第6話 深まる疑惑
FBI本部に戻ったディルは、資料室に行き、テロリストに関する資料を全て引っ張り出した。ファーガの事はもちろん、『ゴッドデビル』、それにアダムについての情報を探し出す。どうしても、ファーガが言っていた言葉が頭を離れない。
『お前が一番分かっているんじゃないのか?いや、正確に言えばレイが分かっているか』
『レイは知らないって言ってたぞ』
『気づいていないだけさ』
あれは一体どういう事なのか。まさか、『彼』がアダムだと言うのか。そんなはずはない。レイに紹介されて何度かアダムと会ったが、テロを起こすような人間には全く見えなかった。彼はレイの事を本当の弟のように思っているし、同居しているディルには早く告白しろと茶化すという、そんなお茶目な一面を持つ人でもある。そんな彼がファーガと組んでテロを起こすなど。
そう考えていた時だった。気になる資料を見つけた。それは、アダムらしき男性がテロの起きた現場をうろついていたというものだった。
「アダムが・・・?」
さらに、ラスベガスでファーガと一緒に歩くアダムの姿が目撃されたという事が書かれていた。という事は、あのテロはファーガとアダムが共謀して起こしたテロという事になる。
「ファーガとアダムが親父を・・・?」
ディルの脳裏に、ラスベガスでのテロ事件が呼び起こされる。
あの時、ジョンと一緒に現場に駆け付けた時には既に父の息はなかった。救急隊員によって運ばれていく父を茫然と見つめる事しか出来なかった。
『・・・俺のせいだ・・・。俺が親父に怪しい人物がいる事を伝えていればこんな事にはならなかったのに・・・!』
『落ち着け、ディル!お前のせいじゃない!』
ジョンにそう慰められたが、どうしても自分を責めずにはいられなかった。まだ父に教えてほしい事が山程あったのに―。
そんな事を考えながら、次々と資料に目を通していく。しかし、どの資料にも同じ事しか書かれていなかった。やはり、アダムはファーガと共にテロを起こしている。その事実に、ディルは机に手をついて項垂れるしかない。
「・・・レイに何て言えばいいんだよ・・・」
「・・・遅い・・・。いくら何でも遅い!」
「龍一くん、そんなに焦らなくても・・・」
腕を組んで時計を見る龍一に、輝が声をかける。
「でもさ、もう三時間だぜ?そろそろ帰ってきてもいいじゃん」
言われてみれば確かに遅い。時計の針は九時を指している。レイに言わせれば、この時間に帰ってくる事も稀にあるらしいのだが、どう考えてもおかしい。電話もメールもないのだ。何かあったとしか思えない。
「俺、迎えに行ってくるわ。早乙女、先にレイさんと飯食ってて」
「分かりました」
輝の返事を聞いて、龍一はレンタカーでFBI本部へ向かった。
残業していたジニーから資料室にいる事を聞き、すぐに資料室へ向かう。そして、机に手をついて項垂れているディルを発見した。
「ディル捜査官、何やってんの?早く帰ろうぜ」
「・・・だった・・・」
「え?何だって?」
「・・・アダムが・・・テロ組織の一味だった・・・」
その言葉に龍一は目を見開く。そして、ディルの手元に置いてある資料を手に取り、パラパラと捲る。内容は龍一が見ても変わらない。衝撃的な内容に言葉を失くしてしまう。レイに言うべきではない、直観的にそう感じた。そうディルに進言したが、ディルは首を横に振った。
「レイに隠し事は出来ない」
「けど・・・!」
内容は明らかに酷過ぎる。罪のない人々を何人も手にかけ、あらゆる場所を爆破したと書かれている。事実とはいえ、この惨すぎる内容をレイに伝えるべきなのか。義理とはいえ、兄であるカメラマンがテロに関わっているという事を。いや、伝えるべきではない。それは誰もが思う事。しかし、伝えるべきだというディルの言う事も分からない訳ではない。何故なら、アダムはレイにとって大切な家族なのだから。けれど―。
