カバンから足がはみ出てるぞ。
こじんまりとしてはいるが、比較的綺麗めな門前宿に一泊した。
夕食と朝食もついてきて銀貨15枚。
さて今日は稼ぐとしようかな。
冒険者ギルドに向かう。
女ひとり、しかも軽装とあって胡乱げな視線を向けられるが、お構いなしに依頼が貼り出された掲示板の前に立つ。
銅ランク以下を受けるのがいいだろう。
ソロでも無難な奴がいい。
ホーンラビットを始めとした食材になる魔物や動物は、常設依頼になっている。
薬草採取のために森に入るのも悪くないか。
依頼は受けずに、常設依頼になっているものだけでも結構な稼ぎになりそうだ。
私は冒険者ギルドを後にする。
ねっとりと絡みつくような視線が不快だったので、早足で出た。
背後から気配がついてくる。
数はみっつ。
尾行の距離だな。
イスエンドの領都で殺した四人のことが思い出された。
街中では厄介なことになるのは目に見えているので、速やかに門を出て森に向かう。
みっつの気配との距離は離れたらしく、感じ取ることはできない。
だがついてきているのは、なんとなくだが分かる。
きっと森に入ったところで襲いかかってくるなりするのだろう。
街道の脇道から森への獣道が出ている。
素直に道なりに進むと、背後からみっつの気配が距離を詰めてきていることに気づいた。
脳裏に幾つか魔法を思い浮かべておく。
見たことのある魔法、ない魔法、いろいろあるが、この場面で使える魔法には心当たりがある。
もっと早く思い出していれば、トリストフとセルジャックとの戦いや、オーガとの戦いで使えたものを。
背後からの気配がどんどん距離を詰めてくる。
こちらが気づいていないと思っているようだ。
なので森に入ったところで反転して向かい合う。
「何か用?」
「……チ。気づいてやがったか」
「おい、森のひとり歩きは危険だぞ。俺たちで良ければパーティを組んでやる」
「武器も防具もなしに、森に入るとは命知らずな小娘だ」
胸元のタグは銅色。
実力のほどは不明だが、少なくとも銀ランク以上ではないことに安堵する。
「余計なお世話。私、これでもそれなりの腕前なので、ご心配なく」
「おいおい。まったく説得力ないぜ」
「そうそう」
「おとなしく俺たちと来いよ」
「……鬱陶しい」
まさか本気で私ひとりだと危険だからパーティに誘っているのだろうか?
いや、だとしたら尾行する理由はない。
視線から感じるのは、このような状況に手慣れた空気。
押し問答で時間を浪費するのを嫌って、私は連中を無視して森に入る。
距離を保ってついてくる三人組。
ええい邪魔だ。
「これ以上、つきまとうなら容赦しないけど?」
振り返りながら警告する。
「どう容赦しないってんだ?」
「俺たちは勝手に森に入っているだけだぜ」
「行き先は同じらしいが、別にお前の後をつけているわけじゃねえよ」
「ならお先にどうぞ?」
「じゃあ先に行かせてもらおうか」
「ひとりで森に入ったのを後悔することになるぞ」
「はン。強がりやがって小娘が」
口々に悪態をついて、しかし男たちは私の横を素通りして森の奥へと歩いていく。
私は獣道を外れて、茂みの中へ進む。
気配は、……遠ざかっていく。
やれやれ。
本当になんだったんだろうね。
* * *
遠目に鹿が見えたので、〈マジックアロー〉で仕留めた。
指にまとわせた〈ウィンドカッター〉で解体していく。
闘気法で強化した腕力で皮を剥ぎ、内蔵を捨ててから肉を布に包んでカバンに収める。
いかん。
カバンから足がはみ出てるぞ。
あまりにも邪魔だったので、肉は全部〈ストレージ〉に仕舞うことにした。
鹿一頭で銀貨50枚くらいだろう。
この調子で狩りをしていって、獲物が大量になんてことになったら、どうしようか。
冒険者ギルドで獲物を出すときに〈ストレージ〉が使えることがバレるのは厄介そうだ。
でも時空属性を使える冒険者がいないわけじゃないだろうし、何より獲物を換金しないと金銭収入が得られない。
気配察知に気を配りながら、鹿をあと二頭、狩った。
三頭とも牝鹿で、角はない。
解体して〈ストレージ〉行きだ。
やっぱり冒険者ギルドで〈ストレージ〉を披露することになりそうだ。
日も傾いてきたし、そろそろ帰ろうかというところで薬草の群生地に行き当たった。
ツイている。
摘めるだけ摘んでカバンに入れる。
〈クレンリネス〉をかけて布でくるむのも忘れずに。
気配察知に意識を向けながら、森の出口の方へ行く。
ああ、三人の気配が森の出口に陣取っている。
これは道を使わずに森から出るのがいいだろうか。
うん、面倒そうだから見つからないように森を抜けよう。
茂みを飛び越えながら、私は街に戻った。
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