第10話 へいわ
真由さんのお母さんのお葬式は、ごくごく内輪で行われ、そこに僕と多田さん、平田さんも呼ばれた。
「真由さん、こんな時に言う言葉ではないかも知れません。ですが、お母様は幸せだったと思います。真由さんに、あんなに愛されて、そして真由さんも愛されてて…」
真由さんの顔がまた泣きそうになっていた。
「僕も、あんな風に愛されてみたかったな、と、そんな心があるとしたら、僕にも心があるとしたら、そう思います。だから、真由さんは、そんな僕には奇跡にしか思えない逝き方をお母様はなさったんじゃないでしょうか…だから、真由さんは…悲しかった…いえ、悲しいと思いますが、ずっと心の中でお母様を抱き締めてあげててください」
真由さんを、僕はまた泣かしてしまった。
所詮僕の言葉など、意味はない…どころではない。
と思った瞬間に、
「ありがとう…ありがとう…漣君…本当にありがとう。漣君は私の出会った人の中で、一番心が奇麗。頭が悪かったせいで、何処にも就職できなくて、母の入院費とかどうしようって…結局キャバ嬢にしかなるしかなかった私を救ってくれた。多田さんも…っ平田さんも…ありがとうございます…」
そう言って、仕事終わりの倉庫で、真由さんはその奇麗な瞳から、ゆっくり、地面に水玉を描き、笑った。
―ここから独り言―
今日、不思議だったんだ。
真由さんの涙が奇麗に思えた。
奇麗に思える自分が不思議だった。
僕はもうほぼ人間じゃない。
何故なら、そうなるしかなかった。
どうしても…泣けなくなった。
どうしても…怒れなくなった。
どうしても…笑えなくなった。
怖く…なった。
僕自身、感情は無いと仮定して生きている。
それでも、この世界で、まだ…何かを期待している。
こんな戦争だらけの世界で、どんどん失われてゆく子供たちの命。
地上兵だけでは飽き足らず、空から爆弾を落としてくる。
悪いのは世界の政治家たちで、一般市民に誰一人として、戦争を望むものはいないだろう。
だって、第二次世界大戦で失われた人の命の数は計り知れない。
その教訓から、二本は唯一の被爆国でありながら、未だ自衛隊を備えている。
いや、そんなことがなんだ?
と思う人もおられると思うが、自衛隊と言う名前が僕は気にいらない。
災害救助隊とでもしておけば、日本が、〔もうこの国は戦争をしません〕と言うアピールになるのではないかと、僕は思っている。
しかし、そんなものまだ可愛い。
僕は、感情の糸に何とか火を灯し、心から怒りを思い出させた。
それは、今、この国、日本の政治家たちの馬鹿馬鹿しさと、愚かさ、教訓をすぐに忘れる都合のいい頭。
『憲法第九条の改革』
…いや、
『憲法第九条の改悪』
だ。
【日本国民は正義をと秩序を基調とする国際平和を誠実に希求うし、国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使は国際紛争を解決手段としては永久にこれを放棄する】
これが憲法九条だ。
もう一つの呼び名は、平和憲法だ。
唯一の被爆国である日本が、この憲法を放棄したら、平和など本当に本当にどの国にいても訪れない。
それで良いのか?お前たち政治家は。
おっと…真由さんの事を話していたのに、戦争が起きたものだから、ついそこ集中になり、駄々喋ってしまった。
あ…みぁちゃん、どうしただろう?ちゃんと保護してもらえたよな?
星は…見えなかった―…。
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