特にアップルパイは絶品だった。

 ミアラッハが神殿でクラスチェンジを行うのに、私も同行した。

 ミアラッハは下級クラスのランサーに就いた。

 ステータスを見せてもらったところ、ちゃんとランサーになっている。

 そのことを告げると、ミアラッハは誇らしげに微笑んだ。

 

「槍を使いこなす必要がありますね。せっかく魔槍召喚で凄い槍があるのですから、槍技と槍術を高めたいです」

 

「ふむ、そうだな。ミアラッハには槍術の教師を付けよう。そうだ、クライニア、剣術の方はどの程度だ? よければそなたにも剣術の教師を付けよう」

 

「剣術の教師を、私にですか?」

 

「うむ。不要か?」

 

「いいえ、お願いします」

 

「では手配しておこう」

 

 その日から、私とミアラッハはそれぞれ剣術と槍術の訓練をすることになった。

 剣術については詳しくなかったので、素直に嬉しい。

 教師の流派は知らないが、剣閃を飛ばすのは〈空牙〉、剣の切れ味を一時的に向上させる〈斬鉄〉、霊体などの実体のないものを斬る〈霊破斬〉を習得した。

 たったみっつとはいえ、剣術は奥が深い。

 〈空牙〉にしたって単に剣閃を飛ばすだけでなく、刀身の延長線上を切り裂くようにも応用が効くのだ。

 練度が低ければ、〈斬鉄〉や〈霊破斬〉をもってしても斬れないものが出てくるだろう。

 私の場合は、【熟練度20倍】のお陰でスルスルと練度が伸びていったので、教師の方が「お前は天才かっ!!」と叫ぶハメになった。

 

 ちなみにミアラッハは地道に槍術の方を磨いていた。

 槍を扱ったことがないため、槍技の方の鍛錬も行っていた。

 私は早々に剣術を極めたため、槍技習得のために訓練をご一緒させてもらうことにした。

 もちろん【熟練度20倍】が効果を発揮して、あっという間に【槍技】と【槍術】を習得したわけだが。

 

 槍術は目にも留まらぬ速さで突きを連続して繰り出す〈さみだれ〉、即死判定を持つ突きを繰り出す〈死棘〉のふたつだ。

 特に後者の〈死棘〉は怖い。

 槍の穂先が心臓目掛けてグニャリとひん曲がって急所を狙いに来るのだ。

 

 槍技では横薙ぎや槍投げも教わった。

 ミアラッハの魔槍は投げても手元に戻ってくる性質があるらしく、便利そうだ。

 魔槍というからには他にも効果がありそうなものだが、冒険者ギルドの【物品鑑定】を持つ職員を呼んで鑑定させたが、何も分からず仕舞いだった。

 

 またミアラッハの縮地と空歩という見慣れないスキルも、効果のほどはチート級だった。

 まず距離を縮めて移動する縮地、空中に見えない足場を作って移動できる空歩。

 どちらも槍使いが持っていると、間合いをコントロールするのにうってつけなのだ。

 私も習得できないか試したが、これは難しいというかそもそもの取っ掛かりが分からなくて諦めた。

 代わりに【俊足】という移動能力を高めるスキルを習得できたが。

 

 空き時間があったので、魔法書も読むことができた。

 ブライナー家に所蔵されていたものをタダで読めたので、魔法の幅が随分と広がった。

 

 季節ひとつ分を過ごした結果、私たちのステータスはというと。

 

《名前 ミアラッハ・ブライナー

 種族 人間 年齢 16 性別 女

 クラス ランサー レベル 2

 スキル 【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】

     【槍技】【槍術】【回避】【闘気法】【縮地】【空歩】【製菓】

     【魔槍召喚】》

 

《名前 クライニア・イスエンド

 種族 人間 年齢 15 性別 女

 クラス プリースト レベル 1

 スキル 【日本語】【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】

     【全属性魔法】【闘気法】【錬金術】【剣技】【剣術】【槍技】

     【槍術】【魔力制御】【魔法範囲拡大】【素手格闘】【気配察知】

     【罠設置】【鎧貫き】【魔力自動回復】【怪力】【俊足】

     【創世神信仰】【経験値20倍】【熟練度20倍】【転職】》

 

