やられて嫌な戦術をやり返した。

「その剣、アダマンタイトか。剣技のスキルは?」

 

「ありませんよ。でもまあ、力づくでなんとかなって良かったです」

 

「馬鹿なこと言うな! 身のこなしを見れば分かる。スキルあるだろう!」

 

「嫌だなあ。その話はまたにしましょうよ」

 

「クソ。ヒドラの死体は持って帰るぞ。クライニア、〈ストレージ〉に全部入るか?」

 

「多分、大丈夫です」

 

 私は〈ストレージ〉にヒドラの死体を入れた。

 首が余分に十本以上ある。

 かなりの容量をくったが、まだ余力がありそうだ。

 剣も仕舞っておく。

 

「なんて容量だよ……。まあいい、街に戻るぞ」

 

 冒険者ギルドの前には、ヒドラ討伐のために集められた冒険者たちがいた。

 

「ジョルヴェ!! ヒドラはどうした!?」

 

「支部長。ヒドラはなんとか倒せました。死体はクライニアに運ばせてます。解体場に出します」

 

「おう、そうしてくれ」

 

 支部長は白ひげのおじいちゃんだった。

 私たちは解体場に入り、そこにヒドラの死体を出した。

 切り落とした首も多数。

 支部長とジョルヴェは呆れた様子で私に告げた。

 

「とりあえず、森に調査に向かった面子には後で報酬を出す。ヒドラ討伐に参加しようとした連中には酒でも出すか……」

 

「じゃあ私はこれで……」

 

「クライニア。お前、剣技のスキルがあるだろう。なぜ隠した」

 

「ええと……」

 

「更新してけ。今後も剣技を使うこともあるだろう? 個室を用意してやるから」

 

「はい」

 

 大人しく冒険者タグの更新をすることになった。

 

《名前 クライニア

 種族 人間 年齢 15 性別 女

 クラス ウィザード レベル 5

 スキル 【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】

     【基本魔法】【時空魔法】【剣技】【闘気法】【魔力制御】》

 

 これが私の冒険者タグの情報だ。

 だが実際のステータスはというと?

 

《名前 クライニア・イスエンド

 種族 人間 年齢 15 性別 女

 クラス ウィザード レベル 22

 スキル 【日本語】【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】

     【全属性魔法】【闘気法】【錬金術】【剣技】【魔力制御】

     【気配察知】【魔法範囲拡大】【素手格闘】【罠設置】【鎧貫き】

     【?】【経験値20倍】【熟練度20倍】【転職】》

 

 経験値20倍が効いて、レベル22に。

 やったぜ、新しいスキルだ。

 ウィザードなら、魔法系スキル確定だ。

 スキルを選択して、新しいスキルを決定する。

 結果は?

 【魔力自動回復】だ!

 ただでさえ多い魔力が、自動回復していくのか……。

 

 さすがにジョルヴェも疲労困憊らしく、私たちは解散となった。

 銀ランクパーティは振る舞われる酒を楽しみに酒場に向かったが、私は疲れていたので宿に戻った。

 

 宿で〈クレンリネス〉してから、夕食を食べてベッドの上で寝る前に転職を起動する。

 

《【転職】

 ウィザード(レベル22)

 ノーブル(レベル10)

 ファイター(レベル1)

 フェンサー(レベル1)

 グラップラー(レベル31)

 スカウト(レベル27)

 プリースト(レベル1)

 メイジ(レベル22)

 アルケミスト(レベル1)

 メイド(レベル1)

 チャンピオン(レベル1)

 アサシン(レベル21)

 ハーミット(レベル1)》

 

 おや、下級クラスにフェンサーが増えている。

 剣による戦闘を経験したからだろう。

 今後も剣で戦う機会があるかもしれないので、フェンサーにクラスチェンジした。

 

《名前 クライニア・イスエンド

 種族 人間 年齢 15 性別 女

 クラス フェンサー レベル 1

 スキル 【日本語】【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】

     【全属性魔法】【闘気法】【錬金術】【剣技】【魔力制御】

     【気配察知】【魔法範囲拡大】【素手格闘】【罠設置】【鎧貫き】

     【魔力自動回復】【経験値20倍】【熟練度20倍】【転職】》

 

 よしよし。

 明日は報酬を貰ったら、森に行こう。

 ヒドラと戦っている最中に、視線を感じたんだよね。

 多分、魔族が時空属性の魔法で戦いの様子を覗き見していたんだと思う。

 そろそろ手駒も尽きてきた頃だろうから、次は本人が出てくるんじゃないかな?

