迷宮皇帝編

やろうと思えば都市国家を作成できそうだ。

 翌日、さっそく迷宮を設置すべく街の外に出た。

 ふたつの迷宮から離れたところで、街からあまり遠くない場所を選ぶ。

 私はゴーレム馬で、ミアラッハは木馬で三十分ほど走ったところで止まった。

 街道からも外れているし、ここならすぐには見つからないだろう。


 リッチのヨルガリアを召喚する。

 そして迷宮管理を起動して、迷宮を設置した。


 真っ白な両開きの扉が現れる。


 まごうことなき迷宮だ。


「おお、本当に……これがダンジョンマスターの力なのですな。マスターは迷宮の管理者となられた。これは歴史に残りますぞ」


「いや、喧伝する気はないから、歴史には残らないと思うよ?」


「もったいない」


 ヨルガリアはわざとらしくオヨヨと嘆いてみせた。


「ねえねえ、入ってみようよ」


「ああ、うん。そうだね」


 ミアラッハが入りたがったので、私も続く。

 もちろんヨルガリアもついてきた。


 中は、――だだっ広い石造りの広間だった。


「なんにもないね」


「ちょっと待ってね……」


 迷宮管理を起動する。


《迷宮 名称未設定

 DP 100170pt

 第一階層:石室》


 どうやらDPなる数字を消費して、迷宮を改装できるみたいだ。

 第一階層の石室を、草原に変更するには、DPを500消費するらしい。


《ダンジョン内にプレイヤーがいます》


 警告が出た。

 仕方がないので、一旦、外に出ることにする。


 再び第一階層を草原に設定。

 さあどうだ。


 中に入ると、草原が広がっていた。

 ただし石造りの壁と天井に囲まれていて、やや閉塞感がある。

 空間拡張を選択して、DPを半分ほどつぎ込んだ。

 広さと高さをそれぞれ増し増しにする。


 今度は警告もなく、実行された。

 四方の壁が広がり、天井も高くなった。


「うわあ、凄い。広くなったよ?」


「うん。狭かったからね」


「魔物はいないの?」


「ええと、ちょっと待ってね」


 出せるらしい。

 単体の魔物を設置するか、ある特定の魔物をスポーンする不可視の魔法陣を設置するか選べる。

 もちろんスポーンする方がDP消費が激しい。

 しかしこれ、多分単体で設置した奴は倒されたら終わりなんだろうなあ。


「魔物も設置できるみたいだけど、そもそもここをどういう風に使うのか決めないと」


「迷宮なら、ボス部屋が……って草原タイプだからワンダリングするのかな?」


「いや、そもそもさ。ここに冒険者を呼び込んで、殺すのかって話」


「あー……それはちょっとどうかと思うね。うん、私が軽率だったわ」


 私たちが「うーん」と唸っていると、ヨルガリアが「ならば……」と提案してくれた。


「国を興してはどうですかな」


「国? え、勝手に作っていいものなの? ていうか迷宮内に?」


「それはもう、マスターならば国を興せるだけの資質がおありになる。まず軍事力、これはシャルセアと私、マスターとミアラッハ様がおられれば問題はないでしょう。何より、迷宮は守るのに適した形をしておりますからな。少数精鋭でも成り立つのです」


