副業ゲーム
朝陽の雫
副業アプリ
毎日毎日、同じことの繰り返し。
時間の流れに背中を押されるように家を飛び出ると、決まった道順、決まった人間。
見上げると、この国の未来の人の心を映し出したような曇天の空。
これから多くの国民は特売のセール品をかごに詰めるように、ぎゅうぎゅうの満員電車に詰め込まれ不快な時間を過ごす。
不快な時を抜けるとさらに不快な会社での時間。きつい仕事。さらにきつい人間関係。生きる為に死にそうな苦しみを毎日味わうんだ。
ようやく解放され自分の時間を過ごせる。
行き慣れた居酒屋で馴染みのメンバーが集まる。
学生時代からの心を許せる友人。ストレスを忘れられる快適な空間。唯一の心の拠り所だったのに…。
最近はどうだ? どうしてこうなる? 大人になるってのはこういう事なのか?
俺の友人達。盛り上がる最初の話題はいつも給料の話だった。
「おい、お前ボーナスいくらだったよ?」
「うち、安すぎ。転職考えるわ。ってかお前もらいすぎだろ!マジで羨ましいわ」
「お前と大して変わらないだろ?平均年収よりずっと上なんだし、いいじゃねぇか」
「ところで、お前は?」
ほら、俺にも話を振ってきた。
うるせぇよ。お前ら。俺なんて年齢に見合ったサラリーマンの平均年収すら届いてねぇよ。俺とこいつらの何が違うんだよ。くそっ。
「ま、まぁ、同じようなもんかな…」
何でこんな事で見栄を張ってしまうんだろうか。毎度の事ながら自分の小ささが嫌になってしまう。
「そっか。みんな同じくらいだな。平均年収も届いてない仕事してるやつらとかよく生きていけるよな。マジで尊敬するわ。俺なら恥ずかしくて生きていけねぇよ。ははっ」
「おいおい。そこまで言うことねぇだろ。最近副業とかあるしわからねぇぞ?実はかなり稼いでいたりとかな」
「副業なんかに頼って情けねえ。まずは本業で成果出せよ!そんなんだから平均以下なんだよ!よし。俺が動画撮ってやるからお前ら何か面白いことしろ!」
「おいっ、無茶ブリすんじゃねぇよ!」
なるほど。副業か……。
それ以来、副業に関するあらゆるものを調べたり試したりした。
もちろん、話題の動画撮影者もやってみようとしたがネタもアイデアもなく一瞬で断念した。
少しネットで調べればお手軽なアンケートサイトやデータ入力などの簡単なものから、イラストを描いたりPCスキルが必要なものまで様々な副業がある事が分かった。
中には、稼ぐ為にお金を払って初期費用が必要なものまであった。一旦、投資すればあとはお金を生み続けるんだと。
こんなの詐欺に決まってるだろ! 稼ぎたいのに払うなんて矛盾してる。馬鹿馬鹿しい。
そして、さらに分かった事は調べてみた副業のそのどれもが俺には上手く出来る気がしなかった。
賃金の安いスキルのいらないものはひたすら時間のかかる単純作業だった。やってられないし続かない。
そのくせ、特別なスキルがあるわけでもない。大きく稼げるような仕事はそもそも出来ない。
効率よく稼ぐ為に1番現実的なのは仕事終わりにバイトする事だった。かといって働いてヘトヘトになった後、さらに働くなんて論外だ。やりたくない。
結局は、なんだかんだ今の生活なんだ。我ながら嫌になる。
もう副業なんて忘れて平均以下の現実に目を向けたある日、なんとなくアプリを探していた時に気になるアプリを見つけてしまった。
どこにでもあるような普通のアプリ。人型が描かれたそのアイコンはまるで人をパワーアップさせるかのように周りにオーラが描かれていた。
なぜこんなアイコン?まぁ、どうでもいいか。
名前は『副業ゲーム』だった。気になりアイコンをタップする。
『簡単なお仕事で高額報酬GET♪』
『誰でもできるよ!今すぐ無料登録しよう♪』
どこにでもある謳い文句。どうせその他大勢のやつと一緒なんだろ?しかし、驚く事にこのアプリはレビューがめちゃくちゃ良かった。
ほとんどが☆4つ以上。1度利用した人に限るらしい。どうせ☆多く付けたら多少のバックがあるんだろ?そういうのに騙されるかよ。
コメントを読み進めたら嘘で詐欺のような、その気にさせる言葉が並んでいた。もう諦めたはずの俺なのに自然とインストールをタップさせられていた。
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