うお、これは……日本語だ!!

 夕食後、クラスをバードに変えてから、久々にリュートの練習をする。

 歌曲を練習して、呪歌と魔曲の一挙両得を狙うのだ。


「らーらーらー♪」


 ミアラッハは退屈そうにこちらを見ている。

 うん、ちょっと見られてると恥ずかしいね。

 曲の切れ間に感想を尋ねてみる。


「うん、割りと上手だったよ。いつの間にって感じだね」


「そう?」


「楽器はやったことないから分からないけど、声、綺麗だよねクライニア」


「そ、そう?」


「うん。気品溢れる感じ。なんか良いんだよ」


 あー、気品スキルあるしね。

 カリスマと鼓舞も乗ってるかもしれない。


 小一時間ほど練習してから、ステータスを確認する。


《名前 クライニア・イスエンド

 種族 人間 年齢 15 性別 女

 クラス バード レベル 3

 スキル 【日本語】【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】

     【全属性魔法】【闘気法】【練気】【仙術】【呪歌】【魔曲】

     【錬金術】【魔法付与】【鍛冶】【量産】【剣技】【剣術】【槍技】

     【槍術】【二刀流】【多刀流】【武器伸長】【素手格闘】【投げ】

     【関節技】【対人戦闘】【気配察知】【罠感知】【罠設置】【鎧貫き】

     【魔力制御】【魔法範囲拡大】【魔力自動回復】【同時発動】

     【多重魔力腕】【消費魔力軽減】【魔法武器化】【魔力強化】【怪力】

     【俊足】【気品】【カリスマ】【幸運】【指揮】【鼓舞】【福音】

     【光翼】【創世神信仰】【シャルセアとの絆】【ルマニールとの絆】

     【ヨルガリアとの絆】【迷宮管理】【迷宮帰還】【経験値20倍】

     【熟練度20倍】【転職】》


 よし、呪歌と魔曲、習得完了!!

 歌えるのは一曲だけだけどね!!


 転職を起動してみる。


《【転職】

 バード(レベル3)

 ノーブル(レベル35)

 ファイター(レベル24)

 スカウト(レベル33)

 フェンサー(レベル29)

 ランサー(レベル27)

 グラップラー(レベル31)

 プリースト(レベル20)

 メイジ(レベル22)

 ブラックスミス(レベル36)

 アルケミスト(レベル26)

 マーチャント(レベル1)

 オフィシャル(レベル1)

 メイド(レベル1)

 トリックスター(レベル28)

 テイマー(レベル1)

 ロード(レベル25)

 ウォーロード(レベル26)

 カースドナイト(レベル1)

 アサシン(レベル21)

 チャンピオン(レベル20)

 ビショップ(レベル1)

 ウィザード(レベル22)

 セージ(レベル24)

 サモナー(レベル26)

 ネクロマンサー(レベル1)

 パペットマンサー(レベル1)

 パラディン(レベル1)

 モンク(レベル1)

 ルーンナイト(レベル22)

 ハーミット(レベル2)

 バトルマスター(レベル28)

 ダンジョンマスター(レベル21)

