銀ランクに昇格ですか?

 しんどい。

 

 魔力をかなり消耗した気がする。

 ともあれ、ブラッドトロールは死体になって転がっている。

 

 解体する気力もない。

 というかどこをどう解体すればいいのか分からない。

 こいつの討伐部位はどこだろうか。

 

 考えるのも億劫なので、〈ストレージ〉に丸ごと仕舞う。

 忘れずに魔族の死体も、〈ストレージ〉行きだ。

 

 さてこれだけ苦労したのだから、経験値は期待してもいいだろう。

 

《名前 クライニア・イスエンド

 種族 人間 年齢 15 性別 女

 クラス アサシン レベル 21

 スキル 【日本語】【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】

     【全属性魔法】【闘気法】【錬金術】【剣技】【魔力制御】

     【気配察知】【魔法範囲拡大】【素手格闘】【罠設置】【?】

     【経験値20倍】【熟練度20倍】【転職】》

 

 さすが上級クラス、必要経験値が多い。

 体感では下級クラスなら30レベル以上になっていてもおかしくないと思う。

 

 ともあれ、レベル20を越えたので新しいスキルを入手できた。

 上級クラスのスキルだ、期待してもいいだろう。

 

 グルグル文字が回転する。

 結果は?

 【鎧貫き】。

 文字通り、鎧の隙間を縫って攻撃するスキルである。

 例え鎧を身にまとっていなくても、硬い魔物の骨格の隙間に攻撃を通すこともできる。

 便利なスキルだ。

 

 アサシンのレベルを上げても良いのだけど、やっぱり他クラスをレベル20にしてスキルを増やす方が強くなれる感じがする。

 よって転職を起動する。

 

《【転職】

 アサシン(レベル21)

 ノーブル(レベル10)

 ファイター(レベル1)

 グラップラー(レベル31)

 スカウト(レベル27)

 プリースト(レベル1)

 メイジ(レベル22)

 アルケミスト(レベル1)

 メイド(レベル1)

 チャンピオン(レベル1)

 ウィザード(レベル1)

 ハーミット(レベル1)》

 

 特に新しいクラスは出現していない。

 今回は魔法をレジストされたので、ウィザードを育てて魔法の威力を高めるのが良いだろう。

 まさかあれほど魔法に強い魔物がいるなんて、知らなかった。

 

《名前 クライニア・イスエンド

 種族 人間 年齢 15 性別 女

 クラス ウィザード レベル 1

 スキル 【日本語】【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】

     【全属性魔法】【闘気法】【錬金術】【剣技】【魔力制御】

     【気配察知】【魔法範囲拡大】【素手格闘】【罠設置】【鎧貫き】

     【経験値20倍】【熟練度20倍】【転職】》

 

 これでよし。

 もう狩りをする気力もないので、今日は街に帰ろう。

 

 * * *

 

 冒険者ギルドの買い取りカウンターに報告だ。

 

「あの、森の奥で魔族に遭遇したんですけど」

 

「え、魔族ですか!?」

 

「はい。討伐はしたので、死体は確保してあります。持ち物などまだ見ていないのですが」

 

「奥の部屋に出してもらえますか。職員を二名、つけますので」

 

「はい」

 

 ギルド職員に奥の部屋に案内される。

 〈ストレージ〉から魔族の死体を出した。

 

「青白い肌、尖った長い耳、確かに魔族ですね」

「黒いローブは魔法の品のようです」

 

 ギルド職員が魔族の死体を見分していく。

 持ち物は多岐に渡るが、目ぼしいものはない。

 いや、何に使うのか分からない呪符が一枚出てきたけど。

 

「これは……連絡用の呪符か?」

「魔族がよく持っている奴ですね。使い捨ての」

 

 ほほう、連絡用の呪符?

