びっくりするほどユートピア。

HENTAIの国(褒めてる)

昔々、あるところに一つの国がありました。


その国は技術大国で、医療大国でもあり、国民がワーカーホリック気味であることを除けば、安全で豊かな国でした。


この国はその最先端技術を余すことなく医療や衣食住に注いだかと思うと、同じレベルの技術をホログラムのネコチャンの再現に利用できないか試行錯誤したり、最新のヒーローのおもちゃに組み込んだりするような、とてもゆるい国でした。


かと思えば災害の際はチョッパヤで救助隊を派遣するなど、グッピーだったら温度差で死んでしまうような振り幅を当たり前のようにこなすため、他の国からは「HENTAIの国(褒めてる)」と呼ばれていました。


「ヘヘッ、困ったときはお互い様よぉ!」といって国内外問わず災害救助をしていたので、HENTAIの国(褒めてる)を慕う国は沢山いました。


しかしそれが面白くない国も、当然あったのです。


その国がどこなのかみんな話したがらないので、仮で某国と呼びます。

とにかく某国はHENTAIの国(褒めてる)が嫌いでした。だって自分たちの国だって立派だし、技術だってあるし、歴史だってあるのに、いつも注目されるのはいつだってHENTAIの国(褒めてる)だったからです。


他の国からするとそれは「国民性の違い」で説明がつくのですが、某国にそれを言っても「そんなこと無い!お前はHENTAIの国(褒めてる)のスパイだろう!」と言って聞く耳を持ちませんでした。

そんな事ばかりやっているので、某国は次第に他の国から嫌われていきました。

しかし某国は自分たちの素行が悪いと思ってないので、嫌われているのはHENTAIの国(褒めてる)がそうなるよう仕組んでいるんだと思うようになりました。


それで、HENTAIの国(褒めてる)を侵略しようと考えたのです。


侵略の理由なんてどうだっていいのです。勝ったほうが歴史を作れるのだから、後からそれっぽいことをでっち上げてしまえばいいだけのこと。大丈夫イケるイケる。

前々から気に食わなかった国を蹂躙するのはキンモチイイイイイ!!

ついでにこの国の技術も盗んじゃお。

国際的に非難轟々でしたが、知ったこっちゃないのです。



侵略が始まって10日ほど、その日の早朝のこと。

最前線の某国の部隊の前では、異様な光景が広がっていました。


なんの武器も持たない一般市民が、迷彩服を着た兵士に混じってただじっと某国の部隊を見ていたのです。兵士たちも武器を持っていません。そして人々の前には、大小さまざまなサイズやデザインのベッドが鎮座しています。人数は、一体どこにそんなにいたの?というぐらい、見渡す限り。全国民が集結しているのかと思えるほどでした。

そして人々は突然服を脱ぎだし、全裸で尻をペチーンペチーンと叩きつつ、白目を剥いてベッドで踏み台昇降しながら「びっくりするほどユートピア!びっくりするほどユートピア!」と叫び始めたのです。


何この悪夢みたいなフラッシュモブ。


「びっくりするほどユートピア!」

「びっくりするほどユートピア!」


ある者は股間のピストルをベチベチ振りまくり、ある者は胸部の豊満な爆弾をプルンプルンさせて、一心不乱に叫び続けます。


「びっくりするほどユートピア!!」

「びっくりするほどユートピア!!」


幾百、幾万の叫び声に、上官の号令はかき消されます。


「びっくりするほどユートピア!!!」

「びっくりするほどユートピア!!!」


地獄のような光景に、逃げ出す兵士が出てきました。


「びっくりするほどユートピア!!!!」

「びっくりするほどユートピアアアアッ!!!!!!!」


怒号に近い叫び声と共に、爆発音と、遅れて空に花火が打ち上がりました。ド派手なフィナーレです。そして、それを合図に、















HENTAIの国(褒めてる)の国民はみんな息を引き取ったのです。




あとから分かったことですが、国民はみんな毒を服用していました。それは神経回路に作用するもので、死亡前の奇行は毒のせいであろうという結論が出されました。


某国の兵士が街を調べたところ、シェルターと思われる施設には、子どもの亡骸が安置されていました。

子どもたちは服を着ていたので、亡くなったあと大人たちが服を着せたか、それとも別の毒物を使ったか、いずれにしろ大人たちより先に死んでいたようです。

毛布で丁寧に包まれた子どもや、小さな花がそえられている子ども、ハートの形に折ったメモを握っている子どももいました。死後に握らせたのでしょう。


兵士の一人がそのメモを開いてみました。この国の文字は読めませんが、ところどころ涙の跡のあるメモを見て、親から子どもへの謝罪の手紙だろうと考えました。


そしてそれを見てようやく、兵士たちは自分たちが何をしたのかを理解したのです。



HENTAIの国(褒めてる)は滅びました。



この歴史的な大事件は、"HENTAIの国(褒めてる)のSEPPUKU"と呼ばれ、今でも議論に上ります。

それは主に「子どもを道連れにすんなやクソがアアア」という内容なのですが、その一方、「結果的に勝ち逃げだったのではないか」という話も出るのです。


というのも、HENTAIの国(褒めてる)は自国の技術のありとあらゆるものを破壊していました。あの毒による奇行の最後に上がった花火は、主要な技術開発施設や発電所など、重要施設に仕掛けられた時限爆弾に添えられたものだったのです。


HENTAIの国(褒めてる)の技術を盗んで我が物にする某国の目論見は失敗しました。


それ以前に、某国がこの国の技術を真似するのは無理がありました。なんてったって国民全員がワーカーホリック気質の国。板金にしても、重要な部分は職人の手作業で仕上げがされていて、例え設計図が残っていたとしても、プレス加工で再現できるものではないのです。


この情報が人々の目に触れるようになると、「あの国のことだから、重要書類でキャンプファイヤーでもして、ついでに芋でも焼いたんじゃないの」なんて書き込みがネットで広まりました。

それはちょっとしたジョークの類いだったのですが、「あのヘンテコな国ならやりかねねーな‥‥」と思った人々によって必要以上に拡散していき、今ではHENTAIの国(褒めてる)が滅亡した日は芋料理を食べるのが定番になっています。


ほとんど無傷でHENTAIの国(褒めてる)の領土を手に入れた某国でしたが、災難が続きました。ここの土地は世界でも稀な災害地域だったのです。

一年に最低一回、確定でやってくるハリケーン。それによる水害。蒸し風呂のように不快感の強い夏に、皮膚が切れるかのように冷たい風の吹く冬。

特に困ったのは地震でした。年に何度か大きな地震が必ずやってくるのです。しかも某国には地震の専門家がおらず、対策を練ることも出来ません。

HENTAIの国(褒めてる)の高い技術は、度重なる自然災害で培われたものだったのです。


住むのが困難ならと、肥沃な土壌を活かして作物栽培をメインにしようとしますが、災害は容赦なく植物にも襲ってきます。

それなら海はどうかと考え、これは最初のうちはうまく行くのですが、後先考えずに資源を取りまくった結果、数年で見るも無残な状態になりました。


今では小さな軍事拠点があるだけで、ここに派遣されるのは実質流刑だと、兵士たちは影で囁きます。




のちにHENTAIの国(褒めてる)に訪れたことのある老人たちは、その話をするとき必ずうっとりと、夢見るような瞳でこう語ります。



「あそこは確かに、びっくりするほどユートピアだった」









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