新垣しま子のナンセンス手帳

相沢 たける

第一話

 オレンジ色のそばかすのような天ぷら粉を舐め回して、佐藤はハチドリの踊り子を任すことに忠義する。いそいそと焔のおぼつかない勢いで、マチュピチュの東側の叔父と再会する。猛烈な朝日と夕日を浴びて召し使い座をオランジーナを飲みながら堪能する。もうじきホワイトチョコレートが焼き上がる時間なので、紫色のホタテ貝の頂点をめがけて射殺する。行進が終わったみたいなので、佐藤たちは健康の途上を歩いた。これがニューヨークですかぁ。佐藤は何となくそう呟いた。そう、たしかそうだった。今日も一日が過ぎ去っていく。私の記憶の中では、だけどな。


 ただの暇潰し以前の万華鏡。用心棒の芝刈り機はどこにあるのか。佐藤は泣きそうだった。どうしてそんなことをしたのかと聞かれた。モイスチャーと水とウォーターとアクアを足して二で割るような愚行を犯した。佐藤は、ついに自分が犯罪者になってしまったか、と呟きかけて、オランジーナを飲み干した。私は懐かしい心境さ。


 メレンゲとクチナシとおでんの大根はおんなじ味だと彼らは主張するが、佐藤にはとてもじゃないが理解できそうになくはない。五目並べをした七並べたちはやんわりとそれを断った。なぜならポーカーをしたかったからだ。文字を引き算すると文が出来上がる? 佐藤はそれが逆だと思ったに違いなくはない。果たして言葉とはなんなのだろうか? それは英語であり中国語でありみたらし団子なのである。石膏像を模したおばさんが笑ったよ。佐藤はとても嬉しくなった。バンザイ。ほら、みんなで、バンザーイ。いい気分だな。やっぱり大根だけは違う味だ。


 ブラックマンデーがやって来てゴールデンサンデーが到来して、やっぱり佐藤君に聞くのはとても面倒くさいし洒落臭いしおっさん臭いので、止めた。でも気になったので佐藤に問いただした。すると佐藤はこういった。「……」あれ、なんだっけ、忘れちまったぜ。


 冒険者になりたくなったらいつでもここに来なさいと六本指と二本の唇があるおじちゃんに言われた。そして佐藤は政治家になった。そして佐藤の親友はプロサッカー選手としてユーチューバーデビューした。誕生日おめでとう。ありがとう。そういや昨日ネッシーを見た。佐藤はそれを殺した。なんて奴だ。私は愛想尽かして家出したやったさ? 行き先はどこかって? 住所は恥ずかしくて言えないなぁ。


 私の交通事故はその日に起こったような気がするし、明日起こったような気がするが、今こうして生きているので関係がない。餅は餅屋だ。轢かれる前に霊体となった私が私を空に引きずり上げればそれで万事解決、バンバンジーと、ミシガン州とアイスランドと今日の私。


 喫茶店で一服するモッツァレラと私とヒマワリの種がどうかした? 闇ほどのオリンピックで開催地は太平洋とその他諸々だ。私はインドネシアが大好きなんだ。ロッククライマーと少林寺拳法をかましてくる大迫先生。便覧を開いて小便をしに行くと竹でできた城と遭遇して御座候と言うことです。いやぁまことに、かぐわしい朝や。


 牧場を刈り取る大鶏と雑穀米のオンパレードを遠くで聞きながら、私はオランジーナを手に眠った。起き上がるとそこはかつての日本が広がっていた。それは私の胸を打った。強く、強く。南部鉄器のような胸の痛みだったさ。私は腹を抱えて大爆笑して散々骨をしゃぶったあとに踊り狂った。そうだ、ニンジンへ行こう。よしんばなすびのような考え方じゃないか?


 時計塔の針と時を同じくして腕時計の針が飛び跳ねる寸前に、私はあることを思い出しそうになってかりんとうを見つけたよ。沖縄県がローマ帝国になっちまった。肝心のローマ帝国はどうやら日本になったらしい。なるほど、だからオリンピックが開催されたのか。バンザーイ。私はへそを出して風邪を引いた。大狂乱の局地的な大雨と、隣の彼女の愚行魂。リネンのタオルの邪な考えは私はとうに見破っていたが、果たして君はどうだろうか? 問いかけ自体に意味がないのかもしれないし、そもそも私が喋っている言葉自体どうやら意味がないようだ。ブルーな気持ちで数学の授業を受けに行ったけど、これは数学の教科書がたいてい青い表紙であることに起因しているのかもしれないと、佐藤は回顧録を読み上げるように述べたものだ。あの日がすごく懐かしく思えるよ。あぁ、佐藤、君があのとき、通り魔に襲われなければ今ごろ私の隣に君がいたのだろう。


 学習帳を開いて呪文を唱えて、三回回って両手を拡げると、大魔神が召喚できると聞いたのでやってみたけどやっぱり召喚できなかったような気持ちで、佐藤は穴掘りを始めたらしい。まったく彼の行動理念がよくわからないのだが、私自身もわからないよ。この世は謎だらけ。ねぇ、そうだろう?


