私もちょっとは緊張をしていたらしい。

「〈マジックアロー〉」

 

 まず一体。

 

「〈マジックアロー〉」

 

 次に二体。

 

 以後省略。

 

 私は事前の打ち合わせ通りに五体のオークを始末した。

 

 オークチーフは鉈のような剣を持ったひときわ大きなオークだ。

 その鉈のような剣を槍の一閃で半分にして、続く連撃で右腕をズタズタにして、さらに〈死棘〉を発動して心臓を突き殺した。

 

 ミアラッハ、初の大物との対決で少し慎重になりすぎでは?

 

 ともあれ中ボスを倒したら部屋の奥の扉が開き、同時に部屋の隅にあった魔法陣が点灯する。

 

 そしてオークチーフの死体が消滅して、宝箱が出現した。

 本日、いつつ目である。

 

「あ、罠があるから私が処理するよ」

 

「え? ええ……」

 

 ミアラッハは少し離れた位置に立ち、私の様子を見守る。

 罠は……どうやら開けると毒針が飛び出すものらしい。

 私は後ろに回って宝箱を開けた。

 

 中身は?

 

 液体の入った小瓶だ。

 何の薬だろうか、液体は緑色に輝いている。

 

「クライニア、それもしかしてポーションじゃない?」

 

「ええ? まさか。第五階層の中ボスでポーションなんて出る?」

 

 ポーションは怪我や病気を瞬時に治す凄い薬品だ。

 怪我ならば〈ヒール〉、病気なら〈キュアディジーズ〉があるものの、どちらも術者の腕前に依存する。

 その点、迷宮産のポーションはほぼありとあらゆる怪我と病気を治す代物だ。

 

 第五階層ごときで出現していいお宝ではない。

 

「そう、そうよね。昔、見たことがある迷宮産のポーションによく似ていたから」

 

 さすが元辺境伯令嬢。

 迷宮産のポーションを見たことがあるとは。

 

「まあとにかく鑑定だね。予定通り、魔法陣で帰ろう」

 

「そうね」

 

 〈ストレージ〉に薬瓶を仕舞って、ふたりで手を繋いで魔法陣に乗る。

 手を繋いだのはなんとなくだ。

 別々の場所に飛ばされるようなことはないが、今日に限っては何が起こるか分からない。

 そんな警戒心をあざ笑うかのように、私たちは無事に第一階層の転移魔法陣に移動した。

 

 迷宮の外に出る。

 

 空気がおいしい。

 ひとまず迷宮という場所を知れたのは大きかった。

 謎の幸運の連続については謎だが、ともあれ早く街へ戻りたい。

 

 武器を仕舞って乗合馬車を待つ。

 数名の冒険者が既に待っているが、そこに『三魔炎』の三人組の姿はない。

 どうやら第五階層の中ボスを倒して先に進んだのだろう。

 

 乗合馬車では、私たちは無言で揺られて安全を満喫した。

 なんだかんだで、私もちょっとは緊張をしていたらしい。

 

 風が心地よかった。

 

 * * *

 

 短剣、口紅、宝石、ティーカップ、薬瓶。

 

 五品の迷宮品を持ち帰った私たちは、冒険者ギルドでこれらを鑑定してもらう。

 鑑定代金は一律で銀貨5枚である。

 結果は?

 

 まず短剣は微風の短剣というマジックアイテムで、風属性の魔法の威力をちょっとだけ高めてくれるというスグレモノだった。

 

 次に口紅だが、これは普通の口紅だった。

 ただしラメ入り。

 この世界でラメ入りの化粧品は見たことがないため、これは口紅にしては高値がついた。

 

 次に宝石。

 ブリリアントカットのダイヤモンドだ。

 ただしこの世界で、ブリリアントカットはまだ発明されておらず、精巧なカットが施されたダイヤモンドとして鑑定師をも驚かせた。

 金貨にして50枚である。

 オークションに出したらもっと行く、とは鑑定師の談。

 いいえ即金で十分です。

 

 次にティーカップ。

 無毒のティーカップという名称のマジックアイテムで、その名の通り、カップの中身や飲み口に付着したあらゆる毒を解毒して無害化するという一品である。

 これは王侯貴族に需要があるため、やはり高値で売れることになった。

 というか売ってくれとギルドに懇願された。

 

 最後に薬瓶。

 やはりというか、ポーションだった。

 迷宮産のポーションは質が良いので有名だ。

 ともあれこれは売らずに〈ストレージ〉に確保しておくことにした。

 

 依頼に出すのは微風の短剣となった。

 というか、迷宮の低階層でこれだけの代物が出たとは言えない。

 どれだけ潜っていたんだ、という目で見られたので至極、居心地が悪かった。

 

 ともあれ依頼、達成である。

 報酬は依頼主が実物を入手してから値段を付けるとのことだが、金貨10枚くらいが相場らしいので、そのくらいになるだろうとのこと。

 

 ……疲れた。

 

 宿に戻って、ふたりで無言でベッドに倒れ込む。

 

「あの宝箱ラッシュはなんだったのかねえ」

 

「分からない。少なくともズルをしている気分になるくらい儲かったのは分かった」

 

「そうなのよ。儲かっちゃったね」

 

「大儲けよ。金銭感覚が狂いそう」

 

 精神を休めるため、明日は休日とあいなりました。

 

《名前 クライニア・イスエンド

 種族 人間 年齢 15 性別 女

 クラス スカウト レベル 32

 スキル 【日本語】【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】

     【全属性魔法】【闘気法】【錬金術】【剣技】【剣術】【槍技】

     【槍術】【魔力制御】【魔法範囲拡大】【素手格闘】【気配察知】

     【罠設置】【鎧貫き】【魔力自動回復】【怪力】【俊足】

     【創世神信仰】【経験値20倍】【熟練度20倍】【転職】》

 

 あと残念ながらレベル40には届きませんでしたとさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る