「龍一くんだって、輝さんに本当の事話しただろ?」
「そうだけど、こんな残酷すぎる事実をレイさんに話したら・・・!」
「分かってる。けど、レイはジャーナリストだ。真実を隠しておく事なんて出来ない」
仕方なく、二人はレイに本当の事を伝える事にし、ディルとレイの家に帰宅した。
そして、レイと輝に事実を話した。ラスベガスでファーガとアダムが一緒に歩いている姿が目撃された事、ラスベガスでテロを起こしたのがファーガとアダムだという事、アダムらしき男が、数々のテロ現場で目撃されているという事を。
レイは信じられないという風な表情を見せる。輝も衝撃の事実に戸惑っている。
「本当なんですか?龍一くん」
「ああ。俺も最初は信じられなかったけど、どの資料を見ても同じ事が書いてあったんだ」
「アダムが・・・そんな・・・!」
「レイ、信じたくない気持ちは分かるよ。でも・・・事実なんだ」
ディルは申し訳なさそうに俯く。
「ディル・・・」
「龍一くん、アダムさんが『ゴッドデビル』と手を組んでいる可能性はあるんですか?」
「それは調べてみないと分からない。ただ、ファーガと手を組んでるとなると、行動を共にしてる可能性も否定出来ないな」
ディルはどうするのか。心配そうにレイが見つめる中、ディルが口を開く。
「・・・カルロスを捕まえる。明日、本部長に進言するつもりだ。龍一くん、輝さんも協力してくれ」
「言われなくてもするつもりさ。な?早乙女」
「ええ」
翌日、ディルは龍一と一緒にラルフにカルロスを逮捕する旨を伝えに行った。
「昨日、やたらと資料を調べていたのはそういう事だったのか」
「報告が今日になってしまって申し訳ありません。ですが、これは明らかに事実です。一刻も早くカルロスを逮捕して、全てを吐かせるべきです」
「よし・・・。ディル、すぐにカルロス・チャンの逮捕状をとれ」
「分かりました。セインと一緒に行ってきます」
「レンタカー回してくる」
「ありがとう」
龍一とディル、セインはレンタカーで急いでスポーツセンターへと向かう。ちょうど、インストラクター達が、子供達に球技を教えている最中だった。カルロスの姿も見える。
「はい!すぐに止めて!」
セインが声を上げて授業を中止させる。大人達は目を丸くし、子供達は何が起きたのか分からない様子で首を傾げている。龍一は、そんな子供達に中に戻るように促す。子供達が建物の中に入ったのを確認したディルは、カルロスに逮捕状を見せた。
「カルロス・チャン、お前を逮捕する」
「何故?」
「数々のテロ行為に関わってる情報を掴んだんでな」
「それは任意か?」
「ああ」
「・・・分かった」
カルロスを連れてFBIへ戻る三人。すぐに取り調べが始まった。なかなか口を割らなかったが、ディルが辛抱強く問い詰める事数時間、ようやく口を開いた。「ゴッドデビル」の一員である事、ファーガと繋がっていて、彼の命令に従って動いている事、そして龍一の両親を殺害した事を自供した。それを扉の近くに立って聞いていた龍一は、怒りを抑えながらカルロスを睨みつける。
「どうしてファーガと手を組んでる?子供達にサッカーを教えている真面目なお前が」
「お前には分からないさ、ディル」
「何?」
「ファーガは俺の人生を救ってくれた。だからついていこうと決めたんだ」
「奴はテロリストだぞ?ただそれだけの事で協力するのか?」
龍一が静かに問いかける。その声色には僅かに怒りが混じっていた。そんな龍一を一瞥し、カルロスは静かに語り出した。
「・・・俺は小さい頃に両親を亡くし、頼る人もいなくて・・・ずっと孤児院で暮らしていた。だが、そんな生活にも嫌気がさして、路上生活に身を移した」
