第13話

次の日の朝、佐々木は学校に行く前に、警察へと行くことにしたようだ。だが、佐々木はなかなか出かけようとしなかった。

「ねえ、タクミくん。私、怖いよ」佐々木は泣きそうな声で言ってきた。

「分かってる。でも、このまま放っておくわけにもいかないだろう?」

「そうだけど……」佐々木は俯いてしまった。俺は佐々木の肩に手を置いて、軽く叩いた。

「大丈夫だよ。きっと何とかなる」俺は自分に言い聞かせるように言った。

「……うん、そうだよね。ありがと」佐々木は顔を上げて笑みを浮かべたが、その目からは涙がこぼれていた。俺はそれを拭おうと手を伸ばしたが、途中で止めた。佐々木が泣いているところなど見たくなかったからだ。

それからしばらくして、佐々木はようやく決心がついたらしく、玄関に向かって歩き出した。俺もその後に続いた。佐々木は靴を履いて振り返り、もう一度「ありがとう」と言ってきた。俺はそれに返事をする代わりに、佐々木の背中を押してやった。佐々木はドアを開けると、一度だけ振り向いてから外に出ていった。その姿を見送ってから、俺は家の中に戻った。

その日の夜になっても、佐々木からの連絡はなかった。電話をしてみたが、繋がらなかった。メールを送ってみたが、返信はなかった。

俺は眠れぬ夜を過ごした。翌朝、俺は佐々木の家に向かうことにした。一人で考えていても仕方がないと思ったのだ。何か少しでも分かることがあるのではないかと考えた。佐々木の家は歩いて行ける距離にあるため、それほど時間はかからずに到着した。インターホンを鳴らすと、昨日の女性が出てきてくれた。

「あら、どうしたの?」女性は不思議そうに首を傾げた。

「いえ、ちょっと様子を見に来ただけです」

「さっちゃんなら部屋にいますけど、会っていくかしら?今は一人にしておいた方がいいと思うんだけど」

「いえ、それは遠慮しておきます」

「そう、残念ね」女性は本当に残念そうな顔をしていた。

「それじゃあ、俺はこれで失礼します」

「ええ、また遊びに来てちょうだいね」

俺は女性の言葉に応えずに、その場を離れた。佐々木の部屋の前に立つ。俺は深呼吸をしてから、部屋のチャイムを鳴らした。しかし、何も反応はなかった。今度は扉を叩いてみるが、やはり何の反応もない。俺は仕方なく帰ることにした。

家に帰るとすぐに電話をかけることにした。佐々木の母親にだ。佐々木の母親は数コールで出てくれた。

「もしもし」

『はい』女性の声が聞こえてくる。『佐々木の母です』

『ああ、あなたは佐々木さんのご友人ですか?』

「はい。そうですけど」

『実は、さっちゃんのことなんですが、まだ見つかっていないんですよ』

「そうなんですか?」

『ええ。どこかで見かけたりしていないでしょうか?もし見ていたら教えてほしいのですが』

「いえ、見ていません」俺は正直に伝えた。

『そうですか……。あの子ったら、一体どこに行ってしまったのかしら。心配ですね。早く見つかるといいのですが――』そこで女性の口調が変わった。まるで佐々木の母親を演じているかのような感じだった。

「すみません。ちょっといいですか?」俺は尋ねた。

『何でしょう?』

「佐々木さんのお母様ではないですよね?」

沈黙が流れた。そして、『なぜそんなことをお聞きになるのですか?』という声が返ってきた。

「質問に答えてください」

『……さぁ、なんのことでしょうかね?』女性は惚けているようだったが、それが演技だとはすぐに分かった。

『それより、私はあなたのことを知っているのよ。タクミくんって言うんでしょ?』

俺は何も言わなかった。

『私の名前は分からないわよね。だって、会ったことがないんだもの。でも、私はあなたの名前を知ってるの。私が誰なのか当てられたら、今回のことはなかったことにしてあげる。どうする?やってみる?』

「やめておく」俺は素直に断った。「そんなことをしても意味ないからな」

『ふーん、やっぱり分かってたのか』女は意外だというように驚いていた。そして、『まあいいわ。そのうち、必ず会いに行くから』と言い残し、電話を切った。

次の日も、その次の日も、佐々木からの連絡はなかった。警察に行ったはずの佐々木がどうしてこんなことになったのか、俺には分からなかった。警察に何かされたのではないかと不安になったが、警察は関係ないと言っていた。俺はネットを使って調べてみることにした。佐々木はSNSをやっていたはずだと思い出し、検索してみた。すると、すぐに見つかった。だが、そのアカウントはすでに削除されていた。俺は佐々木の行方を追うために、まずは佐々木が通っていた高校へと向かった。そこは徒歩で行ける場所にある。平日だったので学校は休みだったが、校門は開いていた。校舎の中に入ることはできないが、外から見る分には問題なさそうだ。俺は中の様子を窺うことにした。学校の周りを一周してみたが、特に不審な点は見つけられなかった。俺は次に佐々木の家に行ってみることにする。そちらも休日だったため、もちろん閉まっていた。鍵がかかっており入れない状態だったのだが、俺はある方法で侵入することにした。

家に入ると、俺は早速パソコンを立ち上げた。そして、佐々木のSNSのページを開いた後、パスワード入力画面が表示されたので、佐々木の誕生日を入れてみた。すると、ログインできた。俺は佐々木に関する投稿を遡って読んでいった。そこにヒントがあるかもしれないと思ったからだ。しかし、佐々木に関する情報は得られなかった。そもそも、佐々木はほとんど投稿していなかったのだ。唯一あったのは、俺が佐々木の家に遊びに行った時の写真だけだった。

その時、スマホが鳴った。メールの着信音だ。誰かと思って確認したら、それは佐々木の母親からだった。内容は『さっちゃんのことで話があるので、一度家に来てもらえないかしら?』というものだった。俺はすぐに行くと返信した。

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