太陽と水星

@azumariku

第1話

私の先輩は少し、いやだいぶ変わっている。

服は春夏秋冬変わらずパーカーにジーンズで他の服を着ているところを見たことがないし、それに大学の講義がある時間でもSNSにずっといたりしてる。あと、お金ないのに働かないでお金使ってお金ないって言ってたり、ほんとに変わってる。


けど、それ以上にいい人だったりもする。人一倍努力家で頑張りすぎてしまうところや、人を傷つけないようにしている優しいところ、話が面白いところ。変わってるけど太陽のような暖かさがあるところ、大学に入って緊張していた私の解してくれたところ。


そんな人気者の先輩に対していつしか敬意を抱くようになった、私自身おかしいと思うけど。いつしか先輩の太陽のような存在が私の拠り所になってた。


けどその太陽が覆われ、雨が降った。クリスマスソングが街中を満たしている頃のことだった。理由は単純で、恋人と別れたのが原因だった。泣きながら恋人について話す先輩を見て、私は初めてこのシミみたいに広がる鈍い痛みに気づいた。嫉妬のような、安堵のような、汚されたような痛みに。でも尊敬する先輩に私は何も言えない。だって私は後輩で、先輩にこんな気持ちを抱く資格すらないのだから。しかも別れてから気づいて、すぐに伝えるなんて都合が良すぎる。それに、私がこんな気持ちを抱いていると知られることが、怖い。


だから私は、後輩であろうとした。先輩のことをイジったり、一緒に遊びに行ったり、後輩らしく。それだけに努めようとした。けど、時間が経てば経つほど醜い心はぶくぶくと膨れ上がっていく。誰かと絡んでるのを見るだけで、鈍い痛みが鋭い痛みに変わっていった。あぁ、どうしてなんだろ、先輩が最低な人だったらなぁ。そしたら…。


ある日、我慢できなくてその痛みが口から溢れてしまった。しまった、という気持ちよりなぜか安堵が最初にやってきた。あぁ、これで終わるんだ。けど先輩は、冗談を笑うように、ありがとう、と言った。私は後輩で、先輩は先輩なんだ、と頭では分かってたことを理解させられた。



私は水星で、先輩は太陽で。近くて、けど近づけなくて。


先輩はこれからまた前を向くんだろうか。新しい恋人ができて、その人とキスとかしたりして。あ、でも先輩は変わってるからなぁ、しばらくは無理そうだなぁ。だけどきっといい人に出会えるんだろうな。

なら私はこの気持ちを無くさなきゃな。

先輩、好きですよ。






好きでしたよ。

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