ピアノ

 ぽろりと、可愛らしい音が鳴る。

 ふう、と息を吐きながらピアノ椅子に腰かける。

 

 しばらく弾いていなかったから、鍵盤に乗せた手が

 ほんの少し震えている。


 さて、と息をついて勢いよく音階を駆け上がる。

 少しもつれたけど、及第点かな。


 改めて、ピアノに手を掲げる。

 習わされていた時には感じなかった、純粋な楽しい、

 そんな思いが体を温かくした。


 ふふ、と笑ってから、懐かしい曲をなぞる。

 きらきら星の変奏曲。

 手が、指が覚えているところ、少しあやふやなとおころ。

 途中から楽譜を引っ張り出して最後まで。


 心地よい温かさが残った。

 黒いアップライトピアノが、血を通わせた。

 そんな気がした。

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