ランクと実力は別物ですからね。

 オラクルを鍛えるつもりはないので、ウィザードにクラスチェンジしておきます。


 迷宮都市キャストルリアーヌに〈ディメンションゲート〉で転移しました。

 さあ、今日も大迷宮に潜るぞ!!


 ……と気合を入れて扉の前に並んでいると、私の気分に水を差す連中がいたのでした。


「いたぞ! 銀ランク二人組の悪質な冒険者だ!!」

「私たち、大迷宮の中でそいつらに殺されかけたのよ!!」

「俺たちが戦っていたヒドラを横取りしやがったんだ!!」


 あー……この六人の存在を忘れてましたね。

 ミアラッハが「どうする?」と視線で問うてきます。

 どうもしませんよ、追い払いましょう。


「ないことないこと、よくもまあホラを吹くことができますね」


「生意気なんだよ、銀ランクのくせに!!」

「私たちを嘘つき呼ばわり?! 金ランクの私たちが嘘なんてつくはず無いじゃない!!」

「おいみんな!! そのふたりは冒険者のマナーを破る最低な連中だ!!」


 私は六人に威圧をかけます。

 ピタリとさえずりが止みました。


「金ランクだの銀ランクだの、関係ないですよ。いかに冒険者ギルドで実績を積んだかの違いでしかありません。私たちの目的は迷宮の攻略ですから、依頼を受けませんからね。銀ランクに留まっているだけですよ」


「く、都合が悪くなるとこうやって脅すんだ……!!」

「強ければ正しいってのか!?」

「もう嫌!! 早くこれ解いてよ!!」


「あなた方が立ち去ればいいんですよ。とっとと――」


 そこで「面白いことしているなあ?」と割り込む男の声がしました。

 見れば、ひとりの金ランク冒険者がニタニタと私たちと六人を眺めています。

 そろそろ並んでいる人たちの迷惑なので、ミアラッハとともに列を抜けました。


「あなたは?」


「俺は“槍聖”ガウディオってもんだ。そっちの六人は『雷光の剣』だよな。銀ランクのお嬢ちゃんふたりは見ない顔だが。トラブルかい?」


「先日、大迷宮内で絡まれて追い払ったら、この調子でないことないこと吹いて嫌がらせされているんですよ」


「ふうん。とりあえず威圧を解いてやってくれ。それで一応、『雷光の剣』の言い分も聞きたい」


 私は言われた通りに威圧を解きました。


「あ、ガウディオさんじゃないですか!」

「助かりました。もう少しでチビるところでしたよ」

「この生意気な銀ランクに世の中のこと教えてやって欲しいわ!!」


「……なあ『雷光の剣』よ。金ランクは銀ランクより別に偉いわけじゃねえ。単純に冒険者ギルドへの貢献度で決まるだけだ。その辺、勘違いしてないか?」


「え、それは……」

「ガウディオさん、そいつらに味方するんですか!?」

「そんな……私たち、大迷宮の中で殺されかけたんですよ!?」


「いつだって冒険者の言動の正しさは強さで決まるもんだ。ランクじゃねえ。お前ら、ちょっと訓練場まで来い。そこで決着をつけろ」


「そ、それは」

「そこのふたりと戦えってこと!?」

「そんな……」


「どうした? お前らがそこのふたりより強ければ、俺はお前らの味方になってやる。強い者が正しい。それが冒険者だ」


 ガウディオと名乗った冒険者の発言は、メチャクチャではありますが、私たちにとっては都合のいいものでした。

 あの六人を相手に、このイライラをぶつけても構わないそうです。


「どうする? これ以上、口でわめくなら俺はそっちの銀ランクのふたりに味方するぜ。雑魚が吠えてる、ってなあ」


「分かりました。六人対ふたりなら、こっちが有利です」

「金ランクが銀ランクに負けるはずないですから」

「決闘、望むところよ!!」


「よし決まりだ。お嬢ちゃんたちもそれでいいかい?」


「ええ。もちろんです」


 私たちは笑顔でガウディオについていくことにしました。


 冒険者ギルドの訓練場には、野次馬が大勢、見物に来ていました。

 ガウディオはその野次馬たちに向けて言い放ちます。


「これから言動の正しさを賭けて金ランク冒険者パーティ『雷光の剣』と銀ランク冒険者パーティのお嬢ちゃんふたりが戦う。みんな、きっちり見届けてやれよ!!」


 戦って正しさを決めるというガウディオ。

 彼の主張もどうかと思いますが、サクっと倒して大迷宮の攻略をしたいものです。


 訓練場の両側に私たちと『雷光の剣』がスタンバイ。

 ミアラッハが魔槍を召喚すると、ザワリ、と周囲の野次馬たちがその槍の輝きに魅せられます。


「用意はいいかい? それじゃあ、決闘開始だ!!」


 ガウディオの合図で、六人は一斉に攻撃を繰り出してきました。

 まずは魔法戦ですかね。


 ミアラッハは飛来する魔法を片っ端から魔法斬りで打ち消していきます。

 私は軽く〈ファイアストーム〉で六人を炙りました。


 ゴウ、と火炎が渦巻きます。

 あ、ちょっと威力が高かったですかね?


