ルービックギュウブ

 机に向かって冬休みの宿題をしながら、ぼくは爺ちゃんが来るのを今か今かと待ちわびていた。

 去年は、鼠年だからとディズニーランドを一日貸し切りにしてくれたおかげで、全部のアトラクションで遊べたんだ。

 今年はどんな"お年玉”をくれるのかなあ。

 なんせ爺ちゃんは、木間暮市一のお金持ちなんだから。


 モ〜


 外から鳴き声が聞こえた。

 部屋の窓から顔を出して見ると、庭の真ん中で紋付袴姿の爺ちゃんが、大きくて四角い牛と並んで立っていた。

 その横には、牛の体よりも大きな御椀が置いてあった。

 「おお、ヒコ坊、あけましておめでとう。達者だったか?」

 爺ちゃんが、こっちを見上げて言った。 

 「うん。あけましておめでとう、爺ちゃん」

 「間に合ったかな、丁度おやつの時間じゃろ」

 部屋の時計を見ると、針は三時を指していた。

 「こっちに来なさい。おやつ兼お年玉だよ」

 おやつけんおとしだま? なんだそりゃ?

 まあいいや、訊いてみればわかるし。

 「うん、ありがとう。今行くね」

 階段を下りると、玄関でママとパパが話をしていた。

 「あなた、お義父さん今度は何持ってきたの?」

 「うん、あれはルービックギュウブというものらしい」

 「ルービック……ギュウブ? キューブじゃなくて?」

 「ギュウブで合ってると思う。本来は"牛ブ”って書くらしい。でも、色を揃える点は同じということだ、形も四角いしね。とにかく行ってみよう」

 三人で庭に出てみると、爺ちゃんが白黒模様の体を撫でながら、牛を御椀の上に乗せようとしていた。

 「あけましておめでとうございます。お義父さん」

 「あけましておめでとうございます。お父さん。で……どうするつもりなんですか?」

 パパが訊くと、爺ちゃんはモフモフした口髭を揺らしながら笑って

 「あけましておめでとう。わからん」

 と答えた。

 「爺ちゃん、牛さんの鼻輪、変わった形をしてるね。知恵の輪みたいに二つ繋がってる」

 「おお! そうじゃ、この鼻輪は知恵の輪そのものだ! これを外せば何か起こるはず……だったかなあ」

 「なら簡単だ。ぼく得意なんだ、これをこうして……ほらね」

 輪を外すと、牛の模様が動きだして、右側と左側にハッキリと別れた。

 そして、白い右側の部分がビシャっと崩れて御椀の中に溜まった。

 「あら!」

 「おう!」 

 ママとパパが驚いて声をあげた。

 「ほほう、輪が解けて牛も溶けたの」

 爺ちゃんが感心したように髭を撫でた。

 ぼくは、御椀に鼻を近づけて匂いを嗅いでみた。

 「この白いの、ミルクだね。牛だからかな」  

 それから少しすると、左側の黒い部分もプルプルと崩れ落ちて、御椀の中でミルクと混ざった。


 こうしてぼくは、おやつ一年分のコーヒーゼリーを手に入れた。


(了)


初稿:ショートショートガーデン:2021/2/22

 

 

 

 


 

 

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