見つけてしまったのが運の尽きだ。

 昼食は宿の店主のお手製サンドイッチである。

 黒パンにレタスとハムが挟まったもので、塩気もあってなかなか美味である。

 

 午前中は三人組から距離を取るために、闘気法を起動して早足で森の奥に入ることに注力した。

 早めの昼食休憩を取ったら、狩りをする。

 

 森の奥だけあって、最初に遭遇したのは魔物だった。

 フェザーサーペントという羽根を持った蛇である。

 特性などはよく知らない。

 羽根のある蛇、という外見が珍しいので、名前だけ覚えていたのだ。

 

 シャー、と威嚇をしながら羽根を広げてる。

 距離はそれなりにあるが、フェザーサーペントはなかなかの大きさで〈マジックアロー〉一発で仕留められるか怪しい。

 おっと、なかなかの速さでこちらに突進してきた。

 

 闘気法を起動して大きく避ける。

 ふと牙に毒があったような気がしたので、距離をとって〈マジックアロー〉を撃つ。

 

 フェザーサーペントは身をくねらせて直撃を避けた。

 かすめた形になり、浅い傷を作っただけになる。

 んー、基本攻撃魔法の限界だろうか。

 埒が明かないので、思い切ってブリザードを叩き込む。

 

 蛇なだけあって、冷気には弱かったらしい。

 一撃で霜だらけになって動きを止めた。

 

 〈ウィンドカッター〉で首を落として、解体する。

 まず皮を剥ぐ。

 皮に傷が入ったのが残念だ、査定が下がるのは避けられまい。

 羽根は綺麗なままなのが救いか。

 肉を切り開き、内蔵を除去しておく。

 多分、これでいいはず。

 蛇肉なんて食べたこともないので、これ以上はよく分からない。

 

 解体し終えたフェザーサーペントを〈ストレージ〉に仕舞ったところで、みっつの気配が接近してくるのに気づいた。

 

 あーほんともう、しつこいなあ。

 

「こっちだ」

「あ、いやがったぞ」

「よくもやってくれたな!」

 

 三人は武器を抜いて、闘気を纏った。

 臨戦態勢か。

 ならばこちらも手加減はすまい。

 

「先に抜いたのはお前たちだからね。手加減しないよ?」

 

「ほざけ」

「調子に乗ってるんじゃねえぞ小娘が」

「こんな森の奥まで入りやがって、泣きわめいても誰も来ねえぞ」

 

 ひとりは鉈、ひとりは斧、ひとりは無手。

 最後のひとりはグラップラーかな?

 まあ何にせよ、数で押される前に先手必勝。

 

「〈ストラグルバインド〉」

 

「ソイツに捕まるかよ!!」

 

 さすがに一度見ただけはある。

 三人組は地面から生えてきた魔力の帯から距離を取って散開する。

 徒手空拳のグラップラーが真っ先に突進してきた。

 

 闘気法を全開にする。

 相手の動きが若干、スローモーションになって見えるので、顎を狙って右拳を繰り出した。

 

「がっ」

 

 振り抜く。

 メリ、と顎を砕いた感触がした。

 

 膝から崩れ落ちるグラップラー。

 戦闘不能かな?

 

 鉈と斧が両サイドから迫ってくる。

 私は少し引いて、鉈野郎に〈ストラグルバインド〉を飛ばした。

 足元から伸びる魔力の帯を、鉈使いは飛び退いて回避。

 

 これで斧使いと一対一だ。

 

「舐めるなッ」

 

「〈ウィンドカッター〉」

 

 至近距離からの風の刃。

 不可視の一撃は斧の柄を斬り飛ばした。

 ゴトリ、と斧がただの棒きれになった。

 

 棒きれを放り捨てて、タックルに移行する斧使い。

 背後からは鉈使いが迫ってきているのを、気配察知が知らせてくる。

 

 ここで捕まるのは避けたいので、全力で背後に駆ける。

 

 距離を取ったら、ふたりは唖然とした顔で私を見ていた。

 

「は、速え」

「なんだ今の」

 

 どうやら全開にした闘気法で強化された私の動きは、ふたりからは人間離れして見えたらしい。

 警戒心を強めたようだけど、この距離ならなんとでもなる。

 

「〈ブリザード〉」

 

 ヒュゴウ。

 

 ふたりをまとめて吹雪が襲う。

 さすがに死なないようだけど、霜だらけになって動きが大きく鈍った。

 

「〈ウォータースピア〉」

 

