旅立ちの刻(一)
「
「ど、どうしたの、水杖!?」
「私の
半泣きで口走るのをなだめつつ、ようやく話を聞き出すと、
名前は
「朝芽の主様は“
目にも鮮やかな
足は速そうだが細すぎる。声が小さい! 女だからって特別視はしねぇ。心してついて来いや!
一人二役の迫真の演技で、対面の模様を再現する水杖に、思わず私は笑ってしまった。
「もう、人が真剣に困ってるのにっ」
そう言って
私たち、良い主に巡り合えたのね。
私は心の中でそっとその思いを抱きしめた。
真咲様は
ひとしきり
「本は置いていくわね。これはどうする?」
つづらの中身をまとめていた水杖の手が止まった。
高揚していた気持ちに、すっと冷たい空気が落ちる。
視線の先には、美しい
「朝芽、これ……」
それは力の証。はるか古より
「持ってきたのね。故郷から……」
水杖も、その紅玉が意味するところをよく知っていた。
ふと、不安が胸をよぎる。
凌介様に、いつか、この紅玉をお見せする日が来るのだろうか。
私の……いや、お旗女すべてのともいえるある宿命について、語る日が来るのだろうか。
しかし、私は瞬時にその思いを打ち消した。箱から玉を取り出すと、そっと
今はまだ、それを想う時ではない。
山上の月が辺りをこうこうと照らす中、私と水杖は
聖殿に
社殿の門を出る直前に、もう一度私たちは立ち止まった。この門をくぐれば、二度とここへは帰れない。しかしもうためらいはなかった。
行ってまいります。
別れの言葉の代わりに、決意をこめて。
深く頭を下げた私たちは、門の外へ、新しい運命に向かって、迷わずその一歩を踏み出した。
凌介様との待ち合わせ場所は、
門から一人の武人が出てきたのは、その時だった。
私たちには、初めて見る顔だった。しかし今日、お旗女を迎えに訪れた四人の武将の一人であることは、容易に想像がつく。
「俺は足軽歩兵第六番隊隊長、
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