お旗女選別(一)
午後の
入水じゃなかった
取りとめのないことを思いながら、頂いた包みをそっと開くと、中にはとても美しい
思わず感嘆の声を上げる。社衣を脱ぎ、すぐに手を通すと、まるで羽根のように軽く、ふんわりとした着心地が、春風のようにあたたかだった。
いつもの時刻より大幅に遅れて
「いったいどこへ行っていたの? 心配したんだから! お師様も心配してさっきまで覗いていらしたけど、ちょうど今お客人が到着なさって……」
ああ、間に合わなかったのだ。これでも思いきり山道を駆け戻ってきたのだけれど。
社殿では、定められたものしか着衣が許されない。一度別棟の自室に戻って新しい社衣に着替え、髪を整えていたため遅くなってしまったのだ。
あの美しい翡翠の着物は、あたたかな思いと共に部屋の
主命によるお使いの途中と言っていた。あのもう一人の若者も同様、いずれ
「ご泉水を濁らせてしまったの。間に合わずに申し訳なかったわ。お師様はお怒りかしら。」
沸き起こる思いを振り払うようにつぶやく。もう考えちゃいけない。もう思い出してはいけない。
二度と会うことはない。熱い思いを冷たくねじ伏せる。
「バカね、茶の湯よりも朝芽の方が大事に決まってるじゃない。無事帰ってきたと解れば笑って迎えてくださるわよ。それにあの泉の水は2日もすれば浄化されるわ。だから大丈夫よ。」
ほっとしたように笑う水杖の存在を、私はありがたく思った。水杖の笑顔は、元気をくれる。この友がいなければ、そして厳しくも温かく見守ってくれている師の存在なくしては、とてもここまで苦しい
その彼女が、不意に声をひそめた。
「それでね、来たわよ」
「え?」
「予告通り、お武家さまが四人。」
「そう……」
「控え所は大騒ぎよ。一度に四人もお旗女に上がるのは、初めてですって。中には、いかにも恐ろしげな髭の親父もいたっていうけど、構うものですか。ああ、いいわね。私も選ばれないかしら!」
水杖は、華やかな
そうは解っていても、私はやはり、心の臓をギュッと掴まれたような
御指名から完全に外れるまでは……。
「一緒に、いけるといいわね!」
水杖が、私の思いとは対照的な、
「お召しだわ。新しいお旗女が決まったのよ! さあ、早く大広間に行きましょう!」
水杖が興奮したように言って私の手を引き、美しく掃き清められた中庭の小道を駆け出した。
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