3D映画でも見ているかのように画面から女性が出てきたのだ。端正な顔立ち。髪もショートで奇麗にまとめ、品を纏う眼鏡。上品なスーツ。気品のある振る舞いは上級の秘書をイメージさせられる。


 おいおい。これは現実か?どういうシステムだよ。


「私は副業ゲームのアシスタントです。これより貴方の登録をサポートします。まずは質問にお答え下さい」


「は、はい…」


 まるで目の前に本物の人がいるかのように錯覚する。真っ直ぐに俺を見る瞳は吸い込まれそうな程に綺麗で内心かなりドキドキした。


 スーツの上からでも分かる挑発的で魅力的な胸元の膨らみも思考力を阻害する要因だった。隠しきれない動揺を隠しながら女性の言葉に従う事にした。


「ニックネームを教えて下さい。アプリ内で使用する名前なので本名である必要はありません」


「えっと…じゃあ、カシンで」


「では、カシン様。このアプリについての作業内容をお伝えします」


「お願いします」


「それは…」


 思考の間を与えることもなく淡々と女性の説明は続いた。


「マッチングした対戦相手を気絶、敗北を認めさせる、もしくは殺害する事です」


「……えっ?」


「マッチング通知が来たら1時間以内に相手を倒せばいいのです。簡単でしょう? 決着がつかないお粗末な試合は運営が両者処分致します。ご注意下さい」


「いやいや、簡単っていうか…」


「これより最も大事な必殺技の説明を行います。必殺技は1時間の間の10分間のみ使用可能です。これが勝敗を分けるといっても過言ではありません。慎重に使用する事をオススメします。それでは最後に必殺技を…」


「というか待て!人を殺す?そんな事できる訳ないだろ!?」


 必死の形相で俺は女性に迫る。なのに涼しい笑顔で俺の言葉を振り払う。


「ちなみにもうアンインストールはできません。マッチングも不公平にならないよう定期的に運営が強制的に発動します。そして、殺害しても運営が事件にならないように処理しますのでどうぞ安心して対戦して下さいね。あと、必殺技の設定を行わないと必ず敗北しますよ? よく考えて設定して下さいね」


 俺は冷や汗が止まらなかった。スマホをどういじってもこの女もアプリも消えない。確かにもう手遅れらしい。


 そして、嫌な事を思い出した。1度使用しないと投稿できないレビュー。あれってあいつら全員が殺人鬼の可能性があるってことじゃないのか? ヤバすぎるだろこのアプリ。あのレビューは初心者狩りで儲けたい奴らの誘惑だったのか。


 くそっ。とんでもない事になってしまった。かといって死にたくない。ここはもう生き残る事に最善を尽くすしかないのか。


 いや、そうとは限らない。


 もうアンインストールできませんだって?あんなの運営が勝手に言ってるだけだ。何も言わずに辞めてやればいいだけだろ。


「アンインストールされますと命の保証は致しかねます」


 考えを見透かされたその言葉に思わずビクッとした。命などと軽々しく口にする事に恐怖を覚える。


「それでも強制的にアンインストールしようとしたら?」


「こうなります」


 俺の部屋の空間に次々と浮かび上がる映像。そこには直視できない程に凄惨な写真が何枚も映し出されていた。


 夥しい量の血。ぐちゃぐちゃになった体。その横で変わらぬ表情のアシスタント。思わず吐き気がこみ上げてくる。


「まじかよこれ…」


「私、結構強いですよ? ただの美人でセクシーなお姉さんではありません」


 セクシーなポーズを見せ付けてくるが今、そんな事言われても全然つっこめねぇよ。もうアンインストールを考えるのは辞めよう。とりあえず説明の続きだ。

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