「まさか・・・ロストチルドレン?」
ディルの言葉に頷く。
ロストチルドレン―親兄弟を亡くした子供達の事だ。金品を盗み、警察の目を掻い潜りながら路上で生活をしている。カルロスもその一人だったのだ。通りを行きかう人々から食べ物や金品を盗んで生活していたという。何度警察に追いかけられたか分からない。そんな日々を繰り返している時にファーガと出会ったという。
「一緒に来ないか?」
そう言われ、迷わず手を取った。自分を必要としてくれている手だと幼いながらに分かったから。
「その頃はテロに関わっている人だとは思わなかった。だって・・・ファーガは俺の家族も同然だったから」
「テロを起こしている事を知ったのはいつだ?」
「小学校を卒業してからだ。彼が爆弾を作っている所を偶然見た。その時だよ、協力してくれないかと言われたのは。迷う事なく協力するって言ったよ。断る理由はなかった。いずれは彼の力になりたいと思っていたから」
「・・・だから・・・?だから俺の両親を殺したのか?ふざけんな!」
龍一が殴りかからん勢いでカルロスの胸倉を掴む。慌ててセインとジニーが龍一を抑える。
「龍一くん、落ち着け!」
「何故俺を殺さなかった?組織を脱走したのは俺だ!父さんと母さんじゃない!」
「龍一くん!」
ディルが声を張り上げる。
「・・・気持ちは分かる。けど、こいつに何を言っても無駄だ。テロリストなんかに君の気持ちが分かるはずがない。大切な人を殺された人の気持ちなんて・・・!」
「ディル・・・俺は・・・」
「俺はお前を許す気はない。親父を殺し、何の罪もない人々を、龍一くんの御両親にまで手をかけたお前らを。ムショの中で自分の行為を恥じるんだな」
そう吐き捨てて、龍一を伴って取り調べ室を出た。
龍一を落ち着かせる為、オフィスに戻る。
「・・・ごめん、取り乱した」
「だからここで待ってろって言ったんだ。取り調べに参加したら君の復讐心が増幅しかねないって」
カルロスを逮捕し、取り調べをする際、龍一にはオフィスで待っているように伝えた。しかし、龍一は真実を知りたいからと取り調べに参加した。真実は分かった。だが、龍一の心の傷は残ったままだった。
「でもこれで分かったな。ファーガは確実にクロで、全ての元凶は『ゴッドデビル』だ」
ジニーの言葉に頷くディル。しかし、まだ分からない事もある。何故ラスベガスでテロを起こしたのか、ワールドトレードセンタービルに飛行機を突っ込ませたのか。その謎を解かない限り、この事件は解決しない。
「龍一くん、近城の居場所は?」
ディルの問いに首を横に振る。接触はしてきたが、それ以降の足取りは掴めていない。アメリカにいるのか、日本にいるのか、それともー。滝澤にも調べてもらってはいるが、情報はないままだ。
「ごめん、ちょっと頭冷やしてくる」
そう断ってオフィスを出た龍一。そのまま屋上へ行った。心地良い風が吹いている。龍一の悩みなど洗い流すかのように。
ロストチルドレンを否定したい訳ではない。龍一自身、親を亡くしたり、捨てられたりして、路頭に迷う子供達をその目で見てきた。親の愛を知らない彼らが犯罪を犯してしまう様も。その子供達をテロに加担させるというのが、ゴッドデビルの1つのやり口でもある。近城もその1人だったと後に勇造から聞いた。何とも哀れな男だろう。もっと早く一緒に脱出していればこんな関係になる事はなかったのか。今更後悔しても遅いのに。
「龍一くん」
輝が来た。ディルから居場所を聞いたらしい。
「大丈夫・・・ですか?」
答えが返ってこない。龍一は空を見つめたままジッと立っている。輝は何も言わずにそっと龍一のそばに歩み寄り、そっと手を握った。
