よろしく師匠!

 職人街で師匠探しだ。

 

 鍛冶屋を回ること数件、腕の良し悪しは分からない。

 困ったなあ、と思っていると、一軒の寂れた鍛冶屋を見つけた。

 ひと目で気に入った。

 何がと言えば、魔法の武器が置いてあるからだ。

 鍛冶師、つまりブラックスミスのレベルが高くなければ魔法の武器は打てない。

 ここに決めよう。

 

「こんにちは。弟子入りに来ました」

 

「……帰れ。嬢ちゃんの細腕じゃ鍛冶は無理じゃ」

 

 おおっと、店主はドワーフだね。

 なるほど鍛冶の申し子たる種族だけあって、腕前は確かなのだろう。

 

「そう言わずに。道具も用意してきたんですよ」

 

「だから無理じゃと……ぬお!?」

 

 〈ストレージ〉から出したアダマンタイト製のハンマーと鉄床を見て、ドワーフの店主は固まった。

 

「その道具に見合う腕があるようには見えぬが……」

 

「だから弟子入りなんです。ブラックスミス、レベル1。鍛冶スキルもまだなんですよ」

 

「豚に真珠か。その道具、売り払って剣を買った方が良いのではないか?」

 

「鍛冶を身に着けたいんですよ」

 

「ステータスを見せてみろ」

 

「〈ステータスオープン〉」

 

 ステータスバグで読めないステータスだが。

 ドワーフの店主はギョっとした様子で、恐る恐る私を見上げた。

 

「おい、これはステータスバグじゃないか。どうやって時空魔法を使った!?」

 

「読めるんですこれ、私」

 

「んな馬鹿な……いやしかし……」

 

「細かいことは気にせず、鍛冶を教えて下さい」

 

「スキルが見えんとなあ……本当にブラックスミスなのか?」

 

「本当です」

 

「ふうむ。ステータスバグの娘に鍛冶を教える、か。まあ退屈しのぎにはなるじゃろ。それよりそのハンマーと鉄床、使わせてくれたら鍛冶を教えてやるぞ」

 

「分かりました。私も毎日来るわけにもいかないので、ハンマーと鉄床はこの店に置いていきます。貸してあげるだけですからね」

 

「良いのか? よし、分かった。まずは短剣を打ってもらうか。わしはハーキムじゃ」

 

「クライニアです。よろしく師匠!」

 

 ただの鋼の短剣にアダマンタイト製のハンマーと鉄床は不要とのことなので、師匠に貸す。

 代わりに、私が使うのは鋼のハンマーと鉄床である。

 

 熱したインゴットを言われたとおりに叩いていく。

 一本目は刃が歪だったが、二本目からはしっかりしたナイフが打てるようになった。

 熟練度20倍の効果のおかげだろう。

 研ぎ方も教わり、気がつけば夕方になっていた。

 

「ありがとうございました、師匠。また来ますね」

 

「お、おう。お前、筋がいいな。一日で短剣がこうも綺麗に打てるとは……」

 

 三本の短剣を並べれば上達のほどは一目瞭然だ。

 私はいずれ魔法の武器を打てるようになるまで、師匠のもとに通おうと決めていた。

 

《名前 クライニア・イスエンド

 種族 人間 年齢 15 性別 女

 クラス ブラックスミス レベル 4

 スキル 【日本語】【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】

     【全属性魔法】【闘気法】【錬金術】【鍛冶】【剣技】【剣術】

     【槍技】【槍術】【魔力制御】【魔法範囲拡大】【素手格闘】

     【気配察知】【罠感知】【罠設置】【鎧貫き】【魔力自動回復】

     【同時発動】【消費魔力軽減】【怪力】【俊足】【創世神信仰】

     【経験値20倍】【熟練度20倍】【転職】》

 

 鍛冶スキルを習得し、ブラックスミスのレベルが4になった。

 休日の有意義な過ごし方ができたのはいいことだ。

 

 * * *

 

 ルーンナイトに転職して、迷宮に挑む。

 今日挑むのは、前回までとは違う迷宮だ。

 難易度は高め。

 とはいえ私とミアラッハのふたりなら、低階層は問題ないだろう。

 

