どかないなら、押し通るから。
冒険者ギルドに入って、買い取りカウンターに向かう。
相変わらず視線が鬱陶しいが、仕方がない。
だが大半の冒険者は私に興味も持たず、自分たちの獲物の自慢話やらパーティ仲間とのおしゃべりに夢中だ。
この時間帯だと買い取りカウンターも混んでいるので並ぶ。
待つことしばし、私の番が回ってきた。
「買い取りをお願いします」
「はい、承ります。常設依頼の品ですか?」
「はい。まず薬草」
カバンから布に包まれた薬草を取り出し、カウンターに広げた。
それなりの量だ。
そこそこの金額になるだろう。
買い取り担当のギルド職員は薬草を確かめながら葉の枚数を数えていく。
カバンにはショックサーペントの牙と皮もあるので、それもカウンターに置く。
「これも買い取って欲しいんだけど」
「ショックサーペントの牙と皮ですね。かしこまりました」
「あと鹿が三頭」
「え?」
「〈ストレージ〉」
グワっと黒い穴が空いて、鹿三頭分の肉がカウンターに積み上げられた。
一瞬、ギルドが静かになった気がする。
いや気のせいじゃないか。
静かになりました。
「どうしました? 査定をお願いします」
「え、ええ。はい」
ギルド職員はギギギ、と背後を振り向いて、事務仕事をしていた同僚を動員して鹿肉の査定を手伝わせた。
なのであっという間に査定は終わり、私は金貨2枚と銀貨40枚を入手した。
なかなかの稼ぎっぷりだ。
数日、森に入ればまあまあの稼ぎになるだろう。
ただし、カウンターを離れた途端に囲まれた。
「おい時空属性を持ってるのか。ウチのパーティーに入らないか?」
「いやお前んとこもう六人だろ。ウチは四人パーティだからウチに入れよ」
「お前のとこは女がいねえだろ。ウチなら女もメンバーにいるから、どうだ?」
……面倒なことになった。
「悪いけど、ソロでやっていくつもりだから」
「いやソロは危ねえだろ」
「ソロじゃ限界があるぞ」
「ウチのパーティに来てください。報酬は三分の一出します」
「あ、おめえは――」
「ならウチは半額だしてもいいぞ!」
やいのやいの。
まあ誰も武器を抜かないし、平和なことだ。
「ソロでやるって言ってるでしょ。道を空けなさい」
無視された。
依然として私は冒険者ギルドの出口から出ることができずにいる。
とっとと宿に行きたいのだけど。
迂回しようとすると、人垣が行く手を阻むように移動する。
邪魔!
やっぱり〈ストレージ〉、見せない方が良かったのかな?
いやそれだと収入が激減する。
仕方がないので、私は強硬手段に出ることにした。
「邪魔! 〈ストラグルバインド〉!!」
ギルドの床から魔力の帯が生えてきて、行く手を阻む冒険者たちを雁字搦めにした。
私が失念していた魔法、拘束系の魔法である。
相手を傷つずに無力化するのにうってつけだ。
私は拘束された冒険者たちを迂回して、冒険者ギルドから出た。
出た途端、三人の冒険者と鉢合わせする。
「あ、小娘! こんなところにいやがったか!」
「……何か用事?」
「何かじゃねえよ。森から出てこねえから心配したぜ。魔物の餌になってねえかってなあ」
「そう。ご覧の通り、無傷ですのでご心配なく」
「チ。可愛げのねえ小娘だ」
三人は口々に悪態をついて冒険者ギルドに入っていった。
何が狙いか知らないけど、空振りに終わったのが気に食わないらしい。
私はこれ以上の面倒に関わりたくないので、とっとと宿に向かった。
* * *
夜、寝る前にステータスの確認だ。
《名前 クライニア・イスエンド
種族 人間 年齢 15 性別 女
クラス スカウト レベル 9
スキル 【日本語】【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】
【全属性魔法】【闘気法】【錬金術】【剣技】【魔力制御】
【気配察知】【魔法範囲拡大】【素手格闘】
【経験値20倍】【熟練度20倍】【転職】》
お、【気配察知】が生えている。
森の中でも散々、お世話になっていたからスキル化されて嬉しい。
レベルの方は鹿三頭の割に上がっている方だ。
【経験値20倍】様様だね。
しかし【経験値20倍】と【熟練度20倍】はどこから来たのだろう。
【転職】は前世のブラック企業から脱しきれなかった後悔と無念から来ていると考えられるけど、20倍スキルは単なるチートスキルだ。
あとステータスバグの文字が日本語というのも、何か意味があるのだろうか。
例えば私以外のステータスバグの人間に、日本語をレクチャーしたら読めるようになるのか?
スキルに【日本語】とあるから、教えれば日本語をマスターできるはず。
ただし途方も無い労力がかかるだろうから試す気はないけど。
翌日、冒険者ギルドには寄らずに森に直行した。
面倒な勧誘に時間を取られるのを避けるためだ。
ただし、この行動を読んでいた者たちがいた。
昨日から私を追い回している三人組だ。
「聞いたぜ。時空属性の使い手だってなあ」
「結構な容量の〈ストレージ〉を持ってるって話だぜ」
「水臭いじゃねえか。なあ」
「言ってる意味が分からない。あなた達と私の間に水臭いなんて言葉、似つかわしいと思うのだけど」
「ウチのパーティに入れよ」
「ソロじゃどうせ限界が来る。俺たちと組まねえか」
「悪いようにはしねえよ?」
「まったくこれっぽっちも信用できないのでお断りよ。そこどいて」
「へ~え。そんなこと言っちゃうんだ」
ニタニタと下卑た笑いを浮かべる男三人。
なんとなく嫌な気配だ。
「どかないなら、押し通るから。――〈ストラグルバインド〉」
地面から魔力の帯が伸びて、三人を雁字搦めにする。
「うお、おいこれは――」
「なにしやがる!」
「解除しろ、いやこんなもん斬っちまえ」
腰の鉈を抜いたひとりが、魔力の帯を斬りつける。
しかしグニャリ、と帯が伸びて斬れない。
……まあせいぜい、効果が解けるまで足掻くといい。
私は横を素通りして、森に入っていった。
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