第6話

訓練は順調に進んでいた。

軟式野球ボールは今や鉄球になり、スピードは300キロを越えていた。

骨折くらいなら1分と掛からず治せるようにもなった。


「とりあえず一週間お疲れ様」

「ありがとう」

「とりあえず基礎体力は付いたね。次は技術面を鍛えましょうか」

クラリスはそう言いながら、二丁のナイフを渡してきた。

「これがあなたの武器よ」

「…なぜナイフ?」

「あなたの能力的に最適な武器よ。今のあなたなら頭さえ潰されなければ死なないわ。恐れず懐に潜り込んで切り刻みなさい」

「いや普通に恐くて踏み込めなさそうだけど…」

「大丈夫よ。あなたはいざとなればやるわ。この一週間でわかったけどあなたはそういう人間よ」

何を根拠に言ってるのだろうか。そんなことを言う前にクラリスは続ける。

「さあ、行ってらっしゃい!実践よ!」

「え?」

カゲが地面に手を付くと黒い渦に飲み込まれた。




「ここは、、、どこだ?」

気が付くと目の前には大きな塔をバックに戦場が広がっていた。

「あなたには今からここで戦ってもらいます」

「ちょっ!居たのかカゲ!」

「クラリス様にあなたのフォローを頼まれましたので」

「本人はどこ行ったんだよ。こんなとこに急に飛ばしておいて」

「クラリス様にしか出来ない仕事をしてるのですよ」

「なんだよそれ」

「そんなことより自分の心配をしたほうが良いですよ。敵があなたに気が付きました」

犬型の異獣がこちらに向かってくるのがみえたのでナイフを構えて応戦する。

「後ろからも来てますよ」

「言われなくてもわかってるわ!」

後ろから来る異獣を避け、正面の異獣をナイフで切り裂く。

「なかなかやりますね。ですが次々来るので頑張ってください」

避けては切るを繰り返す。訓練の成果が出ているようだ。しかし異獣たちもしつこく襲ってくる。

「つーかどういう状況なんだよ!説明しろよ!」

「訓練中に説明したではないですか」

「あの時は余裕なかったんだよ!」

「今は余裕があるような物言いですね。油断大敵ですよ?」

あとで絶対殴る。ラウルはそう心に誓う。

「まあいいでしょう。お答えします」

やれやれといった雰囲気でカゲは話し出した。

「前方に見える塔は白き騎士団がこの世界を侵略するために建てたものです」

「そんなことは何となくわかるわ!」

「…戦いに集中してください。塔を中心に白くなっている範囲があるでしょう。あれは既に彼らの世界になっています」

「はぁはぁ」

異獣たちの襲撃が一段落したのでラウルは息を整えるために座り込む。

「どういうことだ?確かに白いけどそれだけじゃないか」

「この白い範囲からは彼らの世界からのアクセスが容易になります。普通は異世界間の移動には物凄くエネルギーが必要なのです。だから彼らもあの侵攻以降攻めて来ないでしょ。けどあの塔を中心に白い範囲が広がれば今度こそ一斉侵攻され負けます」

「どうすればいいんだ?」

急に理解が早い。カゲは密かにそう思う。

「良く見ててください。ほら異獣が出てきますよ」

目の前に虎型の異獣がゆっくりと現れた。すぐに臨戦体制に入る。

「気をつけてください。さっきより強いですよ」

「わかってる」

「今君が集中することはとにかく侵攻してくる異獣を倒すこと」

虎型の異獣の懐に潜り込み斬りつける。しかしナイフは弾かれ反撃に合い、吹き飛ばされる。

「油断大敵ですよラウル君」

抉れた胸の再生を図るが思うようにいかない。

な、なぜだ。そう思いながら焦るラウル。

そんなラウルに向かって異獣が飛びかかって来る。



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