 エンペラー(レベル20)》


 ブラックスミスは1レベルしか上がっていない。

 うーん、ひとまずこのままバードでいいかな。

 戦闘する予定もないしね。


 リュートを仕舞った私に、ミアラッハが声をかけてきた。


「私も製菓以外の趣味を見つけるべきかなあ?」


「そうだねえ。余暇に何かできることがあると、いいかもね。私は色々手を伸ばしすぎているからやること多いけど、その分、ミアラッハは暇になる時間も多いよね」


「今日もお菓子作りしてたけど、それ以外にも何か趣味が欲しいなあ」


「ミアラッハはブライナー家にいた頃、何か趣味はなかったの?」


「うーん。趣味と言えるほどのことはなかったかな。あ、でも盤上遊戯は兄とよく遊んだかも」


「盤上遊戯ってチェス?」


「いいえ兵棋演習だったわね。駒とか凝ってて。クライニアは貴族院で兵棋演習習ったわよね」


「あー。習ったけど結構、忘れているなあ」


 貴族院では、騎士を率いて盗賊を制圧するだとか、ゴブリンの集落を攻撃するだとか、いろいろとシチュエーションを変えて兵棋演習を行ったものだ。

 審判役が必要だし、大掛かりなミニチュアセットが必要になる。

 しかも結構、時間がかかるのである。

 それが実家でできる辺り、辺境伯家の大きさが分かろうというものだ。


「……とはいえ兵棋演習は趣味としてどうかと思うよ」


「そうね。言ってて私もそう思ったわ」


 盤上遊戯というとリバーシとか将棋とかチェスだろうか。

 しかし基本的に相手が必要なものだから、ひとりで没頭できる趣味にはならない。

 そんなことを考えていると、ミアラッハが「そういえば」と切り出した。


「兵棋演習の駒や地形を作るのが好きだったわ」


「へ。ミアラッハが自作してたの?」


「ええ。兄とふたりがかりだったけど」


「ミニチュア作成か。いいじゃん、それ。趣味になるでしょ」


「そうね。材料と道具が必要だけど、暇つぶしにはちょうどいいかな」


「材料も道具も出すよ。道具は彫刻刀でいい?」


「ええ。駒は木の端材を削って作っていたわ」


 ミスリルの彫刻刀と、立方体の木材を幾つかDPを消費して出した。


「……これミスリルじゃないの」


「切れ味がいい方がかえって安全なんだよ」


「良すぎるのも考えものだけど……ありがたく使わせてもらうわ」


 そんなやりとりがあって、その日は休むことにした。


 翌日、私は街に向けてゴーレム馬を走らせていた。

 ミアラッハはさっそく、彫刻刀を手に木材とにらめっこしていた。


 さあまずは神殿だ。

 神殿に行くと、朝からお祈りをしている人たちがいる。

 神官もお祈りをしているか、何か用事がある人がいないか見守っている感じだ。


 私は神官に近づいていく。


「すみません。神殿を誘致したいのですが、どこに話を持っていけばいいですかね?」


「は? 神殿を誘致ですか……それは大事おおごとですね。どちらの街でしょう」


「迷宮なんですが」


「ああ! 最近、噂になっている新しい国ですか。え、本当だったんですかその話」


「そうです。住民も既に少数ですがいまして、神殿がないとクラスチェンジもできないですからね」


「そうですねえ……難しいかもしれません」


「え、どうしてですか?」


「モノリスが不足気味なのはご存知でしょうか」


「はい。聞いたことがあります」


 モノリスとは、クラスチェンジをする際に必要になる黒い石版のことだ。

 ルテイニア地方にある神殿の総本山が管理しているのだが、いかんせんモノリスが不足しているらしい。

 文明の発展とともに人類の生存圏は広がっており、そのため都市は増加傾向にある。

 しかしモノリスの破片というアイテムが迷宮からのランダム入手に依存しているため、最近、モノリスは不足の傾向が続いているのだ。


「モノリスならばこちらで用意できます。破片を幾つか集めてくっつければ良いのですよね?」


「え、それなら可能です。迷宮の国ではモノリスが簡単に入手できるのでしょうか?」


「簡単ではありませんが、入手できます。もしよろしければ一枚分くらいなら神殿本部に譲ることもできますよ」


「是非にお願いします」


 よし、話はまとまった。

 神官を派遣してもらえれば、神殿を建設することができる。

 と、ここで神官が控えめに「あのう、できればでよろしいのですが」と切り出した。


「ダンジョンマスターというクラスがモノリスに表示されるのを見せてもらってもよろしいでしょうか。見たことのないクラスなもので、興味があるのです」


「あー……それは難しいですね。実は私、こういう者でして。――〈ステータスオープン〉」


 私のステータスを見せる。


「こ、これはステータスバグ!? では一体、どのようにしてクラスチェンジを行っているのですか!?」


「私、実は自分のステータスが読めるんです。もちろん、モノリスに表示されるクラスも読めますよ」


 まあ実際にモノリス経由でクラスチェンジしたことはないんだけどね。

 ミアラッハがクラスチェンジするときに手伝ったときに読めたから、自分のも読めるはずだということは知っている。


「あの、自分のステータスだけですか? もしかして他のステータスバグの人のステータスも読めたりしませんか?」


「それは見てみないと分かりません。誰か心当たりが?」


「ええ、実はそちらにいるハーティアがステータスバグなのです」


 こちらを見ている神官に気づいた。

 足早に近づいてくる。


「あの! 私のステータスを見てもらえませんか!」


「ええ、いいですよ。見るだけでしたら。ただし期待はしないようにお願いします」


「ええ、ええ。もちろんです。――〈ステータスオープン〉」


 うお、これは……日本語だ!!


《名前 ハーティア

 種族 人間 年齢 22 性別 女

 クラス プリースト レベル 24

 スキル 【レクタリス地方語】【礼儀作法】【祈り】【基本魔法】【光魔法】

     【太陽神信仰】【幸運の星】【浄化の光】【神託】》


 【幸運の星】【浄化の光】【神託】のみっつのスキルは見たことがない。

 多分、チートスキルなんだろうなあ。


「読めます。読み上げますから、メモできますか?」


「ええ! 取ってきます」


 神官が筆記用具を持って来たので、読み上げた。


「え、聞いたこともないスキルが幾つかあるのですが……」


「そのようですね。私も聞いたことがないです」


 ハーティアは感激して涙を浮かべながら「ありがとうございます。ありがとうございます」と両手を握りしめている。

 私はその握りしめた両手の上に手を置いて「ではモノリスにも触れてみましょうか」と言った。


「クラスチェンジの文字も読めるのですか?!」


「ステータスが読めたので、多分。読めますよ」


「で、ではモノリスに……っ」


 しゃくりあげるハーティアの背中をさすりながら、祭壇に飾られている黒い石版の前に立つ。

 ハーティアが触れると、モノリスの表面に文字が浮かび上がった。

 予想通り、日本語だ。


《【クラスチェンジ】

 プリースト(レベル24)

 ビショップ(レベル1)

 オラクル(レベル1)》


 おや?

 知らないクラスがありますね。


 上から順番に読み上げますと、神官とハーティアが驚愕の表情で「え、本当ですか!?」と声を揃えて言った。


「オラクルとは聞いたことのないクラスですが……」


「いえ、極稀になれる神官がいるのです。神の声を聞くことのできるクラスだとか……」


 それって神託が前提条件ってことかな?

 だとしたら、辻褄が合っている。


「ともかくなれるならオラクルになりたいです!」


「ええ、どうぞ選択してください」


「はい!!」


 ハーティアは元気よく、オラクルを選んだ。

 これが縁となり、クライニア帝国の神殿長にはハーティアが選ばれることとなった。

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