第3話 陽気な村(1)
ユリアンたちは翌日、街を出立し、王都を目指す。
順調にいけば、半月ほどで王都フェイスに到着する予定だ。
「ユリアン、どうして馬に乗らないんですか? 馬で行けばもっと早く……」
「俺の中の魔物を怖がって、馬が暴れるんだ」
「なるほど」
「お前はいちいち俺に付き合わないで、馬に乗っていいんだぞ」
「そうはいきません。命の恩人に従います」
もう忘れろよ、そうしたら一人静かな旅ができる――。
午前中に出発し、森が見えてくる頃には空は茜色に染まった。
地図を見れば、サバスの森を突っ切る必要があるようだ。
「あそこの村で宿があるか聞くぞ。無理なら野宿だ」
森からそれほど離れていない場所にある小さな集落へ向かう。
「あらぁ! あなたたち、どうしたの?」
洗濯物を取り込んでいるおばさんが、ユリアンたちを見るなり、ほがらかな笑顔を見せる。
「この村に、宿はあるか? なくても、納屋でもいい。金なら払う」
「ああ、あるわ。あっちの……見える? 二階建ての建物。あれが宿」
思わず、たじろいでしまうほどの笑顔を向けながら、おばさんが教えてくれる。
「た、助かる……」
「ふふ、旅の人がうちみたいな村に寄ってくれるなんて、みんなに教えなくちゃ! ねえねえ、聞いて~っ!」
「おいおい。マジかよ……」
「いい人みたいで良かったですね」
「俺たちを旅芸人とでも思ってるんじゃないか?」
しかし人懐っこいのはおばさんたちだけではない。
道行く村人たちもまた、ほがらかな笑顔を見せて挨拶をしてくれる。
(小さな集落は排他的っていうのがおきまりなんだけどな)
中には目と鼻の先にある宿へ案内してくれるおじいさんまで現れた。
確かにいい人なのだろうが、スレイヤーの立場でここまで歓迎されることになれないユリアンは戸惑うばかり。
「おーい! カーミラ! 旅人さんだよぉ!」
道案内してくれた老人が宿屋の扉を開けながら声を上げると、奧から前掛けをまとった若い女性が現れる。
どうやらここは酒場兼宿屋らしい。
「いらっしゃいませ。旅人の御方ですね。どうぞ、お二階があいておりますので」
「料金はいくらだ?」
「タダで結構ですよ」
「は?」
「ここはなぁ、旅人さん。生計を立て取るというより、趣味みたいなもんなんじゃ」
「しゅ、趣味で宿?」
一から十まで面食らうような事態だ。
若い女性も「ええ、そうなんです」と頷く。
「こんなさびれた村にやってきてくださる方はとても珍しいので。私たちは村を挙げて、歓迎しようと決めているんです。お食事はどうです?」
ぐぅ、とユリアンの腹が丁度良く鳴った。
「今、お作りしますねっ」
イスに座って待っていると、がやがやと何やら外が騒がしくなる。
(今度はなんだ?)
不審に思っていると、宿に村人たちが押し寄せる。
「!?」
ある者は頼んでもないのに楽器を演奏し、ある者は聞いてもいないのにこの村の歴史を
「さあさあ、どんどん召し上がって!」
「いただきますっ」
リシャールは何の警戒もせず、食事にぱくつく。
(うまそうに食いやがって)
たまらず、ユリアンもニワトリの姿焼きにかぶりついた。
「ん? 確かに、うまいな!」
手と唇を
「喜んでくれて良かったわ。まだ、たっくさんあるからねえ」
「いや、俺たちは別にメシもあるし、あんたらも食えよ」
「いいの、いいの。ねえ、みんな!」
村人たちは「そうだ、若いんだからどんどん食え!」となぜか盛り上がる。
「ちょっとよろしいでしょうか?」
そこにリシャールが声をかける。
「あら、どうしたの。おかわり?」
「いえ、たくさんまだ残っていますから。そうではなく、これから向かうサバスの森に魔物が
「待て、そんな噂あったのか?」
「はい。前の街の宿屋の女将さんから聞いたんです」
「そういう大事なことは早く言えっ」
「……す、すみません。――それで、おばさん、何かご存じですか?」
「そんなのはただの噂。ここは
「そうでしたか。すみません。変な話をしてしまって」
「ふふ、平気平気。――デザートにはアップルパイもあるからねえ」
「あ、はい……ちょ、ちょっと、みなさん!?」
押しに弱いらしいリシャールに、おばさんたちがむらがった。
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