「・・・・馬鹿だよな。どれだけカルロスを責めても親父と母さんは戻って来ないって分かってるのに・・・」
辛そうに呟く龍一に何も言う事が出来ない。ただ言えるのは。
「・・・僕がいますから」
ただそれだけ。彼の過去がどんなに残酷で悲しく辛いものであっても、輝に出来る事は龍一のそばにいる事だけ。そばで支える事だけ。
「・・・ありがとう」
もう一度カルロスにファーガの件について問い詰めようと、ディルとジニーは取り調室へ向かう。同時多発テロやラスベガスでのテロの詳細を知る為にももう少し情報が欲しい。
「取り調べ終わったらベガスに行こう。カルロスの証言だけじゃ情報が少ない」
「俺も一緒に行くぞ。お前1人で行かせたらまた拉致されかねん」
「俺はガキかよ」
取調室に着いた2人は倒れている警官を発見した。急いで駆け寄る。殴られて気絶しているようだ。まさかと中に入る。もぬけの殻だった。
「ジニー!」
「分かってる!」
ジニーは急いでオフィスに戻り、ディルは警官を医務室に運び込んだ後、屋上へ走った。
「龍一くん!」
「どうした?」
「カルロスが逃げた!」
龍一と輝は驚いて顔を見合わせる。
「早く捕まえないとまたテロを起こしかねない!」
「ああ!早乙女はここにいて」
「僕も行きます!」
「ここにいれば安全だから。ラルフさん達もいるし。カルロス捕まえたらすぐ戻ってくるから」
「でも!」
「輝さん、大丈夫ですよ。俺が一緒ですから」
ディルの言葉に不安になりながらも頷く。急いで屋上から出る龍一とディル。
そのまま車に飛び乗り、ロス市内へと走り出した。今ならそんなに遠くへ行っていないはずだが、ファーガ、ないしは「ゴッドデビル」と合流されては元も子もない。
一方、ジョン達もカルロスの行方を探す為、GPSを作動させていた。逮捕した際にチップを嵌め込んでおり、FBI全てのパソコンのGPSに繋がるようになっているのだ。
「ジョン!出ました!」
「どこだ!?・・・・ん・・・?」
何故かFBIのビルの位置が点滅している。ビルの内部にいるというのか。
その事を知らない輝は、屋上から出てオフィスへ向かっていた。
「・・・あ、おじいちゃんか手島さんに報告・・・」
スマホを取り出したその時。肩に手を置かれた。振り向いた瞬間、腹部に衝撃を受け、床に倒れ意識を失った。そばにカルロスが立っている。手にはスタンガンが。ニヤリと笑うと、意識のない輝を軽々と担ぎ上げ、歩き出した。
ビル内部を探すセインとジニー。だが、どこにもカルロスの姿はない。確かにGPSはここを示しているのに。
屋上にいるかもしれない。そう考えて、走り出した2人は床に落ちているスマホを見つけた。
「おい、このスマホ・・・!」
「輝さんのだ!何故ここに・・・?」
まさか。顔を見合わせた2人は急いでロビーへと向かう。
予想した通り、輝を抱えたカルロスが外へ向けて歩いていた。急いで追いかける。しかし、それより早くカルロスは待っていたらしい車に乗り込んだ。
「!待て!」
セインとジニーを嘲笑うかのように、車は猛スピードで走り去ってしまった。
すぐにジョンに通信を入れる。
「ジョン!輝さんがカルロスに拉致されました!」
『何だと!?』
セインがジョンと話している間、ジニーはディルに連絡を入れていた。しかし、なかなか出ない。運転中なのか。応答がなく、イライラし始めた時、ディルの声が聞こえた。
『どうした?ジニー。今こっちはグラウンド・ゼロに向かってんだけど』
「カルロスはビル内部にいたぞ!」
『は!?』
「あと落ち着いて聞けよ!・・・輝さんが拉致された!」
その言葉に驚くディルと龍一。すぐに戻ると伝え、車をUターンさせる。