 アンチモンを抱きしめる彼女よりも桜色に染まった優雅な日々は、いつもなにごともなかったように通り過ぎていったけど、ところでオランジーナはうまいな。プラスチックで作り上げたゼリーをタルトに添えて、グミを溶かして作ったアイスクリームを髪の毛の上に載っけて、彼はなにか言っていた。ブツブツと呟いていたよ? あれはまさか、魔法の詠唱をしていたのではなかろうか。私もその手のことはどこかの本で読んだことがある。勇者の特権を使って他人の家の本棚を漁ったときだ。しかし魔神は現れるのだろうか。彼のゲーム機にはAボタンしかついてないから、「はい」しか答えることができない事実に、彼女は驚いていたけど、最初から彼女という存在は存在しなかったのだ!


 教壇に立つルクセンブルクは、穏やかな口調でこう言ってのけたのだが、彼はまったく聞いていなかった。鉛筆の芯でロケット花火と鼻提灯とコーヒーゼリーを作っていたからだ。彼曰くこれは社会という科目の実験らしい。盛り上がってきたじゃないか。私は興奮して鼻血提灯を作りながらそれを見ていたのだが、いつの間にか先生の声で眠くなってしまって、ついに落ちてしまった。どうしたことか、しばらくして顔を上げると、教室をぶち破ってきれいな花火がうち上がっているではないか。真夜中に花屋よりもきれいな花が咲いては、風に流されて溶けていく。まるで夏の日の光景じゃないか。今は冬だぞ。と思ってる隙から隣の教室で火事が巻き起こっている。たいへんだ、逃げなきゃ! ……は、なんだ夢か。


 もつ鍋煮込みとその他大勢とグリンピースを研ぎ石で研ぎながら、文字遊びをしていた。モルタルで固めた暮石のように、私がすっかり身動きが取れずにいると、虫取り網を持った彼が近付いてきてこう言うのだ。「雌雄同体だぞ」どうして私の性別を知っているんだ!


 ペッパーがショウガだって言うのは嘘に決まっている! ショウガはショウガでも、食べられないショウガをペッパーとは言わないのだ! タマネギと似ているからと言って、ペッパーはペッパーではなく、花子さんは決してペッパーとショウガの見分けがつかないわけではない!


 ドクターイエローの言葉を引用すると、錬金術師はかつてスライムを作っていたらしい。なんでも研究に疲れて遊びたいときに遊べる玩具が必要と言うことで、ゴールドそっちのけでスライムを作成したらしいのだ。すると失敗作ができてしまい、それが草原に逃げ出して、しまいにゃ勇者のエサとなってしまったのだ。これ、なんたることか。因果応報、大同小異。違う、大なり小なりか。ミカン色の夕暮れに、一筋の風が吹き去った。


 モンブランよりもチョモランマの方が目立つ。ベルマークを集めるブロンドの少年は、いったいなにを思っているのだろうかと気になることがある。そう、チョモランマとモンブランはどっちの方が好みかという問題だ。裸足で玄関を飛び出して、是非聞いてみたいものだ。


 マスタード用のケチャップとパセリ色の憧れが光り輝く刹那、ひん曲がったおばあちゃんが脇を歩いてきた。アーユー、そば、オア、うどん? 私は鯛焼きでもお好み焼きが大好きです。もろこしのような粘土をした飯を食べて、色々あったんだなぁと佐藤は悟った。


 ジャイロボール的な価値観を振り回す人事担当の娘婿は、社長令嬢となにかトラブルを起こしたみたいだが、佐藤には関係のないことだと思われたので、セントラルパークに逃げ込んでそのことを叫んでやった。野良犬が吠えた。散歩中の老人は腰を折りながらこちらを向き、お好み焼きが大好物な老婆は今日もいい天気だわと呟いたそのとき、広場の噴水は水の量を増して津波のようにベンチを呑み込み、風船売りのワゴンを押し流した。佐藤は神にでもなったように両手を拡げ、私はついに世界を征服するまでに力を増幅させてしまったのだと、嘆きと喜びが半々になった感情で、天を仰いだところ、なんと青空には古代文字が刻まれていた! 佐藤はついに暴走した自分を止めるための使者が来たのだと悟ったが、古代文字は言わば呪文であり、佐藤を止めるためではなく佐藤に協力するために現れたのだ。佐藤は決めポーズをひとつ、漆黒のサングラスを掛けたカメラマンに向かって決めてやった。そう、世界は彼とカメラマンの手に収まってしまったのだ。


 とかいう冗長な妄想を昼下がりの公園でしていた佐藤は、目覚めたときこれが夢だとは理解できなかった。なぜなら彼の足下に水が、まるでマンホールをぶち壊したみたいに波打っているではないか。どういうことだ。とっさに声が出なくなった佐藤は、ふいに隣の席にカメラマンが座っていることに気がついた。佐藤はカメラマンの額をペチンと叩いて、サングラスを容赦なく外して問いかけた。「ホワッツハプン?」


 

 ん、と顔を引っぺがして教室じゅうを見渡すと、おや、みんな座席に着いて私をまじまじと見つめてやがる。見るんじゃねぇよ。私が一睨みすると、彼らは体を縮こませた。ったく、べつに怒ってるわけじゃねぇよ? ただちっとばかし恥ずかしいだけさ。私はテレビの前でぷるぷると震えている、二十四歳の国語女教師に手をひらひらさせて、堂々の着席を決めた。と同時に、私の机に立てかけてある木刀がカタカタ揺れた。おっとと、倒れちまう。


 なかなか出来は悪くないと思う。少なくとも、この授業が終わったときでもちゃあんとラストは覚えているくらいには話としてまとまったんじゃねぇかな。あぁ、もちろん授業は受けるよ。ラストよりもテストが大事だからな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る