一体、幾らの値がつくことやら。

 一日を観光に費やして、その翌日。

 

 今日は依頼の報酬をもらいに冒険者ギルドへ来ていた。

 報酬は相場の金貨10枚だった。

 特に色もついていないが、予想外に早く依頼が達成されたことに関して、感謝の言葉が添えられていた。

 

 しかし迷宮産のマジックアイテムならなんでもいい、なんてアバウトな依頼はなかなかない。

 依頼主の正体は気になるが、金貨10枚をポンと出せるのは貴族だろう。

 関わり合いにはなりたくない。

 

 さて依頼を物色していると、私たちはなぜかギルドの中にいる冒険者たちから注目されていることに気づいた。

 なんだろうね?

 

 首を傾げつつ、依頼を手に取る。

 今回の依頼は前回の迷宮の第十階層の中ボスの素材だ。

 受け付けに持っていくと、受付嬢が小声で「噂になっていますよ」と教えてくれた。

 

 なんでも、低難易度の迷宮の低階層からいつつも宝箱を発見したラッキーガールズ、だとか。

 しかも出たお宝にハズレなし。

 いやそれ間違ってないよ。

 

「へえ。そうなんですね」

 

「実際のところはどうなんですか。一日に宝箱いつつはかなり多いですよ?」

 

「実際のところですか……実は全部、本当ですよ」

 

「え……?」

 

 固まった受付嬢を再起動して、依頼の処理をお願いする。

 

「いやあ、噂になっているとはね」

 

「そりゃ、なるでしょうよ。鑑定師も人間だもの」

 

 ミアラッハが肩をすくめて言った。

 

 噂の出どころが鑑定師とは決まっていないけど、お宝にハズレなしということを知っているのはギルド職員だけだろう。

 少なくともギルドの職員の誰かが発信源であることは確実だ。

 

 とはいえ人の口に戸は建てられない。

 

 マズいと思うのは、大儲けしていると思われていることだろうか。

 正直、人間を相手にするのは精神衛生上、よろしくない。

 いやもう七人、殺しているからいまさらだけども。

 でも私がいないところでミアラッハが襲われたりするのは怖いなあ。

 

 ……まあなるようになるかな。

 

 迷宮は先日も潜った低難易度のところ。

 乗合馬車に揺られながら、無言で時を過ごす。

 到着したらまず武器を出してから、扉をくぐり横道に逸れて、転移魔法陣へ向かった。

 前回の続きから、始めることができるのだ。

 

 なんとなく手を繋いで魔法陣へと乗ると、景色が歪み、気づけば別の場所に立っていた。

 第五階層の中ボスの部屋を抜けたところだと思われる。

 こちらから中ボス部屋へは入れない。

 

「よし、ちょっと実験してみようか」

 

「え?」

 

「ミアラッハ、槍仕舞って。第六階層は私ひとりで戦ってみたい」

 

「いいけど……。あ、もしかして宝箱?」

 

「そう。槍の特殊能力かもしれないから。もし出なければその可能性が濃厚かな、ってね」

 

「そうだね。この槍、鑑定できていないものね。分かった、第六階層はクライニアに任せる……けど大丈夫?」

 

「うん? 大丈夫よ」

 

「そっか。じゃあお任せします」

 

「じゃあ進もうか」

 

 少し進んだところに第六階層への階段があった。

 さあ、ここからは実質、私ひとりだ。

 気合を入れて行こう。

 

 気配察知に感あり。

 魔物は三匹。

 遠くて影しか見えないものの、迷宮の点々とした明かりに照らされて動くのが見える。

 

「〈マジックアロー〉!!」

 

 三匹いるなら、三本出そう。

 そんな意識が働いたのか、同時に三本の〈マジックアロー〉が出現し、それぞれ追尾して三匹の魔物を射抜いた。

 

「……あれ、できた」

 

「【同時発動】、よね? クライニアいまのは」

 