一方、カルロスを乗せた車は、ロサンゼルス郊外の倉庫に到着した。輝を抱えて車から出る。そして躊躇なく、倉庫の中へ入っていった。そして輝を地面に寝かせる。まだ意識は戻らない。そんな輝をつまらなそうに見つめた後、どこかへ電話をかけ始めた。
FBIへ戻った龍一とディル。既にジョン達はGPSを駆使し、輝救出の為カルロスの行方を捜索していた。急いでディルも加わる。
龍一は少し離れて椅子に座っていた。その顔には焦りが見える。ゴッドデビルの狙いは、自分の抹殺とレイが持つフィルムを手に入れる事。何故、何の関係もない輝を拉致したのか。一緒に同時多発テロの捜査をしているからなのか。輝と深い関係だと気付かれてしまったのか。頭を抱える。ゴッドデビルと自分の確執に巻き込むつもりなどなかったのに。1人残して行くんじゃなかった。様々な思いが龍一の中を駆け巡る。
「出ました!」
ディルの同僚、ダンが声を上げる。GPSはロサンゼルス郊外の海辺を示している。その場所に龍一は憶えがあった。ゴッドデビルが麻薬の取引で使用していた倉庫がある。あそこに輝がいる。居ても立っても居られない龍一はオフィスから出た。
「龍一くん!待て!」
慌ててディルがセイン、ジニーと一緒に追いかける。
3人に追いつかれるより先に外に出た龍一は、タクシーに乗り込んだ。実は既に知り合いが勤める会社のタクシーを手配していたのだ。
「龍一くん、行き先は?」
「例の倉庫だ!急いでくれ!」
「おいおい、ゴッドデビルのしっぽは掴んでるんだろ?急ぐ必要ないんじゃないか?」
「いいから急いでくれ!!・・・大切な人が危険なんだ」
龍一のただならぬ言葉に頷くと、すぐにタクシーを発進させる。
ディル達が表に出てきた時には、既にタクシーはいなかった。すぐにセインが車を出す為に駐車場へ急いだ。
「・・・・ん・・・・」
倉庫の床の上で目を覚ました輝。起き上がろうとした途端、腹部に痛みが走る。スタンガンの影響がまだ残っているようだ。ゆっくりと体を起こし、辺りを見渡す。
「どこだ・・・?ここ・・・」
「目が覚めたか」
そこへカルロスがやってきた。輝のもとへ真っ直ぐ歩いてくるとしゃがみ込み、輝の顎を掴んで上向かせる。
「綺麗な顔だな。あいつが夢中になるのも分かる」
「・・・どうして僕を・・・」
「攫ったかって?橘龍一をおびき寄せる為さ」
つまり人質という事だ。龍一の足手まといになりたくなかったのに、こんな易々と捕まってしまうとは。警察官として情けない。
「・・・僕を人質にしても、龍一くんは貴方の脅しになんて屈しない!」
「それはどうかな?あいつはこの場所を知っている。お前が俺に攫われたと知ってここへ向かってるはずだ。ここは俺達『ゴッドデビル』が交渉の場としてよく使う倉庫だからな」
という事は、自分はゴッドデビルの手中にいると言っても過言ではない。震える手を気付かれないようにグッと握る。ファーガやジェイン・アルベルトがこの近くにいるかは分からない。それでも龍一は来るだろう。自分を助ける為に。来ないで欲しい。もう危険な目に遭わないで欲しい。複雑な想いで輝の胸は痛んだ。
その時、カルロスがゆっくりと立ち上がった。
「・・・来たか」
倉庫の入口に目を向ける。輝は目を見開いた。龍一がゆっくりと歩いてくる。
「龍一くん・・・!」
龍一は2人より少し離れた所で足を止めると、銃口をカルロスに向けた。同時にカルロスが銃を輝に突きつける。
「俺を撃てばこいつも死ぬぞ」
「・・・お前らの狙いは俺だろ?早乙女は関係ない。彼を離せ」
「その前に銃を捨てろ。大事な男に風穴が開いてもいいのか?」
数秒沈黙が流れる。龍一は溜息をつくと、ゆっくりと腕を下ろし銃を地面に投げ捨てた。一方のカルロスは輝に銃を突きつけたままだ。
「龍一くん・・・」
