それが戦争開始の合図となりました。

 翌日はイフリート迷宮の攻略だ。


 〈ディメンションゲート〉で移動して、転移魔法陣を使って第十階層から始める。

 パペットマンサーにクラスチェンジして、人形を〈ストレージ〉から出した。


「その人形、戦えるんだっけ?」


「うん。下位四属性のうち火属性以外の攻撃魔法を撃てるらしいよ」


 実際の戦闘になると、人形は魔物に対して勝手に魔法を撃つという動きを見せるようになった。

 うーん、戦力としては微妙かな。


 所詮は下位属性の攻撃魔法だ。

 私の瞬殺コンボやミアラッハの魔槍のような殲滅力はない。


 うーん、これは帝国に帰ったら、DP消費してもっと強力な人形を出すべきかな。

 よく考えれば人形にもグレードというものがあるはずだ。

 弱い人形は弱い武器と同じく、攻撃力が低いということなのだろう。

 では逆に、強い人形なら戦力になるのではなかろうか。


 迷宮を進んでいると、気配察知に冒険者の気配を感知した。

 向こうも気づいたらしく、立ち止まってしまった。

 はてどうしたものかと思っていると、よく見ればローレッタのパーティだった。


「ローレッタさん、こんにちは」


「ああ。クライニア、皇帝が迷宮に出てきてなにをしているんだ?」


「皇帝といっても、玉座に座っているだけでお金が湧いてくるわかじゃないんですよ」


「まあそれもそうか。それにしても……パペットマンサーか? 珍しいクラスだな」


「ええ、まあ」


「戦闘用じゃないだろう」


「え? そうなんですか?」


「ん? だって生産系スキルの補助を人形がするクラスだろう?」


 そうだったのか。

 初めて入手した人形が戦闘用だから、てっきり戦えるクラスだと思っていたよ。

 考えてみれば、アルケミストの上級クラスだもんね。

 そっかそっか……。


「それにしても皇帝が長く国を空けていて大丈夫なのか?」


「ああ、転移魔法で行き来しているので、大丈夫ですよ」


「……便利だなあそれ。私たちなんか、迷宮の安全地帯で野営して潜っているんだぞ」


 迷宮には時折、安全地帯というものがある。

 魔物が入ってこれない結界が張ってあり、休憩したり、野営したり自由だ。


「わざわざ野営してまでこの迷宮に潜っているんですか?」


「ああ。ここは難易度が高い分、素材が高値で売れる。それにたまには入っておかないとスタンピードが怖いしな」


「なるほど。金ランク冒険者は大変ですね」


「まったくだ。お前たち、実績上げて早く金になっちまえよ」


「そうそう、私たちの国に神殿と冒険者ギルドを誘致したんですよ」


「へえ? 随分と早いなあ。しかし大変な時期なのに、よく神殿も冒険者ギルドも支部を出せたもんだ」


「大変な時期?」


「ん? キウス王国が騎士団を派遣しただろう。クライニア帝国に」


「え、マジですか」


「知らなかったのか。それで悠長に迷宮に潜ってたのか……」


「そっか騎士団か……まあウチの国の防衛力は高いのでなんとでもなりますね」


「ああ。あのオーガの兵士の群れやらヘカトンケイレスやらを見た後だと、騎士団を出すのは悪手に思えるね」


 その後もいくらか雑談をして、別れました。


 そっか、ウチの国、いま攻められているのか。


「どうするクライニア、帰る?」


「いいえ。留守番のシャルセアやヨルガリアがいますから、大丈夫でしょう。予定通り、第二十階層まで攻略してから帰りましょう」


「そうか。そうだね」


 私たちも迷宮を進みます。

 ローレッタさんたちは積極的に魔物を狩るため、寄り道しているので追い抜きました。


 第十五階層の中ボス、第二十階層の中ボスを難なく撃破して、帰還します。

 〈ディメンションゲート〉で帝国前に出ると、割りと近くで陣を張っている騎士たちと目が合いました。

 無視して扉をくぐって、帝国内に入ります。


 いやあ、大胆ですね、騎士団は。

 また後で交渉しに行きましょう。

 まだ戦端は開かれていないようですし、交渉のテーブルについてくれるならそれが一番ですからね。


 * * *


 冒険者ギルドに寄って迷宮品と素材を売却しました。


 部屋に戻ってからステータスを確認すると、パペットマンサーのレベルが20になっていました。

 さすが高難易度の迷宮、一発の探索で上級クラスがレベル20になるとは嬉しいものです。


 新しいスキルは?

