お旗女選別(二)
五十名を超える、お
辺りはしわぶき一つ、
庭でさえずる小鳥の声が、まるで切り離された世界から聞こえてくるようだ。
またひとつ、澄んだ音で鐘が鳴った。
その瞬間、ふすまが開いて、私たちの老師を先頭に、
「
すぐ隣で、水杖がかすかに身じろぎをした。彼女の緊張も最高潮に達している。
「水杖」
「はいッ」
親友の絞り出すような声が答えた。
選ばれた。すごい。良かったね、水杖……!
思わずこみ上げるものを噛みしめた時、老師の声が厳しく呼んだ。
「
はいッ、と、反射的に声が出た。修練のたまものだ。しかし私の魂は衝撃で消えそうになっていた。
選ばれた……? 私が……!?
「……以上四名。速やかに参れ」
老師の姿が消えると同時に、広間中にざわめきがわきおこった。緊張が一度に緩む中、私はうつむいたまま汗だくになって固まっていた。後の二人がだれだったのか、それすら頭に残っていない。
「行こう、朝芽!」
水杖が私の腕をつかむ。はしゃいでいるのかと思いきや、その顔は意外にも厳粛だった。いざ呼ばれ、任の重さを改めて実感したのかもしれない。私は
「朝芽でございます。まかり越しました」
挨拶に、老師の声が
老師は、窓辺に
部屋には西日が差しこみ、窓の外には鮮やかな山の夕暮れが見えた。残照を受けて、山々が黄金色に燃えている。それは、昼間の青年の鎧から散った、金色の
三年をかけて見慣れてきたこの奥山の美しい景観も、今日が見おさめになる。お旗女に選ばれた者は、その主と共に速やかに社殿を出なければならない。これはもう、例外のない掟であった。
「朝芽。泉からは無事戻ったか。」
老師の声に私は小さく頭を下げた。親とも思いお仕えしてきたこの恩師とも、別れの時が近づいて来たのだ。不意に寂しさがこみあげて来る。
「今日まで、良く励んでくれた。此度の選では、真っ先にそなたの顔が浮かんでおった。そなたの主は、わしが選んだ。良き運命の出会いとならんことを祈っておる。……健やかにな。」
「お師様も……どうか、おからだ大事に……」
不意に感情があふれ出し、視界が涙でかすむ。老師は少し頷き、すっと姿勢をただすと静かに部屋を出て行った。
この瞬間、私は老師の元を離れ、
自分の
どんな未来が待っていようと、命をかけてお仕えする。それが私の運命なのだ。
心が引き締まる。今までの不安がうそのように消えていく。
私は新しい未来へ踏み出すその瞬間を、ただひたすら待ちうけていた。
ふすまが開いた。
いよいよ対面の時が来たのだ。
私はその場に
「やあ、君が新しい侍女頭だね。よろしく頼む……」
声を聞いた瞬間、私は
そこには、同じく目を丸くして
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