悪くない剣だというのは、素人目にも分かる。

 冒険者タグの更新を行った。

 

《名前 クライニア

 種族 人間 年齢 15 性別 女

 クラス ウィザード レベル 1

 スキル 【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】

     【基本魔法】【時空魔法】【魔力制御】》

     

 さすがに【全属性魔法】とは言えないので、【基本魔法】と【時空魔法】が使えることにしておいた。

 ギルド職員の上司からの「これだけか?」という胡乱げな視線に耐えながら、笑顔で受け流したのはどうだったのだろうか。

 怪しまれているのは確かだ。

 実際、スキルはこの倍くらいはあるわけで。

 

 とはいえ読めない以上は、私がこうだ、と言った通りにするしかない。

 

 なので無事に上記の内容で銀ランクの冒険者タグに変わった。

 

「じゃあ森の案内は……そうだな、人数を募って明後日の朝からにしておく。逃げるなよ?」

 

「逃げませんよ」

 

 金貨23枚を受け取り、上司に挨拶をしてとっとと宿に引っ込む。

 さすがに色々とあって、疲れているのだ。

 

 夕食を食べて寝る。

 翌日はさて、何をしようか。

 森は危険があるかもしれないのでパスしたい。

 

 そうすると、今日はせっかく収入もあったことだし、ショッピングと洒落込もう。

 いい加減、着替えも欲しいし、魔法に関する本も欲しい。

 剣技のスキルもあることだし、剣も購入したいところだ。

 いかんな、節制しないとあっという間に所持金がなくなりそう。

 

 ともあれせっかくの大きな街だ。

 観光しても罰は当たるまい。

 

 まずは着替えから。

 古着屋に向かい、シンプルな上下を揃えた。

 もちろん下着も購入しておく。

 買った品物は隠す必要のなくなった〈ストレージ〉に仕舞った。

 

 次は本屋だ。

 大通りにある本屋に入る。

 独特の紙とインクの香りが懐かしい気分にさせてくれる。

 お目当ての魔法関連書物は、属性別になっており残念ながら時空属性の本は無かった。

 他の属性の本を購入するのはおかしく見えそうなので、自重。

 とはいえ戦力アップのチャンスである。

 この機会、逃すべからず。

 

 光属性の魔法集を手に取り、パラパラとめくる。

 ただし闘気法を全開にして。

 特に動体視力を意識して強化して、呪文を頭にインプットしていく。

 なるほどね、回復魔法が充実しているけど、〈シャイニングセイバー〉とか攻撃魔法もなくはないらしい。

 立ち読みするのはマナー違反なので、この一冊だけにしておく。

 

 んー、他に気になる本はないかな。

 立ち読みだけで申し訳ないが、不要な本を購入する趣味はない。

 

 あとは剣だね。

 大通りに面した武具屋に入る。

 剣といっても色々な剣があるのだが、どれがいいのかサッパリだ。

 

 店番をしている青年に、剣が欲しいのだけど、と告げてみる。

 

「お嬢さん、悪いけどあんたのその細腕で振れる剣はないよ」

 

「これでも闘気法は使えるけど?」

 

 銀ランクの冒険者タグに気づいた青年が、背筋を伸ばした。

 

「あ、失礼しました。銀ランクの冒険者の方でしたか」

 

「ええ。それなりにパワー出せるんだけど、かと言って大きな剣は扱いづらいでしょう」

 

「そうですね。普通は体格に合わせます。お客さまですと、この剣かな」

 

 青年が店の奥から出してきたのは、ひと目でミスリルが混じっていると分かるブロードソードだった。

 

「これミスリル混じっているようだけど」

 

「お分かりになられますか。そうです、ミスリルと鋼の剣です。ミスリルは闘気をまとわせることで、硬化しますから、お客さまの腕前ならちょうどいいのではないでしょうか」

 

 銀ランク冒険者と分かった途端に商魂たくましくなりやがって……。

 ともあれ、悪くない剣だというのは、素人目にも分かる。

 

「軽く素振りしたいんだけど、場所ある?」

 

「店の裏手に巻き藁があります。試し斬りもできますよ」

 

「んー、じゃあ試しに斬ってみてから考える」

 

「こちらへどうぞ」

 

 裏手に案内されたところ、確かに巻き藁が並んでいた。

 闘気法を全開にして剣にも闘気をまとわせる。

 巻き藁に剣を振るった。

 

 軽い手応え。

 巻き藁は綺麗に上半分が地面に落ちる。

 

 うーん、もう少し重い剣でも良さそうかな。

 

「もっと重い剣はある?」

 

「……え? ええ、ありますけど」

 

「じゃあそれ出してきて」

 

「は、はい」

 

 青年が走って店に戻っていく。

 そして両手で慎重に抱えてきたのは、多分アダマンタイト混じりの黒い剣だ。

 また高級そうなものを……。

 

「アダマンタイトと鋼の剣です。闘気をそれだけ扱えるのでしたら、ミスリルでなくアダマンタイトの重さを利用するのがよろしいかと」

 

「じゃあ試してみる」

 

 ひとつ隣の巻き藁を斬りつける。

 

 剣は確実に重くなっており、しかし軽く振るうことができた。

 ちょうどいい感じじゃない?

 

「じゃあこれかな。ところでこれ、幾ら?」

 

「金貨5枚になります」

 

「あそ。じゃあ鞘もセットで金貨5枚でいいかな?」

 

「え、……そうですね。分かりました、鞘代はサービスで」

 

 やっぱ鞘は別売りか。

 こういう店より、裏通りの鍛冶師が直接販売しているようなところへ行くべきだっただろうか?

 いや品質は問題ないことだし、どうせ魔法主体の戦闘スタイルを変えるほどじゃないだろうから、拘る必要はないか。

 

 私は代金を支払い、剣を〈ストレージ〉に仕舞って店を後にした。

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