迷宮攻略編

知らない国の、知らない土地。

 出国も入国も、辺境伯の手紙で審査を無視して砦を通り抜けた。

 

 知らない国の、知らない土地。

 貴族院で習った限りでは、私たちの国ミステイン王国といまいるキウス王国は友好国であり、人はともかく物の行き来は頻繁だ。

 魔物という共通の敵がいる以上、人間同士で争っている暇はないのかもしれない。

 とりあえず街道沿いを歩いて、最初の街に入った。

 

 国境に近い街ということで、商人が多い印象だ。

 ブライナー辺境伯領の領都に似ている。

 

 ひとまず冒険者ギルドへ向かうことにした。

 依頼の張り出されている掲示板を眺め、どんな依頼があるのか確認する。

 

 もう追手を気にして先を急ぐ理由はない。

 だから腰を据えて、依頼を受けることもできる。

 これまで敢えて無視してきた、迷宮関連の依頼などもそのひとつだ。

 迷宮は異なる次元に展開しているいわゆるダンジョンなのだが、これが個性豊かで様々な物資を産出している。

 魔物の素材もだが、何より宝箱の存在が大きい。

 宝箱から出る迷宮産の物品は、常ならぬ魔法の品が時折出るのである。

 水が尽きない水袋だとか、遠隔地と通信できる二体一対のぬいぐるみだとか、有名所だとそんな便利グッズがあるらしい。

 

 だから冒険者の主な仕事としては、迷宮に潜って魔法の品を入手して一攫千金、というのが王道パターンなのである。

 

 ミアラッハの魔槍も魔法の品だが、アレは迷宮品と比べても規格外だ。

 何より【物品鑑定】のスキルを弾く特性を持っているため、辺境伯が手配した鑑定師もお手上げだった。

 今の所は材質がオリハルコンで、投げても手元に戻ってくるという性質しか判明していない。

 

 ……まあメインウェポンとしてならそれだけでも十分なんだけどね。

 

 ともあれ、迷宮関連の依頼を受けるということで、ミアラッハとは意見の一致を見た。

 というかミアラッハが迷宮に一度、潜ってみたいと言い出したからだ。

 

「やっぱり冒険者なら、一度は迷宮に潜りたい」

 

「分からなくもないけど」

 

「駄目?」

 

「……いや、ミアラッハがいいならいいよ」

 

 そんな話をしていると、若い男性と若い女性ふたりの三人組が声をかけてきた。

 

「あの。迷宮に潜るなら一緒にパーティを組みませんか?」

 

「あなたたちは?」

 

「銅ランク冒険者パーティ『三魔炎』といいます。三人とも【炎魔法】を持っているんで『三魔炎』。俺は前衛のファイターで、後ろのふたりはメイジとプリーストです」

 

 ふむ。

 ミアラッハと顔を見合わせる。

 

「……悪いけど、私たち色々あって他の人とは組まない予定でいるの。ごめんなさい」

 

「そうでしたか。でもふたりだけで迷宮は厳しいのではないでしょうか?」

 

「まあ人数は少ないのは確かだね。でもこっちのミアラッハは銅ランクだけど、実力は銀ランクくらいあるし、私も銀ランクだし。戦力は間に合っているの」

 

「そうでしたか……では失礼します」

 

「うん。ごめんね」

 

 大人しく引き下がってくれたのでホッと胸をなでおろす。

 さて迷宮関連の依頼だけど、どれを受けようかな。

 

 * * *

 

 依頼は「迷宮産のマジックアイテムの買い取り」に決めた。

 特に期限なし。

 上限額の金貨20枚までの価値の魔法の品ならばなんでも買い取ってくれるというものだ。

 

 とはいえ常設依頼じゃないから、受け付けで処理してもらわなければならない。

 さっそくカウンターに並び、順番が回ってくるのを待つ。

 

「迷宮産のマジックアイテムってどのくらいで出るものなの?」

 

「さあ。出るまで粘ればいいと思うよ?」

 

 私たちの頭の悪い会話を聞きつけて、前の冒険者たちが振り返った。

 

「おいおい、お嬢ちゃんたち迷宮を舐めすぎだろ」

 

「なに、いきなり」

 

「いや、なにってお前らこそなんだ。迷宮がどれだけ危険なのか分かっているのか?」

 

「まあ……話に聞く程度には」

 

「おいおい真面目にどうなってるんだお前らの頭の中は。さっき『三魔炎』の勧誘を断ってるとこ見てたけどよ。戦闘ができるだけじゃ駄目なんだぞ。迷宮には罠もある。せめてどっちかスカウトなんだろうな」

 

「まあね。私がスカウト役できるから」

 

「スカウト役? クラスはなんなんだ?」

 

「ウィザード」

 

「スカウトじゃねえじゃねえか!」

 

 転職でいつでもスカウトになれるのだけど、それは言えないので黙秘するしかない。

 とはいえこの先輩冒険者の言うことも一理あるのは確かなのではあるけども。

 

「余計なお世話だよ。行き詰まったらスカウトにクラスチェンジすればいいだけだから」

 

「そんなホイホイとクラスを変えたら大成せんぞ」

 

「そんな心配をされる筋合いはないわ。ともかく大丈夫だから」

 

「……ったく。若い子が死なれると寝覚めが悪いんだよ。頼むからもう少し危険意識をもってくれ」

 

「親切にどうもありがとう。でも大丈夫だから」

 

 先輩冒険者はブツブツ言いながら前を向いた。

 不安そうな顔をしているのはミアラッハだ。

 

「ねえ、本当に大丈夫かな?」

 

「大丈夫だから。そうだね……宿に戻ったらちゃんと話すよ」

 

「何を?」

 

「私の秘密そのに」

 

「……まだ何か隠し玉があるの?」

 

 ミアラッハが半目で私を見やる。

 うん、そんな目で見ないでおくれ。

 

 おっと受け付けの順番が回ってきた。

 

「この依頼を受けたいのですけど」

 

「はい。見ない顔だけど、どこから来たの?」

 

「隣の国のミステイン王国から」

 

「隣国から? そう。冒険者タグを確認させてください」

 

「「はい」」

 

 私たちはそれぞれ冒険者タグを差し出した。

 

「え? なにこのスキル……聞いたことない。それにこっちは魔法が……」

 

 さすがギルドの受付嬢。

 驚きつつも個人情報は漏らさない。

 

「はい、ありがとうございました。でもさっきの冒険者たちの話じゃないけど、スカウトいないと迷宮は大変よ? 大丈夫かしら?」

 

「あ、はい。大丈夫です。そこは策がありますので」

 

「そう。なら依頼内容はこの通りですので、大きな怪我をしないように頑張ってね」

 

 かくして初の迷宮に挑む私たちであった。

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