良いぞ、幸運が仕事をしている。
翌日は鍛冶だ。
今日も今日とて鋼の剣を打つぞ。
師匠にお土産としてヒヒイロカネのインゴットを渡したら、顔色を変えて叫び声を上げた。
なになにどうしたの。
「お、お前! これの価値が分かっとるのか!?」
「オリハルコンと同等くらいでしょ?」
「それをお土産にするとは何事か! 自分の装備に使うという発想はないのか!?」
「ええー? 使いこなせる気、しないし」
「くそう、ほいほいと貴重品を渡してきおってからに……」
ブツブツ言いながらヒヒイロカネのインゴットを大事そうに抱えてどこかへ行ってしまった。
まあいいや、鋼の剣を打とう。
……。
…………。
………………。
いや待って、これなに?
十本を打ち終えたところで、一本だけ輝きが違うものがあった。
すわ魔法の武器かと思って手に取ると、なんかそうでもないような気がして喜ぶのを中止する。
師匠がいれば、聞けるのだけど、どこかへ行ったまま帰ってこない。
仕方がないので、一本だけ別にしておいて、続きを打つ。
その後は普通の鋼の剣しか打てなかった。
師匠はほどなくして戻ってきたので、輝きの違う鋼の剣を見せる。
「お? これは珍しいのう」
「これなんですか? 魔法の武器ってわけじゃないですよね」
「真打ちと呼ばれるものじゃな。数打ちしておるから、いずれは出るかと思ったが……」
「真打ち?」
「そうじゃ。普通の鋼の剣より幾分か性能が良いはずじゃ。そう打てるものでもないぞ。神が味方したかのような感覚を得て打たなかったか?」
「いやどうだろう。いつも通りだった気が……」
「ふむ。まあともかく、この一本は格安で売るわけにはいかんな。わしの店に置いてやろう」
「はーい」
真打ちねえ。
まあ腕前が上がったと考えるべきだろう。
熟練度20倍、バンザイ!
「そういえば師匠。どこ行ってたんですか?」
「ふん。秘密じゃ」
「……さいですか」
まあいいけどね。
ヒヒイロカネのインゴットはもうあげたものだし。
帰り道で、雑貨屋に寄る。
リュートを購入しておくためだ。
あと楽譜も何枚か。
ひとまず〈ストレージ〉に入れておいて、暇を見つけてバードで訓練しよう。
呪歌と魔曲を習得したら、バードのレベルを上げたい。
* * *
雨が降ったので、今日はお休みにすることにした。
ミアラッハはちょっと買い物に出てから、お菓子を制作するらしい。
私はこれ幸いとリュートの練習をすることに。
ええと、ドはどれ?
クラスをバードに変えてから、音階を手探りで探していく。
一応、貴族院では音楽の授業が必須だったので、楽譜は読めるのだ。
ただリュートの引き方までは知らない。
音階を探り当てたところで、演奏を始める。
難しい……。
いやド素人がいきなり引けるとは思わないけどさ。
熟練度20倍さん、仕事して!!
夕方になる頃、なんとか一曲、通しで演奏することができた。
もちろん魔曲のスキルはまだ習得できていない。
これは長丁場になるかもなあ。
食後のデザートは、オレンジのパイだった。
輪切りになったオレンジが敷き詰められていて、見た目にも美しい。
もちろん味もバッチリでした。
翌日は晴れたので、いよいよドレイクの迷宮の攻略の日だ。
クラスをチャンピオンに変え、いざ鎌倉。
雑魚戦では格闘を鍛えるために前に出る。
ミアラッハが隣で無双しているのを横目に、打撃、投げ、関節技を順番に試す。
関節技は、関節のよく分からない魔物が多いため、人型の魔物にしか使えないが、打撃と投げは上手くダメージを与えていける。
怪力もあることだし、手袋とベルトも装備しているからね。
意外と戦える。
【投げ】の習得を確認したら、後はいつも通り魔法でサクサク進むことにした。
第九十五階層、最後の中ボス部屋。
ここではヒルオーガが出てくる。
巨人だ。
伸長は私たちの倍くらいある。
……まあだからどうしたって話なんだけどね。
もちろん、相手にはなりませんでした。
剥ぎ取る素材もないから、宝箱待ちです。
宝箱には罠はなかったものの、鍵がかかっていた。
解錠して、中身を確認する。
水晶だ。
これはスキル結晶だね。
良いぞ、幸運が仕事をしている。
奥の扉を抜けて、いよいよ最下層へ向かう。
雑魚戦はサクサクと進めて、第百階層へ。
ボス部屋の扉はいままでの中ボスの扉と違って、少し豪華だ。
中に入ると、陸地が三割ほどしかない。
残りは水没している。
天井からドレイクが湧いて出てきた。
さあ、この迷宮でのラスボス戦だ!!
まず足場が悪いので、ミアラッハは空歩、私は光翼で空を飛ぶ。
ミアラッハは果敢に攻める。
さすがに亜竜の鱗は硬いだろうが、ミアラッハの魔槍の前ではまだまだ柔らかいらしい。
ザクザクと突きを放つミアラッハ。
対してドレイクは水の吐息を吐くが、ミアラッハは指輪の盾でそれを防いだ。
私も負けてられない。
この日のためじゃないけど、せっかく習得した〈ドラゴンスレイヤー〉を行使。
魔法武器化した〈ドラゴンスレイヤー〉で接近戦を挑む。
バターのようにあっさりと首を落としてしまった。
うわ、強いぞこの魔法。
ドサリ、と地面に落ちるドレイク。
死体は〈ストレージ〉に仕舞う。
亜竜の素材は高値で売れるのだ。
「終わったね」
「そうね」
最後の宝箱が出現する。
さあ、罠も鍵もないぞ。
仕事しろよ、幸運。
中身は?
人形でした。
なんのマジックアイテムだろうか。
手を繋いで、転移魔法陣に乗る。
もちろん第一階層に出た。
「帰ろう」
「うん」
乗合馬車に乗って、街へ帰還する。
今晩はちょっと豪勢に外食しようということになった。
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