 

 * * *

 

 森の調査依頼の報酬が金貨2枚、ヒドラの討伐報酬が金貨30枚になった。

 ヒドラの死体を丸ごと解体場に運び込めたのが大きかったらしい。

 

 私は何食わぬ顔で報酬を受け取ると、依頼掲示板を眺めてから、冒険者ギルドを後にする。

 市場で野菜を仕入れて、〈ストレージ〉に放り込んでいく。

 時空魔法は目立ったが、胸元に光る銀色の冒険者タグのお陰で、特に何か言われることもなかった。

 門から街を出て、森に向かう。

 

 昨日、ヒドラと戦った辺りでまた視線を感じた。

 

「見ているんでしょ。出てきたら?」

 

「――驚いたな。視線転移を気取られていたとは。いや時空属性を持っているのならそれも分からなくもないが」

 

 気づいたら目の前に黒髪を腰まで垂らした男がいた。

 青白い肌、魔族だ。

 

「やっぱり手駒はもうないみたいね」

 

「貴様に潰されたからな」

 

「ここで何をしようとしていたの?」

 

「……弟子に戦力の増強を任せ、街に攻め入る準備をしていた。お前に台無しにしされたが」

 

「ゴブリンのアンデッドを量産していたアレ?」

 

「そうだ。弟子の腕前ではあの程度だろうさ」

 

「そっか。……じゃあここでアンタを倒せば万事解決だね」

 

「勝てるつもりでいるのか。不可解だな」

 

「そう?」

 

「ああ。私とお前では実力に天地ほども開きがあるぞ」

 

 ふと魔族の姿が消えた。

 脇腹に灼熱感。

 背後に転移してナイフで刺された!?

 

「ひ、〈ヒール〉!!」

 

「死ね」

 

 呟かれた言葉には何の感情も籠もっていない。

 ただ「死ね」と命じ、そのとおりの結果が得られるという確信をもっているような、そんな呟き。

 ……馬鹿言ってるんじゃないよ、死ぬのはお前だ!!

 

 〈ストレージ〉から剣を取り出して応戦する。

 魔族の得物はナイフ。

 ミスリル製なのか、闘気で強化されたそれが閃く度に、私にかすり傷が増えていく。

 速い。

 

「くっ、〈シャイニングセイバー〉!!」

 

 空中に八本の光り輝く剣が現れる。

 射出。

 

 しかし魔族は既にその場にいない。

 転移だ。

 

 咄嗟に気配察知を起動。

 背後にいることを確認して、前方に走る。

 

「はは。逃げろ逃げろ。逃げ切れるなら、な」

 

「〈シャイニングセイバー〉!!」

 

「〈ダークブリンガー〉」

 

 それは対を為す魔法。

 光の八剣と闇の八剣がぶつかり合い、ガラスの砕けるような音とともに双方の魔法が相殺された。

 

「〈ストラグルバインド〉!!」

 

「無駄だ」

 

 転移された。

 気配察知を起動する。

 また背後にいる!

 

 剣を後ろに振るう。

 ナイフで止められた。

 

「ふむ。転移先を読めるのか?」

 

「さてね」

 

 速度を上げる。

 闘気法を全開にして、一気呵成に畳み掛ける。

 しかし魔族も闘気法をまとい、ナイフで迎撃する。

 しかし剣とナイフのリーチの差からか、私の方が優勢だ。

 アダマンタイトの重さもあって、ナイフで受けきれずに魔族は押され気味である。

 

 ふと、視界から魔族が消える。

 劣勢になるや、転移して逃げるのが戦術らしい。

 気配察知を起動。

 今度は少し離れた位置に立っていた。

 

「接近戦では分が悪そうだ。――〈ストレージ〉」

 

 魔族が異空間から取り出したのは、一体のオーガの死体だった。

 

「起き上がれ。〈ネクロマンシー〉」

 

 死霊魔術か!

 むくりと起き上がったオーガは、手に棍棒を持っている。

 二体を相手取るのは難しい。

 

「〈イクソシズム〉!!」

 

 アンデッドを消滅させる光属性の魔法だ。

 オーガはチリとなって消え去る。

 

「ほう。そんな魔法まで習得していたか」

 

「悪いけど、アンデッド単体を呼び出すだけじゃ、戦況はひっくり返らないわ」

 

「ふむ……」

 

「〈シャイニングセイバー〉!!」

 

 光の八剣とともに魔族に肉薄する。

 しかし転移で逃れられる。

 ああもう、面倒な!!

 

「では魔法戦といこう。〈シャドウセイバー〉」

 

 私は足元から伸びる刃を回避する。

 対象の影から直接、刃を伸ばす闇属性の攻撃魔法だ。

 

「〈ブリザード〉!!」

 

「くッ!!」

 

 こうなったら、こちらもバンバン魔法を撃っていくしかない。

 転移の隙を与えることなく、魔法を叩き込んでいく。

 

「〈ライトニング〉!!」

 

「〈ダークブリンガー〉」

 

 直線を走る稲妻が魔族を焼く。

 対して闇の八剣がこちらに迫る。

 

「〈テレポート〉!!」

 

「!?」

 

 移動先は魔族の背後。

 剣を振るって首をはねる。

 

 やられて嫌な戦術をやり返した。

 首を落としたから、さすがに死んだよね?

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