これで外部の人間を受け入れる準備は整ったね。

「マスター、朝からすみません。行商人が帝国内に入ってきています」


「うーん?」


 窓からシャルセアが困惑した様子で告げた。

 そっか、商売に敏い商人はもう動いてきたか。


「じゃあ着替えて様子を見に行くよ」


「はい。お願いします」


 シャルセアは練兵場の方へ行った。

 オーガ兵はローテーションで警備のための歩哨任務と、シャルセアの課す訓練とを交互に行っている。

 もちろん非番もあるが。

 こいつらに関しては不眠不休はないので、ちゃんとローテーションして休ませなければならない。


 さて、私は着替えて行商人の顔でも拝んできますかね。


 行商人は目抜き通りの真ん中で、師匠とヒルダに向けて雑談をしていた。


「こんにちは。もう行商人がやってくるなんて、思ってもみませんでした」


「おや、あなたはもしや?」


「この国の皇帝を務めている、クライニアです」


「おおこれはこれは。皇帝陛下におかれましてはご機嫌麗しゅう」


「楽にしてください。まだそんなに偉くないので」


 他国から国家だと認証されて初めて、威張れると思っているのだ。

 だから、現状は不穏分子の頭領といったところ。

 皇帝を名乗る頭のおかしい人なのである、今の私の立場は。


「それで。どんな商品を持ち込んでいますか?」


「日用品にお困りではないでしょうか? 高級品ですが、石鹸などもあります」


「なるほど」


 行商人も何が売れるのか、分からずに色々と持ち込んでいる様子だ。

 日用品か、悪くない線かな。


「住民が増えることがあれば、日用品でも売れそうですけどね。現状、人が少ないもので」


「なるほど。しかしこちらの鋼の剣は素晴らしい。高い品質の割りに、値段が格安ときている」


 ああ、それは私の習作だ。

 師匠の武器は認めた人にしか売らないから、行商人相手に売れる商品はこのくらいしかない。


「ただ私としましては、迷宮品がもっと溢れているのかと期待して来たのですが。皇帝陛下、迷宮品は生産できないものでしょうか?」


「冒険者ギルドの支部長にも聞かれましたけど、効率があまり良くないんですよね。何か欲しいものがありましたか?」


「割りと迷宮品ならばなんでも……と言いたいところですが、やはり利ざやの大きなマジックバッグや、通信のぬいぐるみですとか……欲しい商品は多いですねえ」


「なるほど。残念ながら、それらの生産は考えていません」


「それは残念です」


 軍需物資は必要DPが多いのだ。

 農産物などを豊富に扱っている大商店に誘導しておく。


 さて私は鍛冶だ。

 今日も今日とて鋼の剣を打つぞ。


「ところでクライニア。わしのところ、インゴットの入荷先をどうすれば良いと思う?」


「……師匠。店をたたむときに考えてなかったんですか」


「いや。面白そうじゃと思ったし、仮にも国なら伝手とかあるかと思ってな。しかしまだわしらしか住民がいないじゃろ?」


「……分かりました。当面、必要なインゴットは私が出します。もしかしてヒルダさんも素材の入荷先に困ってます?」


「じゃろうなあ」


「分かりました。後で伺います。……そうだ、師匠、ガラスの加工ってできますか?」


「ん? まあできるかできないかで言えばできるが……何を作りたいんじゃ?」


「酒を美味しくする道具を作ろうかな、と」


「ほう! それは興味深いな。しかしこの国、神殿がないじゃろ。グラスワーカーにクラスチェンジせんとなあ」


 ああ、神殿も必要なのか。

 転職できるから、完全に失念していた。


「神殿と冒険者ギルドは誘致したいですね。そうすると、ここを拠点にする冒険者が出るでしょうから、宿屋と食事処を用意しないといけないか……」


 鍛冶なんてしている場合じゃなさそうな気配だ。

 仕方がないので、鍛冶は午前中だけにしておくことにした。


 午後、軽食を食べてから宿屋と食事処を用意することにした。

 まずは人が滞在できる環境作りからだ。


 冒険者ギルドは扉から近い方がいいだろう。

 神殿はちょっと分からない。

 まあどのみち土地は余っているので、好きな場所を選んでもらおう。


 宿屋は門前宿がいいかな。

 食事処も宿屋と併設している方が便利なはずだ。

 国で用意するより民間でやってもらえる方が嬉しいのだが、こんな怪しい国でわざわざ宿屋を開こうという人もいないだろう。

 最初は公営でまかなうしかない。


 DPを消費して宿屋と食事処を建てる。

 それから従業員を用意してやる。


 宿屋の店主はミノタウロスにした。

 クラスはマーチャント20レベルにして、メイジとグラップラーとチャンピオンをレベル20にする。

 スキルはレクタリス地方語、算術、ご奉仕、礼儀作法、宮廷語、掃除、洗濯、水魔法、光魔法、闘気法、素手格闘、投げ、関節技、気配察知、絶対記憶を覚えさせる。

 【?】がよっつある。

 【交渉】【魔力制御】【練気】【連撃】となった。

 名前はカルビ。

 せめて宿屋に関係のある名前をと思ったのだが、出てこなかった。

 名前を決めるのに時間をかけるほど暇ではないのだ。

 チュニックに下履きを二着ずつ支給する。


《名前 カルビ

 種族 ミノタウロス 年齢 0 性別 男

 クラス マーチャント レベル 20

 スキル 【怪力】【獣人語】

     【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】【掃除】

     【洗濯】【水魔法】【光魔法】【闘気法】【練気】【魔力制御】

     【素手格闘】【投げ】【関節技】【連撃】【気配察知】【交渉】

     【絶対記憶】》


 あとは従業員だな。

 こっちはコボルドにしよう。

 クラスはマーチャント。

 スキルはレクタリス地方語、算術、ご奉仕、礼儀作法、掃除をオプションで追加しておく。

 スポーンは『3/3』だ。

 お仕着せを二着ずつ支給しておく。


「それじゃカルビ。宿屋の方はよろしく頼む」


「はい。かしこまりましたマスター」


 よし、次は食事処だ。

 店主はラミアにしよう。

 クラスはマーチャント20レベルにコック20レベル、グラップラーとチャンピオンを20レベルずつだ。

 スキルはレクタリス地方語、算術、礼儀作法、宮廷語、料理、醸造、闘気法、素手格闘、投げ、関節技、気配察知、絶対記憶を覚えさせる。

 【?】は?

 【目利き】【鋭敏味覚】【格闘術】【握力強化】だ。

 名前はラミカ。

 ラミ子じゃさすがに可哀想かなって……。


《名前 ラミカ

 種族 ラミア 年齢 0 性別 女

 クラス コック レベル 20

 スキル 【牙】【人化】【吸血】【獣人語】

     【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】【料理】

     【醸造】【闘気法】【素手格闘】【投げ】【関節技】【格闘術】

     【気配察知】【目利き】【鋭敏味覚】【握力強化】【絶対記憶】》


 従業員はサキュバスを選ぶ。

 クラスはコック。

 スキルはレクタリス地方語、算術、ご奉仕、礼儀作法、料理をオプションで追加しておく。

 スポーンは『5/5』だ。


「よしラミカ。食事処は任せたから。宿屋のカルビと連携してください」


「はぁい、マスター。お任せください」


 これで外部の人間を受け入れる準備は整ったね。

 明日は神殿と冒険者ギルドの誘致に出かけよう。

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