「うん。試しにやったらできた。ちょっと確認するわ。〈ステータスオープン〉」

 

《名前 クライニア・イスエンド

 種族 人間 年齢 15 性別 女

 クラス スカウト レベル 33

 スキル 【日本語】【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】

     【全属性魔法】【闘気法】【錬金術】【剣技】【剣術】【槍技】

     【槍術】【魔力制御】【魔法範囲拡大】【素手格闘】【気配察知】

     【罠感知】【罠設置】【鎧貫き】【魔力自動回復】【同時発動】

     【怪力】【俊足】【創世神信仰】【経験値20倍】【熟練度20倍】

     【転職】》

 

 おお、【同時発動】が増えてる。

 それに【罠感知】も。

 これはありがたい。

 スカウトレベル40は少し遠いので、転職を起動してプリーストになっておく。

 【気配察知】と【罠感知】が増えた以上、スカウトでいる意味はないからだ。

 

《【転職】

 スカウト(レベル33)

 ファイター(レベル24)

 ノーブル(レベル10)

 フェンサー(レベル29)

 ランサー(レベル1)

 グラップラー(レベル31)

 プリースト(レベル1)

 メイジ(レベル22)

 ブラックスミス(レベル1)

 アルケミスト(レベル1)

 メイド(レベル1)

 ウォーロード(レベル1)

 チャンピオン(レベル1)

 アサシン(レベル21)

 ウィザード(レベル22)

 ルーンナイト(レベル1)

 ハーミット(レベル1)》

 

 依然としてハーミットの情報はない。

 グラップラーとメイジの上級クラスということなら、もう少し知名度があってもいいはずだから、それ以外にも何か条件があるのかもしれない。

 プリーストが信仰不要でクラスチェンジできたように、転職は多少の条件なら無視するらしいし。

 

 なにはともあれ、プリーストだ。

 〈ジェネレイト〉系は魔力消費が激しいから使っていないものの、ミアラッハのアップルパイだとか日本のお菓子だとか、生成したいものは多い。

 

「ねえクライニア、どうだった?」

 

「え? ああ、増えてたよ、【同時発動】」

 

「良かったわね!」

 

「うん!」

 

 自己流で覚えられるスキルは覚えたいものだ。

 思えばフェンサーで習得した【剣術】は訓練で覚えられた。

 【熟練度20倍】があるのだから、スキルは覚えやすいはず。

 いろいろとやってみる価値はある。

 

 とはいえ気配察知に罠感知を働かせているので、そうそう面白い試みはできないが。

 

 罠の頻度はそう多くはないが、要所要所でしっかり仕掛けてくる。

 大抵は床を踏むと発動するものが多い。

 稀に壁に罠があることもあるが、基本的に壁に触れないのでスルーだ。

 

 ……一応、指摘はするけどね。

 

 まだこの階層も〈マジックアロー〉無双である。

 地図を買っていないのを失念していたため、迷いながら第七階層への階段まで来た。

 そして、待ちかねたように宝箱がそこにあったのである。

 

「槍、じゃなかったか……」

 

「そうだね……」

 

「じゃあ原因はステータスバグ? 意味が分からないけど……」

 

「そうかもしれない。あ、私、槍を出しておくね」

 

 ミアラッハが魔槍召喚する。

 私は罠がないことを確認してから、宝箱を開けた。

 

 中身は?

 

 真珠のネックレスだ。

 後ろに向けてだんだんと小さくなっていくように、粒の大きさが揃っている。

 

「うわあ、凄い」

 

 ミアラッハが声を上げた。

 そう、凄いことなのだ。

 粒の大きさが揃う、というのは。

 真珠の養殖なんてやってないからね、この世界。

 

「これまた高値だね……」

 

「間違いないよ。私も見たことない」

 

 辺境伯令嬢でも見たことのない宝飾品か。

 一体、幾らの値がつくことやら。

 真珠のネックレスを〈ストレージ〉に仕舞ってから、第七階層へ向けて歩き出した。

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