「お前らの真の狙いは分かってる。アメリカ政府を陥れる事でも、レイ・クロードが持つフィルムを手に入れる事でもない。俺を抹殺する事だ」
「え・・・!?」
倉庫へと向かうディルも、セインとジニーに真実を話していた。
「『ゴッドデビル』の狙いが龍一くんを抹殺する事だと!?」
「ああ。龍一くんの過去は話したろ?『ゴッドデビル』を脱走した後、追ってきた構成員を全員殺害したそうだ。FBIの特殊部隊と協力してな」
「ジョンから話は聞いてたが、無茶するにも程がありすぎるだろ!」
「それだけ両親を殺害された事が許せなかったんだろ」
「レイが持つフィルムを手に入れようとしてんのは、そこに龍一くんが映っているかどうかを確かめる為って事か。生きているか死んでいるか、そして今現在どこにいるかを探る為に」
「さすがセイン。鋭いな」
そして、日本にいる事を掴み、近城に探りを入れさせたところ、輝と行動を共にしているのを目撃したのだろう。それで輝が龍一の弱点だと確信を持った。そこで念入りに今回の拉致作戦を敢行したのだ。龍一を確実に殺害する為に。
一刻も早く2人の安全を確保しなければならない。ディルは車のスピードを上げた。
「俺が生きていると知った後、お前らは何度も刺客を日本に送り込んできたな。俺を殺す為に。ジェインかカイトに殺害した後は証拠を隠滅するように命令されてたんだろ。だが、生憎俺はお前らに殺される程ヤワじゃない。テロにしか興味のないお前らに好き勝手されてたまるかよ」
「龍一くん・・・」
「けど、お前だけはこの手で始末してやる。両親の仇であるお前をな」
「ほざけ!」
銃を手に取ろうとした龍一の肩に銃口を向け、カルロスは引き金を引いた。血がコンクリートの地面に飛び散る。
「龍一くん!」
駆け寄ろうとする輝だったが、カルロスに腕を掴まれた。
「お前は一緒に来い」
「離せ・・・!龍一くん!!」
その時、一発の銃弾がカルロスの右腕を貫いた。痛みにカルロスは輝から手を離す。輝は急いで龍一に駆け寄った。同時にディルとセイン、ジニーが倉庫に突入してきた。
「動くな!カルロス!」
龍一と輝を庇うように、ディルが2人の前に立つ。セインとジニーはカルロスを地面に引き倒し、後ろ手に手錠をかけた。憤怒と悔しさでカルロスは顔を歪める。そこへ、セインが応援で呼んでいた捜査官達が駆けつけた。
連行されて行くカルロスを横目に、ディルは銃を収めると2人に駆け寄る。
「龍一くん!大丈夫か!?」
「何とかな」
そう言いながらも、痛むのか顔を顰めている。その隣りで輝は心配そうに龍一を見つめる。
再びカルロスの取り調べを開始したディル達。輝を拉致したのは、やはり龍一を殺害する為の人質だったらしい。命令した人物についてはだんまりを決めているようだが。さらに、ラスベガスや同時多発テロについても問い詰めたが、自分は関与していないと否定した。どうやらまだまだそこは捜査しなければならないようだ。
龍一は医務室で治療を受けていた。輝がそばに寄り添っている。
「龍一くん、ごめんなさい...。僕が捕まったせいで...」
「早乙女のせいじゃないよ。俺が油断したせいだから」
そう言いながら笑う龍一の袖をギュッと握る輝。
怖かった。また龍一が傷ついてしまうのではないかと思うと怖かった。しかも自分が捕まってしまったせいで。
龍一を守ると言ったのに、これでは守られてばかりだ。
俯く輝の手をそっと龍一が握る。
「俺の方こそごめん。危険な目に遭わせて」
「龍一くん・・・」
「約束する。もう危険な目には遭わせない。今度こそ、必ず守る」
ニューヨーク・パラサイト 綾世 岬 @AyaS
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