 【人形使役】です。

 パペットマンサーでなくとも、人形の性能を十全に発揮できるようになるスキルですね。

 迷宮品の人形を探してみると、どうやらローレッタの言う通り、生産系スキルの補助をする機能をもった人形の方が多数派でした。

 とはいえ自分の熟練度になるでもないし、もう使うこともないだろうなあ。


 転職を起動します。


《【転職】

 パペットマンサー(レベル20)

 ノーブル(レベル35)

 ファイター(レベル24)

 スカウト(レベル33)

 フェンサー(レベル29)

 ランサー(レベル27)

 グラップラー(レベル31)

 プリースト(レベル20)

 メイジ(レベル22)

 ブラックスミス(レベル36)

 アルケミスト(レベル26)

 マーチャント(レベル1)

 オフィシャル(レベル1)

 メイド(レベル1)

 トリックスター(レベル28)

 バード(レベル22)

 ダンサー(レベル1)

 テイマー(レベル1)

 ロード(レベル25)

 ウォーロード(レベル26)

 カースドナイト(レベル1)

 アサシン(レベル21)

 チャンピオン(レベル20)

 ビショップ(レベル1)

 ウィザード(レベル22)

 セージ(レベル24)

 サモナー(レベル26)

 ネクロマンサー(レベル1)

 パラディン(レベル1)

 モンク(レベル1)

 ルーンナイト(レベル22)

 ハーミット(レベル2)

 バトルマスター(レベル28)

 ダンジョンマスター(レベル21)

 エンペラー(レベル20)》


 特に増えたクラスはないですね。

 戦闘力が上がりそうなクラスというと、後はパラディンかモンクかな。

 というわけでパラディンにクラスチェンジ。


《名前 クライニア・イスエンド

 種族 人間 年齢 15 性別 女

 クラス パラディン レベル 1

 スキル 【日本語】【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】

     【全属性魔法】【闘気法】【練気】【仙術】【呪歌】【魔曲】

     【錬金術】【魔法付与】【鍛冶】【量産】【人形使役】【剣技】

     【剣術】【槍技】【槍術】【二刀流】【多刀流】【武器伸長】

     【素手格闘】【投げ】【関節技】【対人戦闘】【気配察知】【罠感知】

     【罠設置】【鎧貫き】【魔力制御】【魔法範囲拡大】【魔力自動回復】

     【同時発動】【多重魔力腕】【消費魔力軽減】【魔法武器化】

     【魔力強化】【怪力】【俊足】【気品】【美声】【カリスマ】【幸運】

     【指揮】【鼓舞】【福音】【光翼】【創世神信仰】

     【シャルセアとの絆】【ルマニールとの絆】【ヨルガリアとの絆】

     【迷宮管理】【迷宮帰還】【経験値20倍】【熟練度20倍】【転職】》


 さて外にいる騎士団に挨拶してきましょうかね。


「クライニア、ひとりで行くの?」


「ええ。だってミアラッハ、人間を殺せる?」


「そ、そんなことは――」


「私は殺せるよ。自分の命を守るためなら、なんだってする。戦いになったとき、私はちゃんと戦える」


「…………」


「それに冒険者は国家間の戦争には不介入が原則だよね? ミアラッハは冒険者。私はこの国の皇帝。立場が違うよ」


「それは、そうだけど」


「だから一緒に行けないことを、気に病む必要はないの。……それじゃ行ってきます」


「うん。絶対に生きて帰ってきてね」


「もちろん」


 話し合いに行くだけですからね。

 相手も馬鹿じゃないでしょうから、戦いにはならないでしょう。


 そんな風に思っていた時期もありました。


「迷宮を明け渡せ。それがキウス王からの命令だ」


 騎士団の代表を呼び出し、会談の場を設け、迷宮の外で交渉をし始めたわけですが。

 いけませんね、完全に舐められてます。


「論外です。誰が自国を捨てる君主がいるものですか。そちらこそ分かっているのですか、その言葉の重みを」


 私は泰然自若の王冠を頭に載せています。

 皇帝として来ているのです。

 他国の君主に命令などとは……上下関係、ハッキリさせてやろうかこの野郎。


「そちらこそ理解しておるのか? キウス騎士団、総勢百騎。貴様の迷宮を蹂躙してもよいのだぞ」


 ああ駄目だ。

 完全に戦力を見誤っている。

 報告が行っていないのだろうか、ローレッタが見た景色を、こいつらは知らないのではないのか?


「シャルセア、ヨルガリア。来い」


「仰せのままに、マスター」

「同じく馳せ参じました」


「なぁ――!?」


 現れたのはヘカトンケイレスのシャルセアと、リッチのヨルガリア。

 〈アナライズモンスター〉をした騎士が、「ヘカトンケイレスとリッチだと!?」と声を上げました。


「ま、魔物を使役するとは、さすが迷宮の主か。しかしたった二体で、騎士百人を相手取れると思っているのか!?」


「二体とひとりです。あくまでも迷宮を引き渡せとのたまうのなら、力づくでお帰り願いましょう」


「上等だ。その言葉を後悔するがいい!! 騎士団、戦闘準備!!」


 騎士たちは完全武装しています。

 こちらも同じく武装しましょう。

 〈ストレージ〉からアダマンタイトの剣を抜きます。


「シャルセア、ヨルガリア。遠慮はいりません。あなたたちの実力、存分に見せて上げなさい」


「はっ、マスター!!」

「ホホホ。我が魔道をお見せしましょうぞ!!」


 私は立ち上がり、目の前の騎士団長に斬りかかります。

 闘気法を纏い、武器伸長を乗せて首をはねました。


 あっさりと血しぶきを上げて転がる頭部。


 それが戦争開始の合図となりました。

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