 ミアラッハのレベルが上がっているのは、ランサーとして槍の修行をした成果だ。

 私の方はプリーストとして何もしていないので、レベルは変わっていない。

 どうせ魔物を倒せばすぐにレベルが上がるので、こそこそと経験値を稼ぐ気にならなかったというのもある。

 

 ミアラッハは製菓の訓練もしており、私も度々ご相伴に預かった。

 特にアップルパイは絶品だった。

 

 そして遂に、辺境伯から国外脱出の許可が降りたのだった――。

 

 * * *

 

「ミアラッハも十分に腕前を上げたし、クライニアもミアラッハと共にある以上はと思ったが、想像以上に腕前を上げた。ふたりを冒険者として隣国キウス王国に移動させることができる」

 

「お祖父様、ありがとうございます」

 

「うん。ミアラッハ、達者でやれよ。言うまでもないが、クライニア、ミアラッハを頼むぞ」

 

「はい。辺境伯様」

 

「ミアラッハ。ブライナーの名を捨てなさい」辺境伯はミアラッハを抱きしめた後、涙を浮かべて告げた。

 

「はい。お祖父様。私はこれからただのミアラッハとして生きていきます」

 

「ああ。ミアラッハが幸せになれる道がそれしかないというのならば、……私は胸を張って送り出さねばならぬな」

 

 冒険者になるということは、貴族の身分を捨てるということだ。

 ミアラッハは家族との時間を過ごした後、私と領主の館から立ち去った。

 

 冒険者ギルドへの道すがら、私はミアラッハに秘密を打ち明けることにした。

 

「ミアラッハ。冒険者ギルドで登録する前に聞いて欲しいことがあるの」

 

「なに? 突然、改まって」

 

「実は、冒険者タグのスキルなんだけどね。全部申告してないんだ」

 

「え?」

 

「【全属性魔法】っていうスキルを持っている。系統外属性を含めて、全属性の魔法が使えるんだけど、それを申告してない」

 

「そうなんだ。でもなんでそんなことを?」

 

「聞いたことある? 【全属性魔法】なんてスキル」

 

「ない。私の【魔槍召喚】も聞いたことがないけど……ステータスバグの人はみんな希少なスキルを持っているってこと?」

 

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも私は面倒ごとを避けるために、敢えてスキルを隠している。ミアラッハがどうするかは自分で決めていいよ」

 

「もう。考える時間がほとんどない。もっと早く教えてよ」

 

「辺境伯にも知られたくなかったからね」

 

「うーん。私の場合は武器を【魔槍召喚】に頼っているから、申告しないという選択肢はない、かなあ」

 

「そうだね。言われてみればそうか」

 

 希少なスキルを持っていることで何かトラブルに巻き込まれるかもしれないけど、そこは自力で乗り越えるだけの実力を身に着けた。

 私たちふたりなら、大抵の困難はどうにかなるだろう。

 

 ちなみに身分を捨てる覚悟をしていたミアラッハとは、会って数日でタメ口になっていた。

 というか向こうが「今後、一緒に旅をするのに私に対して敬語を使うのは不便でしょう」と言ってきたので、甘えている。

 本来は身分違いだったのだが、世の中どうなるか分からないものだ。

 

 冒険者ギルドでは特に問題もなくスムーズにミアラッハの登録ができた。

 私も槍技と槍術を追加しておいた。

 

《名前 ミアラッハ

 種族 人間 年齢 16 性別 女

 クラス ランサー レベル 2

 スキル 【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】

     【槍技】【槍術】【回避】【闘気法】【縮地】【空歩】【製菓】

     【魔槍召喚】》

 

《名前 クライニア

 種族 人間 年齢 15 性別 女

 クラス ウィザード レベル 15

 スキル 【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】

     【基本魔法】【氷魔法】【雷魔法】【光魔法】【時空魔法】

     【剣技】【剣術】【槍技】【槍術】【闘気法】【魔力制御】》

 

 ミアラッハ、銅色の冒険者タグを首から下げて、嬉しそう。

 

「よし。じゃあ国境を越えよう」

 

「うん。これからよろしく、クライニア」

 

 私たちは辺境伯からの手紙を持って、国境の砦を越えた。

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