旅は道連れ(2)

 ゾロの言う遺跡は街からだいたい、一時間の距離にある。

「あ、あれだ。あの遺跡……」

 遺跡を見下ろせる高所で、腹這いになったゾロがくだんの場所を指さす。

 三日月が空に輝き、明るい夜。

 月明かりに照らし出され、大理石がキラキラ輝いて見える。

 遺跡はかつて神事が行われたように見える、立派な建物だったことを忍ばせる。

 遠目に見る限り、何かがひそんでいるような雰囲気はない。

「ユリアン、行きましょう」

「あ、おい……っ。ったく」

 一足先に向かうリシャールの後を、ユリアンは追いかけた。

「魔物がいるかもしれないんだ。少しは警戒しろ」

「ですが、ご友人のことが心配ですから」

 いざ遺跡に足を踏み入れると人の気配を探るが、特に何も感じないし、何か動くものがあるわけでもない。

「イスカさん、聞こえますかー! いたら返事をしてくださーいっ!」

 しんっとした夜の静寂に、緊張感の欠片もないソシャールの声が響き渡る。

 ユリアンは周囲の匂いを嗅ぐが、血の臭いは感じなかった。

 廃墟の神殿にも争いがあったような痕跡は見出せない。

「ゾロ! お前の仲間はここにはいない。襲われたような痕跡もない。本当に行方不明なのか!? ――ゾロ、聞こえてるのかっ!」

「……聞こえてるよ」

 ゾロの声。しかしそこには軽薄さが滲む。

 高所に陣取ったゾロを筆頭に、男たちがぞろぞろと現れる。

「ゾロさん、これはどういうことですかっ」

「どうもこうもねえ。お前らはここで死ぬんだ!」

「え?」

「……こいつらは山賊だ。全部、ウソらしいぞ」

「そーいうわけだ。よし、まずは身につけているもんを外せ」

「盗賊のくせに見る目のねえ連中だ! 俺たちが金持ちに見えるのか?」

「あははははは! なんも分かってねえな。人間っつーのはよぉ、臓器や血も売れる金塊みたいなもんなんだよっ。世の中には、スレイヤーを解剖したがってる変質者もいるし、な」

 ゾロを筆頭に、仲間の族も下卑た笑い声をあげた。

 しかし今度笑うのはユリアンだ。

「何がおかしい!」

「お前の浅はかさが、面白いんだよ。いいか? すぐに俺たちの前からうせろ。そうしたら、命は助けてやる。なんせ、今日は一日いろんなことがあったから、クタクタなんだ。寝る前にお前らの血を浴びるなんざ、ごめんなんだよ」

「ハッ。自分たちがおかれてる状況がわからねえのか? お前らは完全に囲まれてるんだぜ? 俺たちの……」

 刹那、ゾロは驚きの顔をして、胸を見た。

 ユリアンの右腕から現れた灰色狼フェンリルが、ゾロの心臓を貫いていたのだ。

 ゾロは白目を剥き、その場に倒れた。

「リシャール、お前は下がってろ!」

「そうはいきません。私もやりますっ」

「好きにしろっ」

 ユリアンは遺跡の柱を一足飛びに移り、ゾロが倒れた三拍後には賊の陣取る高所に、着地していた。

 そうしてただただ驚くだけの賊を、ユリアンの身の内に宿した魔物によって打ち倒していく。

 目の端で、リシャールを確認する。

 彼は闘技場で見せた見事な剣技で、数を頼みとする賊を次々と斬って捨てていた。

(やるじゃんか!)

 ユリアンは最期の一人を右腕で薙ぎ払い、崖から突き落とす。

「こっちは終わったぞ」

「こちらもこれで終わり、ですっ」

 逃げようとした賊の背中に一太刀を浴びせてリシャールは涼しい顔で言うと、頬に飛び散った血を右腕で乱暴に拭った。

「……それにしてもウソだったなんて」

「そうでもねえよ」

 ユリアンは、ゾロが腰に帯びていた、撒き餌代わりの銀の詰まった袋を掴み取ると、手の中でいじくる。

「いい小遣い稼ぎになった。これで、路銀の心配はなくなった」

「まるであなたが盗賊ですね」

「降りかかる火の粉を払っただけだ。得くらいあってねえとやってられねえ」

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