 扉を守れば、国土を守ることになるわけだから、確かに守るのに敵した形と言えるか。

 召喚獣と私たちだけというのは心もとないが。


 国家の三原則といえば、主権、国民、領土だっけかな。

 主権はすわなち軍事力だ。

 国民はこれから増やせばいい。

 領土は迷宮内。


 まあ確かに国を興せると言われれば可能かもしれないけど。


「……いや、誰が住むかな、迷宮内に」


「先程、迷宮の階層を広くなされましたな。他にもできることがあるのではないでしょうか?」


「うーん……」


 迷宮管理を起動してみる。

 まあ確かに、できることは多そうだ。

 例えば気候。

 四季の移ろいを外と逆転させることが可能だ。

 常春に設定することもできる。

 前者は農作物を融通できるし、後者は過ごしやすい環境を常に提供できる。

 外部との差は強みになる。


 産業を興すのは必須だが、始めは農業でもいい。

 調べてみると、迷宮で産出できるアイテムをDPを消費して出せることが分かった。

 種シリーズなどを利用すれば、あっという間に農業をする環境を整えることができる。


 なお通常は死体や物品が迷宮の床に放置されると、迷宮に吸収されてしまう。

 この設定は階層ごとにオフにできるようだ。

 街や農場のフロアは、この設定をオフにしなければならない。


 うわあ、実現性が高いなあ。

 やろうと思えば都市国家を作成できそうだ。


 エンペラーが天職ってのはこの辺りに繋がるのかもしれない。


 私はできることを、ヨルガリアとミアラッハに説明していく。


「素晴らしい! 農業だけでも、外部と差がつけられますな!」


「もっとよく練らないと駄目だけどね。農家を迷宮に呼び込むのは大変そうだよ?」


「それならば、私めの【スケルトン作成】が役に立つでしょう。農業ならば不眠不休で働けるスケルトンにやらせればいいのです」


「思いっきり魔物じゃないの。そんなことじゃあ、人が寄り付かないよ?」


「第二階層を増やされるのはどうでしょう。そこでスケルトン農業を行い、収穫された産物を第一階層で商うのです」


「あー……できる。確かに階層は増やせるね」


 最初に考えなしにDPを思いっきり使ってしまったのは痛い。

 あれしかし待てよ。

 DPってどうやって増やすのだろうか。


 最初の十万ポイントは初期値として、端数があったはずだ。

 あの端数はどこから生まれたものだ?


 ちょっとシャルセアを呼び出そう。


「マスター、何かお困りでしょうか?」


「見ての通り、ここは迷宮なんだけどね。私が作成したんだ」


「は?」


 シャルセアが意味が分からない、といった表情で固まった。

 だがこれで分かったことがある。

 DPは人や魔物が入ると、そのレベル分だけ増えるのだ。

 初回だけか?

 それとも一日に一回なのか?

 疑問に、迷宮管理が答えた。


《一日に一回、迷宮内に入る、または既にいるプレイヤーの、レベル分の数値がDPに加算されます》


 ヘルプ機能があったとは気づかなんだ。

 ということは、ここを本当に街にすれば、DPを継続的に稼ぐことができるのではないか?


 第二階層を作成する。

 広さは初期状態だが、草原と気候は迷宮全体で連動しているらしい。

 もちろんオプションで切り替えることも可能らしいが。

 デフォルトでは階段も転移魔法陣もない。

 移動手段は?

 迷宮管理から直接、転移できるようだ。


 転移、実行。


 この場の全員を指定して、第二階層に転移する。


「あれ、狭くなった?」


「うん。第二階層を作って、そちらに転移したの。ここでスケルトン農業をするためにね」


 その言葉にヨルガリアはいたく感激した様子で、「我が力を存分にお使いください、マスター!!」と言いながらクネクネと踊りだした。


「とりあえずDPが増えるまではこの広さで始めよう。種を生成して植えるから、ちょっと待っててね」


「では私はスケルトンを作成しましょう」


 言うが早いか、ヨルガリアはスケルトンを一体、作成した。

 特に死体とか材料が必要ではないらしい。

 いやそれとも時空魔法が使えるから、〈ストレージ〉内に死体を保管している可能性もあるか。

 どちらでもいい。

 重要なのは、スケルトン作成でもDPが増えたことだ。


 スケルトンのレベルは25もあるらしい。

 確かスケルトン強化とかいうスキルもあったし、迷宮産の杖もあるから、割と強いスケルトンを呼べるのだろう。


「ヨルガリア、スケルトン作成に材料とかは不要なの? 何体くらい呼べる?」


「スケルトンは魔力の消費のみで作成できますぞ。私の魔力が尽きるまで、呼び出すことが可能ですな」


 思った以上に強いなリッチ。

 さすがアンデッド最強格の魔物だ。


 種を生成していく。

 四季は常春が過ごしやすくていいかな。

 余ったポイントを第二階層の空間拡張に投入する。


《迷宮 名称未設定

 DP 274pt

 気候:常春

 第一階層:草原

 第二階層:草原》


 あとは名前か。

 どうしようかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る