2、星を示す古びた地図
空が白み始め、太陽が顔を出した時間帯にアルト達はリアラと合流した。クリスは改めてリアラを見ると、それは画面越しで見た姿とは少し違っていた。
銀色に染まっていた髪は亜麻色へ変わっており、瞳はというと綺麗な翡翠色になっていた。身体はそこら辺を闊歩している低級モンスターに一捻りされてもおかしくないほど小柄で細身だ。
『お前、いくつだ?』
「いきなり歳を聞くのは非常識じゃないかな、クリス?」
思わず浮かんだ疑問をクリスはぶつけると、アルトがすかさずたしなめるようにツッコミを入れた。
確かにな、と思ったクリスはまっすぐ見つめているリアラに『悪い、デリカシーがなかった』と告げる。しかし、リアラは気にしていない様子だ。それどころかちょっと落ち込んでいるクリスを興味津々に見つめていた。
「ねぇ、猫ちゃん。どこで言葉を覚えたの?」
『アルト、こいつを引っかいてもいいか? 私よりデリカシーがないぞ』
「いや、当然の疑問だから我慢しなよ」
またアルトにたしなめられ、クリスはつまらなさそうな顔をした。リアラはふてくされているクリスを見て、つい噴き出してしまった。
クリスはさらに顔を膨れさせる。どんどん機嫌が悪くなり、ついにはリアラを睨みつけていた。
「猫ちゃん、面白いね」
『私は面白くない。嫌いだ、お前なんて』
「私は好き。猫ちゃん面白いから」
クリスは助けを求めるようにアルトに顔を向ける。
どうやら限界のようだ、と感じ取ったアルトはクリスの救援信号をちゃんと受け取って話を進めることにした。
「そろそろ報酬を受け取ってもいいかな、リアラ?」
「ん、わかった」
リアラは腰に巻きつけていたポーチを外し、手に取る。ボタンを外して中に右手を入れると折りたたまれた古い紙を取り出した。
アルトはその紙を受け取り、クリスと一緒に覗き込む。そこに記されていたのはここら一帯の地形と見たことがない記号ばかりだった。
「わかる?」
『わからん。オリオン書記にはない記号ばかりだ』
「文字はわかる?」
『所々掠れてて読めないな。解読しようがない』
アルトは顔をしかめさせた。クリスの助けになるかと思って手に入れた地図だが、あまり役に立ちそうにない。それどころか余計に混乱しそうな代物である。
どうしたものか、とアルトが頭を抱えているとリアラはあることを告げた。
「それ、他にもある」
「それはどういうこと?」
「他にも私と同じ星守りがいて、それぞれが地図を持ってる。だから、他にもあるの」
つまりアルト達が探している〈星の王宮〉は他にも存在するということであり、この地図だけでは不十分という意味でもある。
リアラの話を聞き、アルトはちょっと困った。すんなりとはいかないと思っていたが、想定よりも面倒な状況だと気づいた。もしかしたら生きているうちに目的を達成できないかもしれない。そう考えているとクリスはアルトの頬を叩いた。
『何暗い顔をしてるんだ。ヒントがあることがわかった。これは大きな収穫だぞ』
「確かにそうだけど……」
『やることはわかっているんだ。なら、それをやらなきゃ損だぞ?』
「……そうだね。時間はないし、頑張ろっか」
アルトはクリスに笑顔を向ける。確かに期待通りの成果は得られなかったが、だからといってそれが無駄だったということはない。
それに、クリスのいう通りやるべきことがわかった。ならそれに向けて行動しないといけない。
「リアラ、この近くに君以外の星守りはいるかい?」
「いるよ。でも、気難しい人だよ」
「会えるなら会いたい。いいかな?」
「ん、わかった」
リアラはアルトに手渡した地図にある場所を示すと、そこには立派な城が描かれていた。
アルトはここ一帯に王城なんてあったか、と考え思い出そうとしているとリアラがその答えを告げる。
「これ、千年前の地図だから今は違う。今は〈ダイナグレア〉っていう都市国家になってる」
ダイナグレア。
その名前を聞いたクリスは目を鋭くさせた。アルトはその顔を見て、リアラにあることを聞く。
「ここが、ダイナグレアなのかい?」
「うん」
リアラはそれ以上答えなかった。
ダイナグレア――そこはクリスに呪いをかけた〈星喰〉が生まれた場所だ。そこにリアラ以外の星守りがいる。
アルトは様々な考えをめぐらせつつ、リアラにもう一つ質問をした。
「ここは、どういう所だい?」
「ご飯が美味しい所。人が集まる所。たくさんの情念がある所。いっぱい人が生まれ、死んでいく所。あとは――」
「ごめん、聞き方を間違えたよ」
アルトは決定的な言葉をリアラにぶつけようとした。だが、それをクリスが『やめとけ』と止める。
思わずアルトはクリスに顔を向けた。するとクリスはアルトの膝の上に移動し、くつろぎ始めた。
『これ以上聞いてもわからないだろ。それにその子は星守りなんだろ? なら、変な詮索はしないほうがいい』
アルトはクリスの言葉にちょっと納得できなかった。しかし、クリスの言う通りこれ以上聞いても情報は引き出せそうもない。
ため息を吐き、アルトはクリスの背中を撫でた。クリスは心地よさそうな表情を浮かべると、本当の猫のように喉を鳴らし始める。
「気が済んだ?」
「ああ。悪かったね、リアラ」
「そっちにも事情がある。仕方ないよ」
アルトはリアラの言葉に助かりつつ、地図に視線を落とした。情報がなさ過ぎる。しかし、だからといって焦っても仕方がない。
それに、いやだからこそ今できることをしなければならない。
「ダイナグレアに行くか」
アルトはリアラの知人でもある星守りに会うために、ダイナグレアへ向かう。
そこに何が待っているのか知るよしもないまま、自動車のエンジンを起動させたのだった。
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