 たまらず『雷光の剣』は散開、前衛が突っ込んできます。

 落ち着いてミアラッハが三人の前衛たちを順番に槍で殴打していきます。

 吹き飛ぶ前衛たち。


 後衛はといえば、攻撃魔法を私に目掛けて放ってきます。

 腐っても金ランクですからね、後衛たちは中位属性の攻撃魔法を連打してくる模様。


 私は〈プロテクション〉の盾で攻撃魔法を防ぎます。

 炎、氷、雷の魔法がたった一枚の〈プロテクション〉に阻まれています。

 私は多数のクラスのレベルを上げて能力値が高いので、同じ魔法でも効果は雲泥の差があります。


 〈ライトニングバインド〉で後衛三人を縛ります。

 悲鳴が上がりましたが、気にしない。

 こっちもイライラしてますからね、このくらいはさせてもらいたいものです。


 前衛の勝負がついたようですね。

 ミアラッハの圧勝です。


 後衛たちはそれを見て、降参の意を示しました。


「よし、そこまで!!」


 ガウディオの合図とともに、私は〈ライトニングバインド〉を解きます。


「ふうん。『雷光の剣』を一蹴か。やるねえ、お嬢ちゃんたち」


「ランクと実力は別物ですからね」


「『雷光の剣』!! お前ら、ランクが上がって調子に乗ってるって噂が俺の耳にまで入ってきているぞ。ランクが高ければたしかにここじゃあ顔もでかくなる。だがそれに見合った振る舞いってもんがあるはずだ。ちったあ自分たちの言動を振り返って反省しな!!」


 『雷光の剣』の六人はすごすごと訓練場を後にしました。


 ガウディオは、「悪かったな、お嬢ちゃんたち。アイツら、金ランクになってから素行が悪くなったって評判なんだ。奴らがホラ吹いていたことは最近の連中のことを知っている奴らなら分かっているから安心しな」と私たちに告げました。


「そうでしたか。とりあえず場を収めてもらってありがとうございます」


「おう。じゃあお礼に、そっちのお嬢ちゃんと一戦、模擬戦をしたいんだが受けてもらえるかね?」


「ミアラッハと?」


「ミアラッハっていうのかい。派手な槍だなあ。俺は一応、“槍聖”と呼ばれる槍使いだ。どっちが強いのか興味があるのさ」


「どうしますか、ミアラッハ?」


 ミアラッハは少し考えた後、「世話になったお礼くらいはしないとね」と模擬戦をすることを了承したのでした。


 今度の審判役は私です。

 訓練場にはガウディオとミアラッハが向かい合っています。


「それでは“槍聖”ガウディオと銀ランク冒険者ミアラッハの模擬戦を行います。両者、準備はいいですね? ――――始め!!」


 ガウディオが間合いを詰めに走ります。

 対して、ミアラッハはその場で槍をクルリと回転させて、迎え撃つ構え。


「オラオラオラァ!!」


 ガウディオの猛攻。

 しかしそれを涼しい顔で捌くミアラッハ。

 実力の差は歴然としています。


 ガウディオだって別に弱くはありませんが、オーガ先生たちと比べて見劣りするのは確かです。

 ミアラッハはガウディオの槍を跳ね上げると、首筋にピタリと槍の穂先を当てました。


「そこまで!! 勝者、ミアラッハ!!」


 野次馬たちが興奮した様子で先程の戦いについて語り合っています。


 ガウディオは苦い笑みを浮かべて、「ミアラッハ……今日から“槍聖”を名乗れ」と言いました。


「私がですか? いいえ、そんな大層な称号は不要だわ」


「そう言ってくれるなよ。俺より槍が達者な奴がいるのに、今後、俺が“槍聖”を名乗るのは格好悪いだろ」


「ガウディオさんが名乗る名乗らないは自由です。私は名乗りませんから」


「そうかい。仕方ねえなあ……」


 ガウディオとミアラッハは握手をして、ガウディオはその場から去りました。


「お疲れさま、ミアラッハ」


「うん。私、かなり強くなってたんだね……」


「オーガ先生のところで修行してたらそんなものですよ」


「オーガ先生、強いからね」


 さあ、ゴタゴタも無事に収束したことですし、大迷宮の第十五階層を目指しましょう。

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