だから嫌いだったんだ

ユニーグ

だから嫌いだったんだ

 私には幼馴染みがいる。家が隣同士で、幼い頃から遊んでいた······ただそれだけだ。

 漫画とか、小説とかの展開みたいに、幼馴染みが好きだとか、大切だとか······そんな感情は持ち合わせていない。そんなの、思うだけ無駄だ。

 けれど、気には掛けてしまう。そうしないと、彼は何処かへ行ってしまいそうだから。

 ······というのは建前で、実は私は彼のことが大好きだ。愛していると言っても過言ではない。けれど彼の方はどうなのだろう。

 年齢が上がるにつれ、彼は私を避け始めた。まぁ、彼も思春期なのだろう。と最初の頃は思っていた。けれど、彼は私と離れ私以外の女性と関わり始めた。

 交友関係を広めるのは良い。けれど、デレデレしすぎじゃないかい?気のせいかもしれないが、なんだか鼻の下を伸ばしているようにも見える。

 胸がチクチクする。ムカムカする。今すぐにでも彼を私に振り向かせたい。

 けれど私にはそれをすることは出来ない。

 だって······私はもうすぐ引っ越してしまうのだから······。


◇ ◇ ◇

 

 先にそれを言ったのはどっちだっただろうか。

『お互いに辛くならないようにしよう』なんて言ったのは。

 私はそっちの方が辛かった。彼に話しかける事も無くなった。彼が離れていく時なんて本気で泣きそうだった。

 でも、これが正しいことなんだろうと言うのは流石に分かっていた。この先は私の我儘になってしまうのだから。

 けれど、せめて最後くらいは······と期待した事もあったけど、彼はいなかった。

 私は思った。もう彼の中に私はいないのだと······。

 その時、私は何かが崩れるような音がした。なんだか、急に涙も枯れてしまった。

 その時から、私は何かが壊れ始めてしまった······彼が遠くから見ていたことも知らないまま······。

 あぁ······だから、こんな私は嫌いなんだ。勘違いで空回って······そして決めつけてしまう私が······。

 もう見ることの無いだろう空を、私は眺めた。皮肉にもそれは、彼とよく見た夕暮れの空だった。


◇ ◇ ◇

 

 俺には幼馴染みがいた。可愛らしく、それでいてカッコよかった。憧れだった。

 彼女は、俺を弟の様に可愛がった。だが、俺も男だ。好きな人に抱きしめられたりしては、ずっとドキドキしていた。

 でも、彼女は俺に対して、何というか家族愛みたいなもので接していた。それが何となく悔しかった。

 彼女はどこか落ち着いていた。それ故に、いつの間にか何処かに消えてしまいそうに感じてしまった。そんなことはありえないのに。

 でも、俺は彼女から離れた。これで良い。と自分を納得させて。

 彼女意外の女性と話す度に、彼女が脳裏にチラついて離れない。その度に、罪悪感で胸が苦しくなる。

 遠目から彼女を見る。今はこれしか出来ることかが無い。何故ならば、彼女は何処かへ行ってしまうからだ。

 頭の中で気持ちが叫ぶ。俺はそれに無理やり蓋をした。そうしないと止めてしまいそうだったから······。


◇ ◇ ◇

 

 互いに苦しい思いをしないよう、お互い離れようと提案したのは俺だ。そうすれば、未練なんて無くなると思っていたから。

 けれどこれは逆効果だったんだ。少なくとも俺にとっては。が加速するだけだった。

 でもきっとこれが正しいのだろう。そうさ、きっといつかは······なんだろうか。

 ただ、それは無理やり彼女を忘れるようなものじゃないか。

 それは嫌だ。でも、そうしないと、もう隣に彼女かいないと知るたびに泣いてしまいそうだから。

 だから最後の日には会わなかった。無理矢理にでも止めてしまいそうで怖かったから。

 だから遠くで見ることにした。こうすれば止めれないと思ったから。

 彼女を乗せた車が走る。その時、何かがプツリと切れたかの様に涙が溢れてきた。

 あぁ······だからこんな自分は嫌なんだ。最後まで伝えたい事を伝えないで······ただ泣いて後悔するだけになるのだから。

 ふと、空を見た。それはあのとき彼女と見た綺麗な夕暮れだった。


◇ ◇ ◇

 

 自分達は何度もすれ違った。


 自分達は何度も自分を嫌悪した。


 それはどうしてだろうか。なんでこうなったのだろうか。


 ······あぁ。なんだ、答えは簡単じゃないか。


 大好きなんだ。君のことが。伝えたかったんだ。この気持ちを。


 ······だからこそ、自分達は君に振り向いてほしかったんだ。


◇ ◇ ◇


 高校生になり、私はあの頃よりかは楽しく過ごしている。

 でも、彼に対する気持ちは膨れ上がっていくばかりだ。

 早く自立して彼の元に行きたい······それをずっと願いながら毎日を過ごしている。

 学校が終わり、通学路を歩いていると、人にぶつかってしまった。

「あ······すみません、ボーッとしてました」

「いえいえ······それじゃあ俺はこれで」

 似ていた。彼に。

 声は少し低くなっていたが、頭のちょっとしたアホ毛も、よく付けていたキーホルダーも似ている。というか変わらなかった。

 私は振り向き、彼の袖を引っ張った。

 私はどんな顔をしているだろう。嬉しさとか、そんなものが混じって、変な顔になっているかも知れない。

 それは、衣替えをした、初夏の日の出会いだった。

 私達が最初に出会った日でもあった。

 あぁ······だから嫌いになれないんだ。

「私のこと······覚えてますか?」

 こんな運命的な事に憧れている自分が······。

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