聖者の森(4)

「ユリアス!」

 地上に出ると、リシャールが駆けつけてきた。

「マザーは何と?」

「オヤジを知る奴が帝都にいる、らしい」

「誰ですか?」

「分からない。肝心のことをあのババアが言わなかった。おまけに、俺がオヤジを探すと世界の秩序を根底から破壊するんだと」

「……どうしてでしょうか」

「しつこく聞いたが、無理だった」

「――マザーは語るべきことしか語りません。それから、マザーを悪し様に言わないよう……」

 さっきの渉外役の女性がしずしずとやって来た。

「マザーのこと、信じてもいいのか?」

「語るべきことを語るべき時と人に語る。マザーに出会えた方々は天啓を得て、ここを去って行きました」

「……帰る時も妙な幻にあったりしないだろうな」

 女性は、ユリアスに興味をなくしてしまったみたいに無視して、立ち去った。

「ドルイドとはもう二度と関わるか。リシャール、行くぞ」

「あ、はい」

 心配したが、森を出るのは拍子抜けするほど簡単だった。

 神殿を離れて、僅か一分足らずで外に出られたのだ。

 振り返って森をみると、入る前と同じように森と言うか藪のようなものに過ぎなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る