第12話 はじめてないたひ

「ど…どうしたの?その目…」

次の日、僕の目は大変腫れてた。

ちょっとからかってみようかな?

と、言う真由さんの言葉が出ないうちに、僕は昨日の事を三人に全部話した。


「そんな…なんで…なんで…」


真由さんは優しいから、僕の言葉だけで、もう立ち直れない…みたいな言葉をぼとぼと落としながら、泣いた。


「ひでぇ…その子に…何か与えるもの…あったろ!内臓破裂って…どんだけなんだよ…」

「私にも子供が二人いるが、本当に可愛いいぞ…」


「ぼ…くが…助けてあげられなかったから…どうしても悔しくて…初めて会った日から、もう一緒に住めばよかったんだ…。例え、誘拐と呼ばれる刑法での犯罪者になったとしても…くそ!くそ!くそ!!」





そんな僕を見て、三人は痛々しい目をして、それぞれ泣いたり、非難したり、怒ったり、していたが、その想いと、その視線は、この僕に注がれているのに、僕は気づけないほど、泣き崩れていた。


「漣君…漣君…漣君!」


「…い…」

「ねぇ、泣いてるの?怒ってるの?悲しいの?悔しいの?」

「ぅっ…」

(泣いてる…怒ってる…悲しい…悔しい…。…そうか…僕は泣いているんだ。どんな人にもそんな感情を抱いた事も無いのに…)


「すみません…すぐ…いつも通りの僕…に戻ります…」

「いいの!良いんだよ、漣君!泣いて良いの!怒って良いの!悲しんでも、悔やんでも、それが漣君の本当の感情なんだよ。本当は、そうやって感情を出したかっただよ…それが…何故消えかけていたのかは…私には解らないけど、漣君はその方がきっと漣君だよ…」


「僕は…僕は…生きてて良いのですか?家族には見捨てら…いや、見捨てました。もうあの家への未練はありません。あの人たちは、僕を、今も僕を…欲していません!」




そう言った漣の頭の隅に、誰か泣いているのを見た。

それは、遠い残像だった。




「…せい………」




―ここから独り言―

昨日と今日は…えらく取り乱してしまった。

誰より、何より、みぁちゃんの命が…みぁちゃんが亡くなってしまった事で僕がどんな想いに駆られたのを…言葉にできない。

それと、僕の感情があらわになったのには、何か、関係しているのか…?

でも、とても腹が立って、悲しくて、悔しくて、許せなくて…殴ってしまった。


十一階のビルの屋上まで、あんな重症を負ってでも、その命が尽きる、その最後に、僕に会いに来てくれた、みぁちゃんを守ってあげられなかった…。

僕は自分を呪うかもしれない…。



僕は何故、その晩、屋上に

みぁちゃんが上がってくる階段の音に気付けなかったのだろう?

「はぁはぁ」

と速くなってゆく、みぁちゃんの吐息に…なんで、気付いてあげられなかったんだ…!



“あの男”を殴る。

それはいかなる時も正しい感情表現ではなかった。

それでも、僕は涙が溢れてくることに対して大切だと思った。



僕は、笑わない訳じゃない。

泣かない訳じゃない。

怒らない訳じゃない。

悔しいと、思っていいはずだ。




あ…聖…。

あの一文字は何だったんだろうか?


…いや、文字、と言うよりは、名前の様な気が…。


そこから、僕は薄っすらと自分の過去を紐解くときが来た。

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