 武器が残っている鉈使いの方を水の槍が貫く。

 斧使いにも〈ウォータースピア〉を見舞って仕留めた。

 目を回してひっくり返っているグラップラーには、〈アースハンマー〉で頭部をかち割る。

 

 よし、戦闘終了。

 

 三人の亡骸は〈ピット〉で穴を掘り、そこに放り込んで埋めた。

 

 * * *

 

 さて経験値はいかほどか。

 

《名前 クライニア・イスエンド

 種族 人間 年齢 15 性別 女

 クラス スカウト レベル 27

 スキル 【日本語】【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】

     【全属性魔法】【闘気法】【錬金術】【剣技】【魔力制御】

     【気配察知】【魔法範囲拡大】【素手格闘】【?】

     【経験値20倍】【熟練度20倍】【転職】》

 

 スカウトもレベル20を越えた。

 新しいスキルを確定させよう。

 グルグル回る文字。

 結果は?

 

 【罠設置】を習得できた。

 これは文字通り罠を設置するスキルだが、実は〈ストラグルバインド〉などの拘束魔法にも若干の補正があると聞いたことがある。

 確か設置魔法とかいうのがあって、特にそれに大きな補正があるはず。

 具体的に何の魔法だったかは、ちょっとすぐには思い出せないけど。

 

 スカウトはもういいので、転職を起動する。

 

《【転職】

 スカウト(レベル27)

 ノーブル(レベル10)

 ファイター(レベル1)

 グラップラー(レベル31)

 プリースト(レベル1)

 メイジ(レベル22)

 アルケミスト(レベル1)

 メイド(レベル1)

 チャンピオン(レベル1)

 アサシン(レベル1)

 ウィザード(レベル1)

 ハーミット(レベル1)》

 

 スカウトの上級クラスはアサシンだ。

 メイドは派生クラスで、確か下級クラス扱いである。

 

 んー次のクラスはどうしようかな。

 下級クラスなら順当にファイターだけど、武器戦闘をする未来が見えない。

 上級クラスに手を出すとしたら、ウィザードかなあ。

 とはいえ、魔法の威力などに困っていない現状、ウィザードになるメリットも少ない。

 格闘戦闘も悪くないので、チャンピオンかアサシンになるのも手か?

 

 よしアサシンに決定。

 しばらく森で狩りをするのだし、隠密に補正のあるアサシンは悪い選択ではないだろう。

 

《名前 クライニア・イスエンド

 種族 人間 年齢 15 性別 女

 クラス アサシン レベル 1

 スキル 【日本語】【レクタリス地方語】【算術】【礼儀作法】【宮廷語】

     【全属性魔法】【闘気法】【錬金術】【剣技】【魔力制御】

     【気配察知】【魔法範囲拡大】【素手格闘】【罠設置】

     【経験値20倍】【熟練度20倍】【転職】》

 

 よし、狩りの続きといこう。

 

 気配察知に意識を向け続けること一時間、複数の気配が引っかかった。

 大きさからするとゴブリンだろう。

 食べられないし、お金にもならない。

 駆除依頼を受けたなら、報酬が貰えるはずなんだけどね。

 

 迂回していくと、なぜかゴブリンたちがこちらに向けて進軍してくるのに気づいた。

 なぜに?

 十分に距離があるはずなのだが、どうやら私の位置を捉えているようだ。

 面倒なので迎撃するか。

 

 多数を葬るなら、魔法範囲拡大した〈ブリザード〉が手っ取り早い。

 そう思って待ち受けていたら、……ゴブリンスケルトンの集団だった。

 

 なるほどねえ、アンデッドの知覚能力は五感に頼らないから、こっちの位置を特定できたってわけか。

 まあやることは変わらない。

 

「〈ブリザード〉!!」

 

 いつもより大きな吹雪がゴブリンスケルトンの集団を屠った。

 骨がバラバラになって散る。

 

 しかしこれ、冒険者がゴブリンの死体の処理をミスってるせいで生まれたとは考えづらい。

 アンデッドが生まれる条件は、確か瘴気に死体が晒されることで生まれるのだと、貴族院で教わった。

 瘴気とは、穢れたマナのことで、自然発生することもあるが、大抵は邪悪なる存在が人為的に生成するものだ。

 邪悪なる存在とは、例えば魔族。

 あるいはネクロマンサーのクラス。

 ええと、他に何かあったかな?

 

 まあ主要な要因は魔族かネクロマンサーだ。

 

 瘴気を生み出す邪悪なる存在の討伐は、冒険者の義務である。

 見つけてしまったのが運の尽きだ。

 ここは大人しく調査しよう。

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