お旗女選別(三)
沈黙の部屋を、
泉で私の心に
もう、二度と会うことはないと思っていた。
それが今、お仕えすべき
向こうも
しかし、その沈黙は長くは続かなかった。
相手の顔があまりに驚いていたので、私は思わず吹き出してしまったのだ。
『そなたの相手は、わしが選んだ』
老師の声がよみがえる。
運命。数奇な運命。
はじけるように、相手からも笑みがこぼれた。
「君だったのか」
ひとしきり明るい笑い声が響いた後、青年は
「
「いい名だな、朝芽。俺は
長柄隊は、長槍部隊だ。守攻の中核を担う強力な中堅軍である。
何度も頭に叩き込んだ情報を引き出す。私の仕事は、すでに始まっていた。
「はは、最初からそんなに飛ばすなって。俺もお
「かしこまりました、
「俺のことは
「はい」
落ち着いた声音。良く透る低い声だった。浮き足立っていた私の心が、ようやくこの現実に追い付いてきた。
「凌介様」
「ん?」
「あの時、どうして泉にいらっしゃったのですか?」
「ああ、あれは……」
凌介様は恥ずかしそうに口元をほころばせると、ちょっと下を向いていたが、
「……落としちまってさ」
「えっ」
「俺たちの上役、高砂備中様の
ああ、それであんなに深刻な顔で泉の中を見つめていたのか。
「参ったぜ。なんせこっちは初参者だ。追い返されてはと真っ青になってね。幸い、老師殿が俺たちのことを覚えていてくれて……特に
御免状は結局見つからなかったわけだが、結果良しと言うことさ、と凌介様は明るく笑った。
「朝芽が飛び込んできたときは、本当に驚いたよ。叫び声と共に姿が見えなくなって、あっ、まずい
いたわるようなまなざしに、思わず目を伏せる。きっと、ずっと心配してくださっていたのだろう。
初めて抱いた印象は間違いではなかった。優しく、たくましい武人。私にとって、これ以上の主の君があるだろうか。老師様は私にとって最高の主を選んでくださったのだ。少々内気で、思い悩むことも多い私が、
「さてと!」
何か張り詰めていたものを吐き出すようにして、凌介様は私を見つめた。
「行こうか、朝芽。」
私はしっかりと視線を返し、大きく頷いたのだった。
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