 どこと連絡できるのかな。

 

「黒いローブと呪符を買い取りします。あと魔族討伐の報酬が出ないか、上司に掛け合いますね」

 

「あ、まだあるんです。その魔族を倒した後に、ブラッドトロールが出てきて」

 

「ブラッドトロール!?」

 

「かなり大きいので、この部屋には出せないんですけど」

 

「そちらも見分します。解体場に参りましょう」

 

 ギルド職員についていくと、血と臓物の匂いの充満した広い部屋に通された。

 

 解体を生業とする職員が「なんだ?」と興味深そうにこちらを見てくる。

 

「ここなら出せますか?」

 

「はい。じゃあ出しますね。〈ストレージ〉」

 

 でん。

 ギルド職員たちが唖然としている。

 

「これ、おひとりで倒したのですか?」

 

「はい」

 

「そうでしたか……こちらも討伐報酬が出るように上司に交渉します」

 

「よろしくお願いします」

 

 ギルド職員が見分したが、ブラッドトロールはほぼ全裸なので何も出てくることはなかったけどね。

 

 ギルド職員の先導で、上司らしき職員が解体場に入ってきた。

 

「こ、これは……確かにブラッドトロールだ」

 

 ペタペタと触りながら、眉間にシワを寄せる。

 上司は私を見て、「これをどうやって倒した?」と質問してきた。

 

「〈マナジャベリン〉を撃ち込んで倒しました」

 

「魔法だけか?」

 

「はい」

 

「……信じられん。よく魔力が保ったな」

 

 はあー、とため息をつき、上司とともに別室に移動することになった。

 

「魔族とその所持品、ブラッドトロールは買い取らせてもらいたい。あとは討伐報酬として別に金貨20枚を出そう」

 

「それで構いません」

 

「まったく……街の近くの森にこんな大物がいたとはな。一度、森を徹底的に調査しなければならん。そのときに手伝ってもらうぞ」

 

「え、それは……」

 

「魔族がいた場所とブラッドトロールと遭遇した場所に案内してもらえるだけで構わない」

 

「じゃあそのくらいなら」

 

「……さて、冒険者タグを預からせてもらう。ソロでブラッドトロールを討伐した冒険者が銅ランクでは格好がつかん」

 

「銀ランクに昇格ですか?」

 

「そうだ。手続きに時間を取らせるが、昇格はしておいて損はないだろう」

 

「まあ、そうですね」

 

 私がしつこく勧誘を受けるのも、銅ランクであることが一因だと思われるので、銀ランクへの昇格は願ったりだ。

 銀色のタグをぶら下げていれば、格下の銅ランク冒険者は近づいてこないだろう。

 

 冒険者タグをテーブルに置くと、上司がそれを手に取って目を細める。

 

「ん? なんだこのスキル。お前、貴族なのか?」

 

「いいえ、違いますよ。そもそも貴族は冒険者になれない決まりでしょう」

 

「そうだが……算術、礼儀作法、宮廷語と揃っているところを見るに、貴族院を出ているだろう」

 

「まあそうですね。元貴族ではありました」

 

「メイジレベル1だあ? 更新していないのか。ついでにステータスの更新もやっとけ」

 

「あー……それなんですけど、やらないといけませんか?」

 

「当然だ。冒険者ギルドの職務として、冒険者の実力の把握は必須だ」

 

「んー……後で説明するより見てもらった方が早いかな」

 

 私は「〈ステータスオープン〉」と唱えた。

 

「なっ――ステータスバグじゃないかっ」

 

「そうなんですよ。だから更新はしたくないんですけど」

 

「待て。じゃあどうやって時空魔法を使った?」

 

「それは……読めるので」

 

「はあ? お前、これが読めるのか!?」

 

「読めなければ、スキルは使えないでしょう?」

 

「それはそうだが……ステータスバグを読める奴なんて初めて見たぞ」

 

「更新は目立つので避けたいのですが」

 

「いや。読めるなら口頭でステータスを読み上げてもらう。ただ部屋はここの方が良いだろう。特別に更新手続きをここで行わせてやるから、更新はしろ」

 

「ありがとうございます」

 

 なかなかに話が分かる人だ。

 ありがたくお言葉に甘えることにした。

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