旅立ちの刻(二)
視線が私の上に止まる。
月が雲に隠れ、また現れた。
月明かりに照らされた目の前の男は、かなりの巨漢だった。
「お前」
不意に太い指が、ぐっと私の
「こいつと代われ」
後方に
今日選ばれたお
「
水杖が恐る恐る呼びかける。影は、びくり、と肩を震わせて、ますます小さくなった。
「気に食わん。」
「
「なん……ですって!」
水杖が鋭く叫んだ。
「旗女を何だと思っているの!? 私たちはモノじゃない! それにお仕えする主も決まってる! 師が決められたことをないがしろにするなんて! 平然とそんなことを言う人に、だれが従うものですか! 早蕨、気にしちゃだめよ。それより社殿に戻り早く老師様に……!」
きゃあッ! と悲鳴が上がった。いきなり丸太のような暴風が私のそばを通り抜けたと思った瞬間、すぐ横にいた水杖の小柄な体が、向こうの茂みに向かって思いきり吹き飛ばされていた。
磐見が突き飛ばしたのだ! 低木の茂みに叩きつけられた水杖は、ザザッと葉を
彼女は、
その一瞬、私の中で何かがはじけ飛んだ。
「よくも水杖を!」
体の底から声が出る。
にやついていた
ドクン!
胸がいきなり熱くなった。
いけない! 心を失ってはいけない……!
頭の中で何かが叫んでいる。しかし、旅立ちの門出でいきなり
紅玉が、あざ笑うかのように白い光を放ち始めた。
磐見が、ぎょっとしたように目を
「
その瞬間、水杖が絶叫した。
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