 乗合馬車に揺られて一時間。

 両開きの扉には装飾が施されており、しかし余白がまだまだある。

 難易度は中くらいといったところか。

 

 私たちは武器を出して迷宮に入った。

 

 気配察知と罠感知に意識を向けながら進む。

 

「気配察知に感あり。三匹だね」

 

「分かった。とりあえず一匹は任せて」

 

「二匹は魔法でなんとかするね」

 

「お願い」

 

 現れたのは、コボルドフェンサーだ。

 小柄な身体に見合った剣を持っている。

 

「〈マジックアロー〉」

 

 同時発動により二本のマジックアローがコボルドフェンサーの頭部を射抜く。

 ミアラッハは接近して首に突きを見舞った。

 さすがに第一階層から難敵が出てくるようなことはなかった。

 この調子ならば第五階層まで余裕だろう。

 

 コボルドばかりが出る第一階層は余裕だった。

 階段の手前に宝箱があるのは、もう慣れた光景である。

 

「うーん。迷宮に依存するわけじゃないのか」

 

「やっぱりこれ、階層ごとにひとつずつ出るってことかな?」

 

「多分ね。あ、罠があるから私が開けるよ。ええと毒針か」

 

 裏に回って宝箱を開ける。

 毒針は誰もいない方へ飛んでいった。

 中身は?

 小瓶に入った鱗だ。

 

「鱗?」

 

「鱗だね。なんの鱗だろ」

 

 ふたりで首を傾げながら、〈ストレージ〉に仕舞った。

 さあ第二階層へ進もう。

 

 やはりというかなんというか、宝箱は一階層ごとに出た。

 どうやら私たちが未踏破の階層をクリアするごとに、宝箱は出るらしい。

 検証は済んだので、この迷宮は後回しにして、低難易度の迷宮を攻略しておこうという話になった。

 とりあえず第五階層の中ボスを倒して転移魔法陣で帰ろう。

 

 中ボスはオーガとレッサーオーガ五体だ。

 オーガには良くない思い出しかない。

 私はミアラッハが苦戦しそうなら手を貸すつもりでいた。

 

「オーガは強敵だから、危なそうなら手を出すかもしれない」

 

「強い魔物だとは聞いたことがある。クライニアはオーガを倒したことがあるの?」

 

「うん。まあね」

 

 中ボス部屋の手前には誰もいない。

 私たちは部屋に入った。

 

 背後の扉が閉まり、湧き出るオーガたち。

 

 私はレッサーオーガに魔法範囲拡大した〈ブリザード〉を放った。

 おっと一撃か。

 私も日々レベルアップしているから、魔法の威力も上がっているに違いない。

 下級クラスもあれだけレベル20にしていれば、能力値に違いが出るのは明白だ。

 もっともステータスで具体的な数値は分からないから、感覚の話になるのだけど。

 

 オーガは素手だ。

 ミアラッハは縮地と空歩で間合いを測りながら魔槍でチクチクと傷をつけている。

 どうやら杞憂だったらしい。

 ミアラッハは強い。

 オーガも歴戦の奴じゃないらしいし、これなら手を出さなくともなんとかなりそうだ。

 

 ミアラッハも怖い相手じゃないと判断したらしく、一気に決めに行く。

 喉を突かれて、オーガは絶命した。

 

「良かったよ、ミアラッハ」

 

「ありがとう、クライニア」

 

 ハイタッチする。

 中ボスたちの死体が消えて、宝箱が出現した。

 あ、罠があるわ。

 

「罠があるから私がやるね」

 

「お願い」

 

 今回の罠は炎が吹き出る魔法がかかっている。

 私は〈ディスペル〉で魔法を破壊してから、宝箱を開けた。

 中身は?

 

 布が一巻き。

 漆黒の美しい布だ。

 

「布だね」

 

「鑑定してもらわないと分からないね」

 

 これまでハズレの迷宮品は出ていない。

 すべてマジックアイテムやら宝飾品やらだ。

 この布も何らかの効果があると見て間違いないだろう。

 

 帰りは転移魔法陣に乗って第一階層に戻る。

 手を繋ぐのは恒例だ。

 なんとなく習慣化している。

 特に深い意味はない。

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